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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第3章

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第3章 - 第8話


 牙が、爪が、いくつも、迫る。



 ドラゴが、とっさに大剣を引き戻そうとする。だが、間に合わない。


 その、刹那だった。




 「——ドラゴ!」




 グレンは、すでに地を蹴っていた。


 迫る獣の群れと、ドラゴの背。その狭間へ、槍を構えて割り込む。



 穂先に、炎が灯る。


 いつもの、朱色。スザク家秘伝の炎。



 だが、その名を口にしかけて——グレンは、目を閉じた。



 頭の奥で、あの声が囁く。完璧に。スザクの名に恥じぬように。


 いつもなら、この声が手を縛った。



 だが、今は違う。ミーナの声が、仲間の存在が、それを、優しく塗り替えていた。


 ——力を、抜いていい。笑って、いい。



 グレンは、目を開いた。




 「……自分は、もう、家には縛られない」




 槍を握る手に、力が満ちていく。けれど、強張りではない。


 熱だ。胸の奥から込み上げる、自分だけの熱。




 「自分は——グレン。人々を護る、一人の守護者だ!」




 その瞬間。


 穂先の炎が、色を変えた。



 慣れ親しんだ朱色が、内側から燃え上がる。


 渦を巻き、やがて——目を焼くような、真紅へと変わっていく。


 荒れ狂うのではない。研ぎ澄まされた刃のように、鋭く、静かに。




 「『紅蓮炎武(ぐれんえんぶ)』——!」




 槍を、振り抜いた。


 真紅の刃が、迫る獣の群れを、一息に薙ぎ払う。


 敵だけを、正確に焼き尽くし、ドラゴや周りの民家には、火の粉ひとつ届かない。



 群れが、まとめて弾き飛ばされ、地に伏した。


 ドラゴが、目を見開く。




 「……お前、それ」




 「すまない、遅くなった」




 グレンが、槍を引いて、にっと笑った。


 汗を光らせながら、けれど、その顔に強張りはない。




 「後ろは、任せて!」




 「……はっ。上等だ!」




 ドラゴが、笑って、大剣を握り直す。


 二人は、背中を合わせた。



 グレンの真紅の炎が群れを焼き払い、ドラゴの大剣が、そのあいだを縫って敵を砕く。


 トジの弾が死角を潰し、ミーナが宙から陽動をかける。



 新たな炎は、仲間を護るための、鋭い一閃となって、戦場を駆けた。



 ——その戦いを、避難する住民の中から、じっと見つめる者がいた。


 グレンの、母だった。



 彼女は、立ち尽くしていた。


 真紅の炎を操り、迫る獣を薙ぎ払っていく息子。


 だが、彼女の胸を打ったのは、その力ではなかった。




 「大丈夫ですよ! みんな、こっちへ!」




 怯える人々に、そう声をかけながら——グレンは、笑っていた。


 汗だくで、息を切らしながら。それでも、周りを安心させるように、明るく。



 その顔を見た瞬間、母の記憶が、遠い昔へと、引き戻された。


 まだ、夫が生きていた頃。庭で、花を植えながら。稽古のあと、駆け寄ってきて。


 あの子は、いつも、あんなふうに、笑っていた。




 ……いつから




 いつから、あの子の、あんな笑顔を見ていなかっただろう。



 夫を失い、家を護らねばと、必死だった。


 優秀な兄たちと比べ、完璧であれと、そればかりを言い続けて。




 ……あの子から、あの笑顔を奪ったのは——




 厳しく結ばれていた口元が、小さく、震えた。



 完璧な守護者に。スザクの名に恥じぬように。


 そう言い聞かせるばかりで、自分は一度でも、あの子のことを気にかけただろうか。



 母は、そっと、口元を手で覆った。


 滲んだものを、拭うこともせず、ただ、立派に戦う息子の背中を、見つめていた。



 戦況は、確かに、こちらへ傾いていた。


 群れは数を減らし、住民の避難も、ほとんど終わっている。


 あと少し——誰もが、そう思った、その時。



 地の底から響くような、重い音が、大地を揺らした。


 咆哮とも、地鳴りともつかない、異様な低音。空気が、びりびりと痺れる。



 ドラゴの顔から、笑みが消えた。




 「……おい。まだ、終わってねえみたいだぞ」




 崩れた家屋の、さらに奥。


 立ち込める土煙の向こうで、何か、巨大な影が、ゆっくりと起き上がろうとしていた。



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