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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第2章 ──「絆と、はじめての任務」

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第6話 ──「狩りの、時間だ」


 包囲の中央。賊の群れの中から、一人の男がゆらりと歩み出た。


 布の隙間から覗く目が酷く冷たい。



 男は、パウルを呑み込んだ岩を一瞥した。


 人がひとり死んだ場所を見る目つきではなかった。


 道端の石でも眺めるような、それだけの一瞥だった。



 それから見習いたちを、舐めるように見回した。




 「……護衛はただのガキの群れか」




 低い、感情のない声。




 「狩りの時間だ。一人残らず、片付けろ」




 それだけ言うと、男は再び口を閉ざした。



 合図はなかった。号令も、雄叫びもない。


 ただ――敵が一斉に動き出す。




 「うおおおっ、よくもやりやがったな!」




 真っ先に飛び出したのは、ドラゴだった。


 怒りのまま、大剣を振りかぶって突進する。




 「何が目的か知らんが、叩き潰すまでだ」




 さらに、ガロウも後に続く。




 「ドラゴ、ガロウ! 勝手に動かないで――」




 トジの制止は届かない。



 迫る賊に、ドラゴは渾身の一撃を放つ。


 赤い魔力をまとった大剣が、振り下ろされる。



 しかし、相手は、半歩、体をずらしただけで、大剣をかわす。


 空を切った刃が、勢いを殺しきれずに地面へ食い込む。




 「――振りがでかすぎだ」




 そして、がら空きになったドラゴの脇腹へ、鋭い蹴りを叩き込んだ。




 「ぐ……っ!?」




 肺の空気が、一気に押し出される。


 ドラゴの体が、後ろに吹き飛ぶ。


 地面を転がり、砂利に顔を擦りつけた。



 ガロウも敵に向かい、攻撃を仕掛ける。


 抜き放たれた漆黒の刀身に、ぞっとするような殺気が集まっていく。




 「くらえ――『百鬼……」




 空気が歪み、ガロウの輪郭が二つ、三つへと膨れ上がった。




 「必殺技の前ってのは、結構、隙が生まれるもんだぜ」




 その瞬間、相手の足が地面を蹴り上げた。


 落石で砕かれた岩の粉が、ガロウの顔を襲う。



 狙う先を失った刃先がぶれ、膨れかけていた残像が、ゆらりと搔き消えた。




 「ちぃっ! なっ……!」




 そのまま頭をつかまれ、岩壁に向かって投げ飛ばされた。



 ゴッ――!!



 叩きつけられた岩肌に、亀裂が走る。


 ガロウの体が、ずるずると壁を滑り落ちていった。




 「ドラゴ、ガロウ!? くそっ……! 『光の矢(アルテミス)』!」




 杖の先に、まばゆい光が収束する。


 放たれた無数の光の矢が、空気を裂いて賊へ走った。


 だが――後方の仲間が風魔法を放つと、生み出された空気の流れに、サシャの放った光の矢は向きを変え、自分たちのほうを向いた。


 横から吹きつけた突風が、光の軌道を、根こそぎ押し曲げたのだ。




 「返してやるよ」




 百発百中の精密射撃が、そのままの速さで二人へ迫る。




 「きゃあ!」




 避ける間もなく、足元で光が炸裂した。


 衝撃に押し上げられ、サシャとシエルの体が、後ろへ転がった。




 「こいつら数も多いけど、一人一人が結構やるニャ!」




 跳躍したミーナが、空中で身を捻る。


 自身の武器である双短剣(ツインダガー)で賊と剣を交える。



 だが、軽やかに着地した瞬間――足がぴたりと地面に貼りついた。


 いつの間にか足元に粘着力のある水が仕掛けられていた。




 「ニャ……!? う、動けないニャ!」




 跳べない。かわせない。


 自身の身軽さを、たった一歩で奪われた。



 もがくミーナへ、敵が静かに迫る。




 「ミーナさん! 『朱雀炎武(すざくえんぶ)』ッ!」




 グレンが炎を放つ。


 しかし、相手もすっと手をかざし、高出力の水魔法を放つ。


 グレンの炎は相殺された。



 さらに、激しい炎を水で搔き消したことにより、真っ白な水蒸気が立ち上る。


 ジュウウッ、という音とともに、むっとした熱い湿気が、渓谷いっぱいに膨れ上がった。



 すると、賊の一人が風魔法を放つ。風に乗ったその白煙は戦場を覆い尽くした。




 「っ、視界が……!」




 煙に巻かれ、ライラが目を細める。雷を纏った剣が、標的を見失って空を切った。




 「ゴウエン、どこだ! 背中を合わせ――」




 「おうっ、こっちだライ……うおっ!?」




 白い煙の向こうから、幾筋もの斬撃が飛んできた。


 声のしたほうへ、正確に。




 「安易に声を出すのは良くないな」




 ゴウエンがとっさに盾を構える。


 だが、どこから飛んでくるのか分からない刃は、防ぎようがない。



 ライラも刀を振るった。弾き返せたのは、そのうちの一本だけ。


 残りの刃が、二人の体をかすめていく。


 ゴウエンの腕と、ライラの肩に、赤い線が走った。



 誰も、有効打を出せないまま、仲間の声だけが、あちこちで上がる。




 「くそっ、敵はどこだ……!」




 「動けないニャ……!」




 「馬車だけは阻止するっす……!」




 相手は明らかに戦い慣れていた。


 派手な攻撃は一切ない。ただ冷静に、着実に、十人を追い詰めていく。



 そして――白煙の中で、トジは、あることに気づいていた。




 ……あいつら、一人で戦ってない




 誰かが仕掛け、誰かがそれに手を加え、誰かがその結果を刈り取る。


 攻撃が、繋がっている。



 やがて、立ち込めていた真っ白な水蒸気が晴れていく。


 トジは全体を見渡した。



 吹き飛ばされていたドラゴは再び立ち上がり、また闇雲に敵に突っ込む。


 ガロウや他の仲間たちも同様に、目の前の敵しか見えていない。



 人数も戦闘経験も不利なこの状況下であるにもかかわらず、ただ各々で戦っている。




 ……こっちは、誰の攻撃も、繋がってない




 このままでは、全員が殺される。


 声では、届かない。


 無理やりにでも、全員の耳を、こちらへ向けさせないと。



 トジは銃口を空へと向ける。


 そして、通常よりも多くの魔力を吸収し、強く引き金を引いた。



 パアンッ――――!!



 普段とは違う、大きな銃声が渓谷の岩壁に幾重にもこだました。


 その音に、ドラゴが、みんなが、敵までもが、びくりと動きを止めた。



 銃口を下げ、まっすぐに前を見据えるトジ。



 敵と味方、全ての視線が一斉に集まった。



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