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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第4章 ──「カイトと、純粋な誓い(前編)」

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第2話 ──「水の国の、王女さま」


 現れたのは、一人の少女だった。


 海の底のように深く澄んだ、碧い髪。それが窓から差す光を受けて、さらりと揺れる。


 そして、吸い込まれそうなほど大きな瞳が、まっすぐにこちらを見ていた。



 部屋の空気が、一瞬で変わった。


 カイトの、いつもは半分閉じている眠たげな目が――大きく見開かれた。


 あくびの抜けかけた口が、ぽかんと開いたまま止まる。


 気だるげな視線が、無言のまま、少女の姿を追っていた。




 「この方は」




 パウルが、めずらしく背筋を伸ばして言った。




 「アクア・ヴィータ王国の王女、スイ姫だ」




 その名乗りに、先輩守護者たちが弾かれたように姿勢を正す。


 慌ててビシッと敬礼するその音が、部屋に重なって響いた。




 「レガリスの守護者の皆さん、はじめまして」




 少女が、柔らかく微笑んだ。




 「アクア・ヴィータ王国から、勉強のためにレガリスへ来ております。スイ・クレールと申します」




 深々と腰を折る、丁寧なお辞儀。だがすぐに顔を上げ、彼女はくすりと笑った。




 「あ、そんなにかしこまらないでください。王女なんて言っても、わたしはまだ成人していなくて、なんの力も持っていないんです」




 その口調は、驚くほど気さくだった。




 「今は、ただのスイです。どうか、よろしくお願いしますね」




 ……これが、王族ってやつっすか



 カイトは、ぼんやりと心の中でつぶやいた。



 偉そうにするでもなく、見下すでもない。


 ただそこにいるだけで、その場の空気を全部やわらかくしてしまう。


 そんな不思議な力が、彼女にはあった。




 「それで、パウルさん」




 先輩守護者の一人が口を開く。




 「今回の任務は……このスイ姫の護衛、ということですか?」




 「そうだ」




 パウルがうなずいた。




 「スイ姫は今、視察のため我が国に来られている。だが一週間後、自国でスイ姫ご自身の『成人の儀』が行われる。明日にはここを発って、三日かけて国へ帰られる。その道中を、俺たち守護者で護衛するんだ」




 「アクア・ヴィータまで、ですか?」




 先輩守護者が、わずかに首をひねった。




 「いくら友好国とはいえ……向こうにも護衛団がいるんでしょう? それなら、十分なのでは」




 「それは、わたしから話します」




 スイ姫が、静かに一歩前へ出た。




 「……実は今、わたしの国では、よくない噂が流れているんです」




 彼女の声が、ほんの少しだけ揺れた。




 「クーデター――国をひっくり返そうとする動きです。前からあったのですが、ここ数ヶ月で動きが活発になってきて。王族の命を狙う者まで、現れました」




 「わたしが勉強のために来ているというのは、表向きのこと。本当は、国が落ち着くまで、こうして逃がしていただいている身なんです」




 「なんで、そんなことに」




 サシャが、思わずつぶやいた。




 「アクア・ヴィータは、湖の上に浮かぶ、小さな国です」




 スイ姫が、ゆっくりと続ける。




 「資源も豊かではありません。だから、もっと武力を持つべきだ、兵器を作るべきだ――そう叫ぶ過激な人たちがいるんです。でも父は……今の国王は、あの美しい景色を守るために、そういう道を選びません。それが、気に入らないんでしょう」




 「なるほどね」




 サシャが小さくうなずいた。




 「そして……ここからが、いちばん大事な話です」




 スイ姫の手が、服の裾をぎゅっと握りしめた。




 「どうやら王家に仕える者の中に――裏切り者が、いるようなんです」




 ドラゴたちが、息をのんだ。




 「機密の情報がことごとく外に漏れて、何をするにも先手を打たれる。誰が味方で、誰が敵なのか……それすら、分からないんです」




 「なんすか、それ……」




 さすがのカイトも、顔をこわばらせた。




 「それでも、わたしは帰らなければなりません」




 スイ姫の瞳に、強い光が宿る。




 「父も母も、式典の延期や国民には非公開での開催を提案してくれています。でも――一生に一度のこの日に、わたしが国民の前に姿を見せなければ、みんな不安になってしまう。だから、どうしても帰りたいんです」




 彼女は、すうっと息を吸った。そして。




 「友好国であるレガリスが誇る、守護者の皆さんにお願いします」




 深く、深く、頭を下げた。




 「どうかわたしを、無事にアクア・ヴィータのお城まで送り届けてください。報酬は、きちんとお支払いします!」




 誰も、すぐには声を出せなかった。


 自分たちと、そう年の変わらない女の子。その小さな身体が、国民のために、自分の命を懸けて、頭を下げている。



 その姿に、ドラゴたちは、ぐっと胸を打たれた。




 「頭を上げてください、スイ姫」




 パウルが言う。




 「そういうことだ。お前たちには――」




 「当たり前だお姫様!」




 パウルの言葉を、ドラゴの大声が遮った。




 満面の笑みで、拳を掲げる。




 「オレたちが必ず、無事に送り届けてやるぜ!」




 「ちょっ……うるさい!」




 サシャが慌ててドラゴの脇腹を小突いた。




 「あと、失礼でしょ! 相手は王女様なのよ!?」




 スイ姫は一瞬きょとんとして――それから、ふふっと声を立てて笑った。



 パウルが額を押さえつつ、苦笑する。




 「まあ、馬鹿が一人いますが――安心してください。こいつらも、一応は立派な守護者ですから」




 それから、パウルは一人の先輩守護者へ視線を向けた。




 「レンジ。お前に、今回の隊長を命じる。必ず、お姫様をお守りしろ」




 「了解しました」




 レンジと呼ばれた男――背に大きな翼をたたんだ、鳥人族の守護者が、静かに頷いた。




 「この命に代えても、必ずやお守りします」




 ぴりっと、部屋の空気が引き締まる。




 その時、カイトが小声でこぼした。




 「……そんな重大な任務、おいらたちで大丈夫なんすか?」



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