第1章 - 第3話
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白竜麺を平らげ、おかわりまで頼んだドラゴ。
のんびりしているとリコイがふと、暖簾の向こうへ目をやった。
「……トジのやつ、遅いな」
「そうなのか?」
「ああ。あいつの足なら、とっくに戻ってる距離なんだがな」
ドラゴは箸を置いて立ち上がる。
「暇だし、ちょっと見てくるよ」
暖簾をくぐると、街はすっかり夕暮れとなっていた。
近くを歩いていると広場の方から、子供の泣き声が聞こえた。
ドラゴは、駆け出した。
広場に着くと人だかりができていた。
その中心には、地面に座り込んで泣きじゃくる女の子。その前に、庇うように立つトジ。そして、二人と向かい合うように、図体のでかい男が三人。
遠巻きに、街の人間が様子を窺っている。
「誰か、守護者呼んでこいよ……」
「関わりたくねえよ、あんな連中に」
そんな声がするが、誰も一歩を踏み出そうとはしない。
トジの声が響いた。
「だから、この子もちゃんと謝ってるだろ!? こんな小さい子ども相手に、恥ずかしくないのかよ!」
先頭の男が、薄く笑う。
「俺はなあ、差別のない、平等な世界ってやつを目指してるんだ。女だろうが子供だろうが、関係ねえ。そっちが先にぶつかってきた以上、けじめはつけてもらわねえとな」
言葉だけ聞けば、立派だ。だがその瞳の奥は、ぞっとするほど冷えていた。
「……それの、どこが平等だよ」
トジが拳を握る。
「差別のない世界ってのはな、誰もが笑って暮らせる世界のことだろ!」
「はっ。方向性の違いってやつだ。関係ねえ奴は、引っ込んでな」
男が、抱えていた太いこん棒を、無造作に振り上げた。
トジと女の子の頭上へ、それが落ちてくる――
ガキンッ!
鈍く、重い金属音。
振り下ろされたこん棒は、横から滑り込んだ赤い大剣に、真っ向から弾き返されていた。
「ドラゴ……!」
ドラゴは大剣を肩に担ぎ、にっと笑う。
「トジ! その子はオレに任せろ! あんな奴ら、やっちまえ!」
一瞬、トジの目が見開かれた。
魔力がない自分に対し、なんの躊躇いもなく戦えると信じてくれた。
その意味が、胸の奥にじわりと熱を灯す。
「……ありがとう、ドラゴ!」
トジは、腰の左右から二丁の拳銃を引き抜いた。
銃身が、周囲の空気を吸い込むように低く唸る。目に見えない魔力が、二つの銃口へと圧縮されていく。
次の瞬間、トジの姿が消えた。
いや、消えたように見えた。石畳を蹴り砕く、乾いた音。
地を這うような低い姿勢から、まっすぐ三人へ突っ込んでいく。
「な――速っ……!?」
男たちがこん棒を振り下ろす。
だが、当たらない。
トジは、その巨体の間を紙一重ですり抜けていく。
魔力で身体を強化したわけじゃない。
出前で鍛え抜かれた脚と体幹、そのバネだけで、トジは重力すら忘れたように跳んだ。
「すっげえ……!」
ドラゴは、思わずその光景に見とれていた。
広場の噴水の縁を蹴る。木の幹を駆け上がる。街灯の柱を支点に、空中でくるりと身を翻す。
三人の視線が、まるで追いつかない。
「ど、どこだ……どこにいやがる!」
そして、頭上、背後、あらゆる方向から、トジが二丁の銃口を突きつけた。
「――『銃連弾』!」
光の弾が、四方八方から襲い掛かる。
響き渡る破裂音。そして光の軌跡が、広場を縦横に走った。
「ぐあっ!」
男たちは弾を防ぎきれず、何発も身体に受ける。
一発一発の威力は大したことないが、確実にダメージを与え、やがて、なすすべもなく膝から崩れ落ちる。
「く、くそ……っ、やりやがったな……!」
一人がこん棒を杖代わりに、よろよろと立ち上がる。
「こうなったら、こっちも本気で……」
「――おい! お前ら、そこで何をしている!」
遠くから、鋭い声が飛んだ。広場の入り口に、守護者らしき人影が見える。
男たちの顔色が、さっと変わった。
「ちっ……ここで目を付けられるのは良くないな。行くぞ」
捨て台詞を残し、三人は転がるように逃げていった。
静かになった広場。トジが女の子に駆け寄り、その頭をそっと撫でる。
やがて両親らしき人影が、泣きながら娘を抱き上げていった。
ドラゴとトジは、肩で息をしながら、どちらからともなく顔を見合わせる。
そして、ふっと噴き出した。
「お前、マジですごいな! めちゃくちゃ強えじゃねえか!」
「そんなことないよ。ドラゴこそ、あの重そうなこん棒を軽々と受け止めてたじゃない」
「あのくらい余裕、余裕。それより――」
ドラゴは、トジの持っている拳銃を指さした。
「その拳銃、どうなってんだ? 魔力を撃ってなかったか?」
するとトジは持っていた二丁の拳銃をドラゴに見せた。
「実はこれ、魔具なんだ。空気中の魔力を吸い込んで、圧縮して、弾にして撃ち出してくれるんだよ」
「へえ、そんな魔具があんのか」
「魔力のない僕でも使える、大切な相棒で……僕の、お守りなんだ」
「お守り?」
「うん。昔、商人だった父さんと母さんが旅をするときに、護身用に使っていたものなんだ。だから父さんと母さんが護ってくれてる感じがして……」
するとドラゴが、トジの肩にがっしりと腕を回し、顔を近づけてニッと歯を見せた。
「へへっ、そりゃ最強のお守りだな!」
「ありがとう!」
二人は、どちらからともなく拳を突き合わせた。
「なあトジ」
ドラゴが笑う。
「二人で最強の守護者になろうな」
「……うん!」
暮れきった空に、一番星が瞬いていた。




