第2章 - 第9話
顔を覆う布の隙間から覗く、冷たく濁った眼差しが、トジを静かに見下ろしていた。
相手は圧倒的な強者。どう考えても勝ち目のない、そんな絶望的な状況。
――だが。
「僕は……僕たちは、守護者だ! 最後まで絶対にあきらめない!」
トジは声を振り絞って叫ぶ。
守護者としての使命を全うする――その気持ちだけは負けない。
自らを奮い立たせる。
「うああぁっ!」
トジが男に向かって、双魔銃から銃弾を放つ。
それが苦し紛れの攻撃であることは明らか。
ただ、トジは戦い続ける意思を示した。
男は再び自身の周りに暴風を発生させて、それを防ぐ。
敵の目の前にいたトジは、銃弾とともに暴風に巻きこまれて後方に吹き飛ばされる。
転がるトジ、隆起した地面に何度も叩きつけられる。
――それでも
「くそ、まだだ!」
身体中に激痛を感じながらも、トジは即座に起き上がり、再び敵へと向かっていく。
そこには、策も何もない。
ただ、仲間を、守護者としての使命を護るため、走り続ける。
すると、そんなトジの叫びに応えるように、渓谷に声が上がる。
「そうだ! ――まだ、終わってねえ!」
「ええ、そうね!」
大剣で身体を支え、ドラゴが立ち上がった。
サシャも、そして倒れていた他の仲間たちも、次々と立ち上がっていく。
全身、傷だらけ。それでも、その瞳の炎は、欠片も消えていない。
「うおおぉっ!」
ドラゴが、ガロウが、ライラが、仲間たちが、次々とトジとともに男に立ち向かっていく。
「『竜の咆哮』ッ!!」
「『百鬼夜行』」
「『紫雷閃』!」
繰り出される必殺技たち。
その衝撃に、渓谷が揺れる。
しかし、そんな攻撃も男には届かない。
吹き荒れる暴風、そして、人並外れた身体能力を前に、なす術もなく防がれる。
だが――何度、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられ、ボロボロになろうと、誰一人として諦めなかった。
力が尽きるまで戦い続ける道を選んだ。
――すると。
「ミーナ、右だ!」
「ニャ! 支援を頼むニャ!」
「私に任せて!」
自然と言葉が交わされていく。
旅の始まりにはバラバラだった十人。
何とか二人一組で形にするも、それでも敵のリーダーには届かなかった力が、ここにきて少しずつ繋がり始める。
「『百鬼夜行』!!」
右側からガロウが斬りかかる。
「『朱雀閃空』!!」
それに合わせるかのように左側からグレンが槍を突き立てる。
左右からの強力な同時攻撃に、男は高く跳び、二人を躱す。
しかし、空中では待ち構えていたかのように、宙に浮く男にミーナが攻撃を仕掛ける。
「『斬り猫』!!」
双短剣が魔力を纏い、鋭さを増す。
さらに。
「『大地の城壁』!!」
ゴウエンの技により、地面がせり上がる。
「『紫雷閃』!!」
その、せり上がる大地の足場をライラが駆け上がり、下から刃を向ける。
空中では男も避けきれないと判断し、自らの周囲に再び球体の暴風を纏う。
ミーナとライラの刃が、男の身体に届く前に暴風に防がれる。
しかし、二人は弾かれまいと、柄を握る手に限界以上の力を込める。
そこへ、サシャとシエル、カイトが地上から一斉に遠隔攻撃を仕掛ける。
「『光の槍』!!」
「『氷華の剣』!!」
「『水撃』!!」
三人の強力な遠隔魔法が男を襲う。
これまでと同様、その衝撃は暴風に防がれるが、三人は必死に魔力を放ち続けた。
至近距離での二人の斬撃と、後方から繰り出される三人の遠隔魔法。
その集中攻撃の威力に、男を護る暴風が、徐々に弱まっていく。
「何っ!?」
初めて男の声に焦りが生まれる。
「今よ、トジ! ドラゴ! いきなさい!」
サシャが鋭く叫ぶ。
「うん! ドラゴ!」
「よっしゃあああ!」
トジは銃を構え、ドラゴは地を蹴り、一直線に走り出す。
男の鉄壁の防御が、今、初めて薄くなった。
誰かが指示をしたわけでも、何か作戦があったわけでもない。
単なる偶然かもしれない。
ただ、互いの呼吸を、タイミングを、肌で感じ取って、十人の攻撃が一つに繋がった。
トジは、両手に持った二丁の双魔銃を、がちり、と連結させた。
二つの銃身が一つになる。
そして、渓谷に漂う魔力を、銃口へ。限界まで、圧縮する。
ぎゅるぎゅると渦巻く光が、膨大に膨れ上がっていく。
「くらえ! 『銃砲』!!!」
トジが力強く、引き金を引いた。
極限まで圧縮され、爆発力を溜めた、魔力の砲弾。
一直線に男に向かって放たれる。
すると――放たれた魔力が、前方を突進するドラゴの背を追い、彼の大剣『赤竜剣』へと、吸い込まれていく。
「うおっ!? こいつは……!」
あのサバイバル試験のとき、サシャの攻撃魔法を纏ったのと同じ感覚だった。
仲間の魔力を喰らった刀身が、今までにない光と熱を放つ。赤い炎と、白い光が混ざり合い、空気が歪む。
「うおおおおおおおっ!」
ドラゴが、咆哮を上げる。
全身全霊を、その一振りに込めて。
「喰らえぇっ――『竜の銃砲』ッ!!」
凄まじい斬撃が男に襲い掛かる。
ドラゴとトジ、二人の力が混ざり合った攻撃と男を護る暴風がぶつかり合う。
次の瞬間。
渓谷全体が激しく揺れた。
ゴオオオオォッ――と、凄まじい閃光と轟音。
爆風が、岩壁を駆け上がり、空へと突き抜ける。熱波が、四方へ叩きつけられた。
「うわぁっ!?」
立っていた見習いたちが、その余波に呑まれ、地面へと吹き飛ばされる。
もうもうと立ち上る、土煙。
視界が、真っ白に塗り潰される。
何も、見えない。
ただ、爆発の残響だけが、渓谷の奥へと、こだましていった。




