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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第3章 ──「グレンと、ほどけた鎖」

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第9話 ──「四人で、貫けばいい」


 土煙が、晴れていく。


 その向こうから、ゆっくりと、姿を現した。



 巨大な、イノシシの魔獣だった。


 家屋よりも大きな体躯。


 背には鉄板のような剛毛が幾重にも重なり、額からは、禍々しい二本の角が突き出している。


 目は、血のように赤い。群れを狩られた怒りで、ぎらついていた。



 その巨体が、一歩、踏み出す。


 ずん、と地面が揺れ、割れた石畳が跳ねた。


 ただ歩くだけで、大気が震える。




 「……でかいニャ」




 屋根の上のミーナが、思わず声を漏らす。




 「あれが、群れの頭か……!」




 グレンが、槍を構え直す。



 魔獣が、咆哮を上げた。


 空気を引き裂く轟音。


 その衝撃だけで、四人の足元が、びりびりと痺れた。




 「来るぞ!」




 ドラゴの号令と同時に、魔獣が突進する。



 地を砕きながら迫る巨体。


 ドラゴが横合いから、渾身の一撃を叩き込んだ。




 「『竜の爪(りゅうのつめ)』!」




 赤い斬撃が、剛毛の背を打つ。


 甲高い金属音。火花が、散った。



 だが——刃は、わずかに食い込んだだけ。分厚い毛皮に、弾き返される。




 「くっ……硬えっ!」




 トジの魔弾が、横っ面を連打し、ミーナの双短剣(ツインダガー)が、脚の関節を狙う。


 だが、どれも、決定打にならない。


 魔獣は煩わしげに首を振り、太い脚で薙ぎ払うだけ。




 「効いてない……! あの毛皮、まともに攻撃が通らないよ!」




 トジの声に、焦りが滲む。



 魔獣が、再び暴れ出す。


 振り回される巨体に、四人は距離を取るので精一杯だった。



 攻めあぐねる。


 誰の攻撃も、あの一枚の鎧を、貫けない。



 場に重たい空気が流れかけた、その時。




 「大丈夫だ!」




 グレンの声が、響いた。



 汗だくで、息を切らしながら。それでも、その顔は、笑っていた。




 「一人じゃ、あの鎧は貫けない。だったら——四人で貫けばいい」




 迷いのない瞳が、三人を捉える。




 「自分が、全部を背負おうなんて、もう思わない。……みんな、力を貸してくれ!」




 ドラゴが、にっと笑った。




 「へっ、この隊の隊長はお前だぜ! あたりめえじゃねえか!」




 「うん、もちろんだよ!」




 「アタシも、いつでもいけるニャ!」




 グレンの頭の中は、澄み切っていた。


 もう、その選択に迷いはない。




 「トジ、ミーナ! あいつの動きを止めてくれ。ほんの一瞬でいい!」




 「わかった!」




 「まかせるニャ!」




 トジが地を駆け、魔獣の正面へ回り込む。


 二丁の魔銃が、火を噴いた。




 「『銃連弾(じゅうれんだん)』!!」




 目、鼻、口。急所を狙った牽制弾が、魔獣の視界を、正確に潰す。


 魔獣が、たまらず、そちらへ意識を向けた。その、隙。




 「今だニャ! 『斬り猫(きりねこ)』!」




 ミーナが、一気に地を駆ける。


 鋭さを増した双短剣(ツインダガー)で、魔獣の脚を切り刻む。


 深くは通らない。


 だが、刻まれた痛みに、巨体がぐらりと傾いだ。



 足が、止まった。




 「ドラゴ! 二人で、一気に叩き込むぞ!」




 「よっしゃあああ——いくぜ!」




 二人が、同時に動き出す。



 ドラゴが地を蹴り、魔獣の頭上、はるか高くへと跳び上がった。


 落下に転じながら、大剣の切っ先を、真下の魔獣へと向ける。



 グレンは、槍を振りかぶる。


 穂先で、真紅の炎が、轟と渦を巻く。空気が歪むほどの、凄まじい熱。


 グレンの槍から、真紅の炎が解き放たれた。




 「『紅蓮炎武(ぐれんえんぶ)』!!」


 


 魔獣へと迫る炎。


 だが、その炎は、跳び上がったドラゴの背を追い、彼の大剣『赤竜剣』へと、吸い寄せられていく。




 「うおっ、こいつは!」



 サシャやトジのときと、同じ感覚。


 仲間の力を喰らった刀身が、みるみる赤熱していく。


 真紅の炎が刃を這い上がり、大剣が、太陽のように燃え上がった。



 落下の勢いと、紅蓮の灼熱。二つの力が、一振りへと束ねられる。




 「うおおおおおおっ!」




 ドラゴが、咆哮を上げた。全身全霊を、その一撃に込めて。




 「喰らえっ——『炎竜の牙(えんりゅうのきば)』ッ!!」




 燃え盛る大剣が、魔獣の脳天へ、垂直に叩き込まれた。



 剛毛が、触れる前から焦げていく。


 刃を弾いたはずの鋼の毛皮が、紙のように裂けた。


 竜が、獲物に牙を突き立てるように——巨体を、真上から貫いていく。



 凄まじい衝撃が、大地を揺らした。


 真紅の炎が爆ぜ、土煙が天高く舞い上がる。


 熱風が、通りを吹き抜けた。



 しばらく、誰も動かなかった。


 やがて、ゆっくりと、煙が晴れていく。



 そこには——脳天から裂け、完全に動かなくなった、魔獣の巨体が横たわっていた。


 ぴくりとも、しない。




 「……やったか?」




 ドラゴが、炎の消えた大剣を担ぎ、荒い息を吐く。




 「やったね」




 トジが、魔銃を収めながら、ふっと笑った。




 「にゃはは、やったニャー!」




 ミーナが、ぴょんと跳ねて、両手を突き上げる。


 グレンは、槍を地に突き、肩で息をしていた。汗が、ぼたぼたと滴る。


 全身、くたくただった。けれど、胸の中は、不思議なくらい澄んでいた。



 一人では、絶対に倒せなかった。


 四人の力が、一つに重なったから——勝てた。



 完璧に、一人でやる必要なんて、なかったのだ。


 その当たり前のことが、今は、どうしようもなく、嬉しかった。




 「グレン!」




 ドラゴが、笑って、拳を突き出してくる。


 グレンは、少し驚いて——それから、笑って、自分の拳を、こつんと合わせた。



 汗まみれの顔で、四人は、笑い合っていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

第3章も次話で最後です。

引き続き、お楽しみください。

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