第2章 - 第6話
包囲の中央。賊の群れの中から、一人の男がゆらりと歩み出た。
布の隙間から覗く目が酷く冷たい。
男は、パウルを呑み込んだ岩を一瞥し、それから見習いたちを、舐めるように見回した。
「……護衛はただのガキの群れか」
低い、感情のない声。
「狩りの時間だ。一人残らず、片付けろ」
それだけ言うと、男は再び口を閉ざした。
合図はなかった。号令も、雄叫びもない。
ただ――敵が一斉に動き出す。
「うおおおっ、よくもやりやがったな!」
真っ先に飛び出したのは、ドラゴだった。怒りのまま、大剣を振りかぶって突進する。
「何が目的か知らんが、叩き潰すまでだ」
さらに、ガロウも後に続く。
「ドラゴ、ガロウ! 勝手に動かないで――」
トジの制止は届かない。
迫る賊。ドラゴは渾身の一撃を放つ。
しかし、相手は紙一重で大剣をかわす。
「――振りがでかすぎだ」
そして、がら空きになったドラゴの脇腹へ、鋭い蹴りを叩き込んだ。
「ぐ……っ!?」
ドラゴの体が、後ろに吹き飛ぶ。
ガロウも敵に向かい、攻撃を仕掛ける。
「くらえ――『百鬼……」
「必殺技の前ってのは、結構隙が生まれるもんだぜ」
ガロウが必殺技を放とうとしたその瞬間、相手はガロウの顔に向かって地面の砂を蹴り上げる。
急な目潰しに、ガロウは魔力のコントロールが乱れ、技は不発に終わった。
「ちぃっ! なっ……!」
そのまま頭をつかまれ、岩壁に向かって投げ飛ばされた。
「ドラゴ、ガロウ!? くそっ……! 『光の矢』!」
サシャが、矢を放った。光の閃光が賊めがけて走る。
だが――後方の仲間が風魔法を放つと、生み出された空気の流れに、サシャの放った光の矢は向きを変え、自分たちのほうを向いた。
「返してやるよ」
「きゃあ!」
そのまま、サシャとシエルに向かって光の矢が放たれた。
「こいつら数も多いけど、一人一人が結構やるニャ!」
跳躍したミーナが、空中で身を捻る。
自身の武器である双短剣で賊と剣を交える。
だが、軽やかに着地した瞬間――足がぴたりと地面に貼りついた。
いつの間にか足元に粘着力のある水が仕掛けられていた。
「ニャ……!? う、動けないニャ!」
もがくミーナへ、敵が静かに迫る。
「ミーナさん! 『朱雀炎武』ッ!」
グレンが炎を放つ。
しかし、相手もすっと手をかざし、高出力の水魔法を放つ。
グレンの炎は相殺された。
さらに、激しい炎を水で搔き消したことにより、真っ白な水蒸気が立ち上る。
すると、賊の一人が風魔法を放つ。風に乗ったその白煙は戦場を覆い尽くした。
「っ、視界が……!」
煙に巻かれ、ライラが目を細める。雷を纏った剣が、標的を見失って空を切った。
「ゴウエン、どこだ! 背中を合わせ――」
「おうっ、こっちだライ……うおっ!?」
二人に向かって、敵の斬撃が飛んでくる。
「安易に声を出すのは良くないな」
ライラとゴウエンは防ぎきれずに傷を負う。
誰も、有効打を出せないまま、仲間の声だけが、あちこちで上がる。
「くそっ、敵はどこだ……!」
「動けないニャ……!」
「馬車だけは阻止するっす……!」
相手は明らかに戦い慣れていた。
派手な攻撃は一切ない。ただ冷静に、着実に、十人を追い詰めていく。
やがて、立ち込めていた真っ白な水蒸気が晴れていく。
トジは全体を見渡した。
吹き飛ばされていたドラゴは再び立ち上がり、また闇雲に敵に突っ込む。
ガロウや他の仲間たちも同様に、目の前の敵しか見えていない。
人数も戦闘経験も不利なこの状況下であるにもかかわらず、ただ各々で戦っている。
これじゃ駄目だ――
このままでは、全員が殺される。
トジは銃口を空へと向ける。
そして、通常よりも多くの魔力を吸収し、強く引き金を引いた。
パアンッ――――!!
普段とは違う、大きな銃声が渓谷の岩壁に幾重にもこだました。
その音に、ドラゴが、みんなが、敵までもが、びくりと動きを止めた。
銃口を下げ、まっすぐに前を見据えるトジ。
敵と味方、全ての視線が一斉に集まった。




