第2章 - 第11話
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王都へ戻るころには、空はすっかり夜の藍色に沈んでいた。
昼間は賑やかな大通りも、すっかり静まり返っている。
そんな王都を、十人は、ドラゴとトジに連れられて、歩いていた。
「よし、打ち上げだ、打ち上げ!」
「トジのお店、楽しみだニャ―!」
ドラゴとミーナがテンション高く、声を弾ませる。
「……俺は、帰る。馴れ合う気はない」
あれだけの死闘をともに戦い抜いたというのに、ガロウは相変わらずだった。
くるりと背を向け、ドラゴたちとは逆方向へ歩き出そうとする。
だが。
「まあまあ、そう言うなって!」
ゴウエンが、その太い腕を、がしりとガロウの脇へ差し込んだ。
「……っ、おい、離せ!」
「観念するニャ! パウル教官も、仲間との絆が大事だと言ってたニャ!」
ミーナもガロウの反対側の腕をつかむ。
ガロウも抵抗するが、昼間の傷と疲労、何より、周りの全員がガロウを逃がすまいと、包囲網を敷き、そのまま連行されていった。
たどり着いたのは、赤提灯がぽつりと灯る小さな店だった。
暖簾には、『麺処・一里』の文字。
ドラゴが勢いよく戸を開ける。
「おっちゃん、おばちゃん! ただいま!」
カウンターに立つ、トジの父――リコイと、母――ステンカに元気よく声をかける。
「なんで、あんたがトジよりも先にあいさつすんのよ」
サシャが呆れたように呟く。
「おお、ドラゴ、トジ! 無事に帰ってきたか!」
「ただいま、父さん、母さん」
カウンターの向こうから、リコイは、息子の仲間たちをぐるりと見回すと、目を細めて、にっと笑った。
「いやあ、あんたたちがトジの仲間か! 頼りないやつだけど、よろしく頼むよ!」
リコイは父親らしい優しい笑顔で、みんなに挨拶をする。
「もう、父さん! 余計なことは言わなくていいから、早く作って! おなかペコペコなんだ」
「おう、任せとけ! うちの自慢の逸品、出してやるからな!」
リコイは双返事をすると、厨房で作業を始める。
客席では十人がわちゃわちゃと楽しそうに盛り上がっている。
「ちょっとゴウエン、もっとそっち寄ってほしいっす! おいらのスペースがなくて狭いっす!」
「すまんなカイト、でかい筋肉で。ガハハハッ!」
「ミーナさん、熱い麺ですが大丈夫ですか?」
「ニャ!? 猫の獣人のみんなが猫舌なわけじゃないニャ!」
「仲間と同じ釜の飯を食べる。これほど素晴らしい時間はないな」
「私こういうお店初めてだからワクワクしちゃう!」
「えっ? シエルって普段どういうところで食べてるの?」
「うおお! 早く食いてえ!」
「ふんっ、うるさい奴らだ」
トジは、そんな仲間たちの姿を見て、思わず笑顔がこぼれた。
数日前までは、魔力がない自分が本当に守護者になれるのか、不安で押し潰されそうだった。
でも、ドラゴと出会って、守護者になって、かけがえのない仲間と出会った。
もう、あの頃の迷いは、すっかりなくなっていた。
ほどなくして、母のステンカが、大量のどんぶりを運んできた。
ことり、ことりと、机に並べられていく。
白く濁った、濃厚なスープ。その表面で、湯気がゆらゆらと揺れている。
ふわり、と。出汁の香りが、店中に広がった。
「うわぁ……いい匂い」
全員が、ごくりと喉を鳴らす。
「これが、うち自慢の『白龍麺』よ。さあ、遠慮しないでたくさん召し上がれ!」
「「「いただきます!」」」
一斉に、麺をすすり始める。
ずるるっ――と。熱いスープと麺が喉を通り抜けた瞬間。
全身に、じんわりと熱が広がっていく。
戦いで張り詰めていた体の隅々に、その温かさが、染み渡っていくようだった。
「あっつ……はふっ、う、うまいっす……!」
カイトが、口をはふはふさせながら、食べ進める。
「ふふっ、本当に美味しい」
シエルは、上品に麺を手繰り、ほうっと息をつく。
ミーナは「おかわりニャー!」と早くも丼を掲げ、ゴウエンが「俺もだ!」と豪快に笑った。
その、賑やかな喧騒の片隅で。
ガロウだけは、腕を組み、麺に一切手をつけず、どんぶりをじっと睨んでいた。
その様子に、ドラゴがにやりと笑う。
「なんだガロウ、食わねえのか? なら、その麺――」
ひょい、と。ドラゴが、ガロウの丼へ手を伸ばした。
その瞬間。
パシンッ!
目にも留まらぬ速さで、ガロウの箸が、ドラゴの手の甲を打ち落とした。
「いてっ!?」
「……気安く、触るな」
低く吐き捨て、ガロウはどんぶりを、自分の手元へぐいと引き寄せる。
そして。
無言のまま、麺をすすり始めた。
黙々と食べ進める。いくら食べても何の感想も出てこない。
しかし、一口、また一口。その箸は、止まらない。
誰とも目を合わせず、不機嫌そうに眉を寄せたまま、あっという間にどんぶりの底まで食べつくした。
スープは、一滴も、残っていなかった。
「……ふんっ、まあまあだな」
ぼそりと、それだけ。
その様子を見ながら、隣でトジが、くすりと笑った。
外は、もうすっかり夜の闇だ。
冷たい夜風が、店の入り口の暖簾を小さく揺らしている。
けれど、このお店の中だけは、赤提灯の優しい灯りと、美味しそうな白い湯気と、最高の仲間たちとの温もりで、いっぱいに満ちていた。
そんな、ささやかで、温かい夜だった。
第2章も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
簡単でもいいので感想をいただけると嬉しいです。




