第7話 ──「仲間を、見て」
銃声の余韻が渓谷に残る。
誰も動かない。敵も、味方も。
視線が、ただ一点――トジに、突き刺さっている。
トジは、腹の底から、声を絞り出す。
「相手は数も経験も明らかに上だ。このままバラバラに戦っても勝てない!」
渓谷を震わせるほどの大声。
「みんな、敵だけを見ないで! 『仲間』を見て!! 一緒に戦うんだ!」
その言葉に、ドラゴの、ガロウの、全員の顔が上がった。
十人の顔つきが変わり、それぞれの手に、力がこもる。
「トジ、いいこと言うじゃねえか!!」
ドラゴのテンションが上がる。
「でも、言いたいことはわかるっすけど、おいらたち今日会ったばっかりっすよ!? そんな簡単に連携なんて――」
その通りだ。
……全員で合わせるのは、無理だ
さっき見た敵の連携は、何人もが噛み合って、ようやく成り立っていた。
あれを、今から真似ることはできない。
でも――二人なら。
二人なら、見るのは、たった一人だけでいい。
「二人一組だ! ドラゴはサシャと! ガロウはシエル! ミーナはグレン! ライラはゴウエン! カイトは僕と! 協力して確実に敵を倒して!」
矢継ぎ早の指示。
前に出る者と、後ろから支える者。
トジは、十人をそういう組み合わせで割っていた。
「ちっ……あのバカと協力なんて嫌だけど、仕方ないわねっ!」
悪態をつきながらも、サシャはドラゴの斜め後ろへ駆け込んだ。
「ドラゴ、あんたはまっすぐ突っ込みなさい! 私がサポートするわ!」
「おうっ、任せたぜ!」
ドラゴが、迷いなく地面を蹴る。
賊が、先ほどと同じように半歩、体をずらそうとした。
――その足元で、光が炸裂した。
サシャの矢だ。
砂利が弾け飛び、踏み込むべき地面が消える。
体勢を崩した賊には、もう、かわす足場が残っていなかった。
「『竜の爪』!」
赤い剣閃。賊が二人、まとめて吹き飛んだ。
「協力などいらん……俺の邪魔はするな」
「大丈夫よ、ガロウ! あなたは好きに戦って!」
そう言うとシエルは、両手を敵に向ける。
「『氷華の園』!」
氷が大地を走り、相手の足を地面ごと凍らせる。
身動きが取れなくなった敵は混乱する。
一歩も、動けない。
その隙を、ガロウは見逃さない。
居合の一閃。
賊が、声もなく崩れ落ちる。
それまでとは違い、攻撃が通る。
ちらりと、ガロウの視線がトジへ流れた。
何も言わない。ただ、口の端が、ほんのわずかに上がっていた。
「ミーナさん、今、助けます!」
グレンはミーナの足が貼りついていた地面を槍で破壊する。
「助かったニャー!」
自由を取り戻したミーナ。
「よくもやったニャー! これでも喰らうニャ! ――『暴れ猫』!!」
ミーナの全身に魔力が張り巡らされる。
そして――一気に踏み込むと、これまでにない高速の動きで敵に襲い掛かる。
あまりのスピードに目で追うこともできず、足が止まる賊たち。
狭いこの渓谷で炎を出せば、また、ミーナを巻き込む。
ミーナの動きを活かすには、炎はいらない。
「――『朱雀閃空』!」
自身の槍の技術のみで放たれる、神速の突き技。
鋭い突きが次々と賊を捉え、その場に叩き伏せていく。
「ちっ、調子に乗るなよ」
賊の一人が、斬撃をライラに向けて放つ。
しかし、ライラは避ける素振りも見せず、剣先に魔力を込めている。
ライラに複数の斬撃が届くと思われたその瞬間――ゴウエンが前に立ちはだかる。
「『剛岩の盾』!」
ゴッ、ゴッ、と重い音が立て続けに響いた。
魔力を込めた巨大な盾で敵の斬撃を完璧に防ぐ。
「ライラを倒したければ、まずこの俺を倒すんだな!」
「相変わらず見事だ、ゴウエン! ――『紫雷閃』!」
大盾の影から、一瞬で敵との距離を詰め、雷をまとった剣で斬りつける。
紫の光が、賊の列を駆け抜ける。
攻撃をモロに食らった賊たちは、立つことができず、膝から崩れ落ちていく。
「カイト、僕が銃弾を撃ったところを一緒に攻撃して!」
「オッケーっす!」
馬車の前から、トジは敵の頭上の岩壁に向けて、自身の双魔銃で銃弾を放つ。
狙ったのは、落石で亀裂が入ったまま残っている、一点。
「あそこっすね――『水弾』!」
カイトの水筒から水が飛び出す。
カイトの魔力によって操られた水は、弾丸のように圧縮され、発射される。
二つの弾が、同じ場所を続けて撃ち抜いた。
――ゴゴッ。
聞き覚えのある、重い音。
崖が崩れ、無数の岩が、今度は賊たちの頭上へ降り注ぐ。
先ほどまで自分たちを苦しめていた落石を、そのままお返ししたのだ。
二人一組。
たった二人ずつ。
しかし、ばらばらだった力が混ざり合うことで、それまでまともに戦うことすらできなかった相手を、次々と倒していく。
「な……っ、こいつら……!」
布の下で、賊たちが初めて、焦りの声を漏らす。
さらに続く、十人の反撃。
息は、まだ合っていない。
援護を待たずに踏み込む者もいたし、声をかけ合うたびに言い合いになった。
阿吽の呼吸とは、ほど遠い。
それでも――隣の一人だけを見ていればいい。
その単純な約束が、十人の動きを、確かに変えていた。
そして、ついに――
立っている賊は――中央に立つ、リーダー一人だけとなった。
「はぁっ、はぁっ……やったぞ!」
肩で息をしながら、ドラゴが大剣を突きつけた。
「後はお前だけだ!」
リーダーは、俯いたまま、動かない。
包囲する十人の、荒い呼吸だけが、渓谷に満ちる。
その時。
くっ、くっ……と、俯いた肩が、小刻みに揺れ始めた。
勝ち誇っていたはずの空気が、凍りついていく。
「……ようやく、少しは面白くなってきたじゃねえか」
ゆっくりと、リーダーが顔を上げた。
布の隙間から覗く目には――追い詰められた者の焦りなどなかった。
戦いもいよいよ最終局面です。
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