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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第3章 ──「グレンと、ほどけた鎖」

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第10話 ──「あなた、らしく」


 夜が、明けていく。


 東の空が白み、朝日が、傷ついた街を優しく照らし始めた。



 魔獣は、すべて討伐された。


 壊れた家、ひっくり返った露店。


 傷跡はあちこちに残っているが、それでも、人々は動き出していた。



 片付けをする者、家族の無事を確かめ合う者。


 あちこちで、安堵の声が上がっている。



 グレンたちは、東門を守り抜いた先輩守護者たちと、無事に合流していた。




 「よくやった。お前が指揮を執った隊のおかげで、住民に、死者は一人も出なかった。……大したもんだ、グレン」




 「いえ。みんなの、おかげです」




 グレンは、そう言って、はにかんだ。


 その顔に、もう昨日までの影はない。



 任務は、完了した。


 あとは、王都へ帰るだけだ。


 装備を整え、部隊が、帰路につこうとする。



 その時だった。




 「グレン」




 声に、振り返る。


 少し離れた石畳の上に、母親が、一人で立っていた。



 グレンの肩が、反射的に、わずかにこわばる。


 また、何か言われる——そう身構えた、その時。




 「……怪我は、ないの?」




 グレンは、目を見開いた。



 その声には、昨日までの、冷たく突き刺さるような響きがなかった。


 震えていた。


 心から、我が子を案じる、母の声だった。




 「け、怪我は……ありません。大丈夫です」




 「……そう。よかった」




 母親の肩から、ふっと、力が抜ける。


 その目元が、朝日のせいだけではない赤さで、潤んでいた。



 後ろで見ていたドラゴとトジが、思わず顔を見合わせる。


 あの、氷のように冷たかった人が——。



 しばらく、母親は、言葉を探すように、俯いていた。


 やがて、意を決したように、口を開く。




 「グレン。……ごめんなさい」




 「え……」




 「あの人が——あなたの父さんが、亡くなってから。わたしは、ずっと、家のことばかり、考えていた。スザクの名を、守らなければ。優秀な子に、育てなければ、と」




 声が、揺れる。




 「そうやって、名前ばかりを見て……あなた自身のことを、ちっとも、見ていなかった。あなたが、何を思って、何がつらいのか。一度も、目を向けようと、しなかった」




 母親の手が、きゅっと、握りしめられる。




 「あなたを追い詰める言葉を、それがスザク家にとって、あなたにとって正しいことだと、思い込んでいた。……わたしが、あなたの笑顔を、奪っていたのに」




 顔を上げた母の頬を、涙が、伝っていた。




 「本当に……ごめんなさい。もう、家のことなんて、気にしなくていいの。スザクの名より、あなたのほうが、ずっと大事。……あなたは、あなたらしく。どうか、元気にやりなさい」




 その瞬間。


 グレンの中で、長いあいだ、彼を縛り続けていた鎖が——ほどけていくのが、分かった。



 完璧に。泥を塗るな。


 ずっと、耳の奥で鳴り続けていた、あの声。


 それが、母の一言で、溶けていく。



 目頭が、熱くなる。


 堪えようとしても、堪えられなかった。


 大粒の涙が、頬を伝って、落ちていく。



 それでも、グレンは、笑った。


 涙を流しながら、これまでで一番、晴れやかな笑顔で。




 「……はい、母上」




 子供の頃に、忘れていた笑顔だった。



 母親は、それを見て、堪えきれずに、両手で口元を覆った。


 指の隙間から、涙がこぼれる。けれど、その顔は、確かに笑っていた。




 「行ってきます、母上。……また、帰ります」




 母親は、何も言わず、ただ、静かに頷いた。


 その顔は、最後まで、優しかった。



 母に背を向け、グレンは、ドラゴたちのもとへ駆けていく。


 その足取りは、来た時よりも、ずっと軽かった。




 「おかえり、隊長!」




 「お疲れさま、グレン」




 「よかったニャー、グレン!」




 仲間たちが、温かく迎え入れる。


 その輪の中へ、自然に、溶け込んでいく。




 「はい。……ご心配、おかけしました。皆さんのおかげで、母とも、ちゃんと話せました」




 グレンが、頭を下げる。


 その言葉に、ドラゴが、ふと片眉を上げた。




 「……ん? なあグレン。お前、なんかまた、喋り方が硬くなってねえか? 昨日は『任せてくれ』とか、もっとこう、砕けてただろ」




 言われて、グレンは、少し照れたように、頭をかいた。




 「ああ……。あれは、その、夢中で。気持ちが昂って、いつもと違う喋り方になっていたみたいです」




 「なんだよ、それ。せっかくいい感じだったのによ」




 ドラゴが、口を尖らせる。




 「でも」




 グレンは、ふっと、穏やかに笑った。




 「やっぱり、自分は、このほうが落ち着くんです。……これが、自分なので」




 自分らしく。気負いも、強がりもない。


 ただ、素のグレンだった。




 「ぷっ……いいニャ、それで!」




 ミーナが、噴き出して笑う。




 「うん。グレンが、いちばん自然でいられるなら、それが一番だよ」




 トジも、優しく頷いた。




 「へっ、まあ……お前がそう言うなら、いいけどよ」




 ドラゴが、渋々といった顔で、それでも、笑っていた。


 朝日が、肩を並べて歩く四人を、明るく照らしている。



 もう、家の名前には縛られない、一人の守護者、グレンとして——


 彼は、仲間たちと、笑い合いながら、歩き出していた。



第3章も最後まで読んでいただきありがとうございました。

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