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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第2章

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第2章 - 第10話


 もうもうと立ち上る土煙が、ゆっくりと晴れていく。



 これ以上ない、会心の一撃を撃ち込んだ。


 あれで、倒れていないはずがない。


 誰もが、そう信じていた。



 しかし――。


 煙の向こうに、影が立っていた。



 ボロボロに焼け焦げた衣服。


 額には、新たに刻まれた大きな傷。


 ――それでも、リーダー格の男は、倒れていなかった。


 仁王立ちのまま、静かにこちらを見据えている。




 「う、嘘でしょ……あれでも、倒れないの……?」




 シエルが絶望に震える声でつぶやく。




 「もう……無理っすよ、あんなの……」




 カイトの声も力なく掠れる。


 戦場に再び、絶望が降りてこようとした。


 

 その時だった。




 「――まだだよ!」




 渓谷の静寂を切り裂いて、声を張り上げたのは、トジだった。


 傷だらけのボロボロの体で、それでも銃を構え直す。


 瞳の光は、失われていない。




 「まだ終わってない! もう一回だ! みんな……!」




 その声に、俯きかけていた仲間たちの顔が、ぐっと上がる。


 ドラゴが、にやりと笑って、大剣を握り直した。




 「おう。何度でもやってやるよ」




 もう一度、十人が、立ち上がろうとした――その瞬間だった。




 「――そこまでだ!!」




 野太い声が、渓谷を震わせた。


 声とともに、馬車の後方でそびえ立っていた巨岩が、内側から弾け飛んだ。


 瓦礫を撥ね飛ばし、その下から姿を現したのは。




 「パ、パウルさん……!?」




 あの巨岩の下敷きになったはずのパウルだった。


 パウルは、土埃を払いながら平然と立っている。


 その肉体には、傷一つ見当たらない。



 完全に言葉を失う十人。


 さらに、彼らの目の前で、信じられない異変が起きた。


 地に倒れていた賊たちが、一人、また一人と、むくりと起き上がり始めたのだ。


 そして、おもむろに、顔と身体を覆っていた布を取り去った。



 その下から現れたのは――今日から自分たちも身に着けている、あの銀糸の刺繍が入った、黒い守護者のマントであった。




 「……は?」




 ドラゴの口が、ぽかんと開いた。


 賊だと思っていた男たちは、全員が、自分たちと同じ『守護者』だったのだ。



 額に傷を負ったあのリーダーが、肩をぐるりと回しながら、パウルに歩み寄る。




 「おいパウル。話が違うじゃねえか」




 その口調には、先ほどまでの冷酷さは微塵もなかった。


 呆れたような、けれど、どこか楽しげな優しい声。




 「今年の新人は、我が強そうな、個性的な奴らばかりだから、守護者としての本物の戦い方を味わわせてやってくれ、なんて言ってたが……」




 男は、ボロボロの見習いたちを見てふっと笑った。

 



 「もう立派な守護者の精神を持ってるじゃねえか! 最後の一撃なんか、本気で焦らされたぜ。もう魔力もすっからかんだ」




 パウルも、強面の口元をふっと緩めた。


 そして、呆然と立ち尽くす十人の若者たちを、ぐるりと見回す。




 「お前たち」




 低く、けれど確かな熱を帯びた声。




 「これは、最後の試験だ。本物の死線、本物の絶望でしか引き出せない――お前たちの『心』と、これから命を預けあう仲間との『絆』を見るための、な」

 



一歩、前へ。




 「俺たち守護者に求められるもの。それは、個々の力はもちろん、どんな困難な状況でも決して折れない、必ず護り抜くという『心』、そして、一人では到底乗り越えられない壁にぶつかった時こそ、仲間を頼り、ともに乗り越える『絆』。これこそが、俺たち守護者の戦い方だ」




 パウルは、まっすぐに十人を見据えた。




 「初めはどうなることかと思ったが、よくやった。これでお前たちは――正式な、俺たち守護者の一員だ」




 その一言が、静かな渓谷に響き渡った。


 その瞬間、張り詰めていた見えない糸が、ぷつりと切れた。




 「……落石も、賊も、俺が岩の下敷きになったのも。全部、仕組んだ芝居だ。悪かったな、肝を冷やさせて」




 パウルが頭を掻きながら言うと、ドラゴがその場に、大の字にどさりと寝転がった。




 「……っ、はぁ~~~!」




 シエルも、その場にぺたんとへたり込んだ。


 カイトは「もう一歩も動けねえっす……」と地面に座り込み、ミーナがその隣にころんと転がる。


 全身に、どっと疲労が押し寄せてくる。


 けれど、その表情は、誰もが晴れやかだった。



 と、その時。


 ギィ、と。傾いだ馬車の扉が開いた。


 中から、ふくよかな体を揺らして降りてきたのは――あの、要人。

 

 旅の前に、トジやサシャを罵った、あの男だ。



 全員の体が、思わず強張る。


 だが、男は、うんと両手を伸ばして大きく伸びをすると。


 ぺろっと、舌を出した。




 「いやー、お疲れさん! 馬車の中からずっと見てたが、初めてにしてはなかなか良かったぞ!」




 からりとした、実に人懐こい笑顔だった。




 「あと、嫌なこと言ってごめんな! 要人って偉そうな奴が多いからな。俺なりに再現してみたんだけど、心にもないこと言っちまった。悪かった悪かった! ……いやはや、それにしても最後は見事なもんだった」




 あまりの変わりように。


 怒りも、警戒も、すっかり毒気を抜かれて。


 十人は、ただ、ぽかんと顔を見合わせた。



 いつの間にか、渓谷の空は、夕焼けに染まり始めている。


 茜色の光が、傷だらけの十人を、そっと包み込んでいた。



第2章も残りあと1話です。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

感想なんかもお待ちしておりますので、ぜひお願いします。

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