第2章 - 第2話
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王都を出発して、数時間が経った。
馬車を囲むように歩く十人の間には、なんとも言えない、ちぐはぐな空気が流れていた。
ギシ、ギシ、と車輪が軋む。ばらばらと続く、砂利を踏む足音。それ以外に、音はない。
最低限の指示や意思疎通以外、誰も口を開こうとしなかった。
初任務ということもあり、隊列の一番後ろにはパウルが帯同しているが、特に口出しはしない。
十人を見守るように、ただ無言で歩いている。
別に、十人はいがみ合っているわけではなかった。
ただ――初任務の緊張、周りへの警戒、そして素性も知らない同期。
どう歩調を合わせればいいのか、分からなかった。
その重い沈黙に、最初に口を開いたのはトジだった。
「……あ、あのさ、みんな」
ぎこちなく、首だけで振り返った。
「……せっかくだから、もうちょっとお互いのこと、知り合わない?」
数歩分の、長い沈黙。
それを破ったのは、最後尾からの気だるげな声だった。
「ふゎ……賛成っすー」
のんびりと欠伸をしていた少年が一人、片手を挙げる。
「おいら、みんなの名前まだ半分くらいしか覚えてないんで。ちょうどいいっす」
腰の水筒をぷらぷらと揺らしながら、ゆるい口調で口を開く。
「おいらはカイト・レイン。水魔法を使うっす。なるべく、危険なことと、疲れることは遠慮したいっす。無理せず、ほどほどが信条なんで、まあ、ゆるーくよろしくっすー」
「はいはいっ! 次はアタシニャ!」
気の抜けた挨拶に被せるように、小柄な影がぴょんと跳ねた。
ぴんと立った耳が揺れ、腰の尻尾がぶんぶんと左右に振れている。
「アタシはミーナ・フェリス! 猫の獣人族だニャ! 村の代表として、念願の守護者になったニャ!」
みんなをぐるりと見回して、にっと白い歯を見せて笑う。
「難しい作戦とかはちょーっと苦手だけど、みんなの役に立てるように頑張るから、よろしくニャ!」
その無邪気な笑顔に、張り詰めていた空気が、少しだけほどけた。
続くように、凛とした少年が一歩、列の中央へ進み出る。
「では、自分も」
背筋を定規のように真っ直ぐ伸ばした男が、視線を前方へ固定したまま口を開く。
「自分の名前は、グレン・スザク。得意なのは槍術と、火魔法です。護衛任務という重責――必ずや、完璧に遂行してみせます」
あまりに生真面目な宣言に、わずかに空気が硬くなりかけた。
だが、それをふわりと溶かすように、白銀の髪が日の光を弾く。
「ふふっ。みんな、個性的で頼もしいわね」
一人の女性が、口元に上品な笑みを浮かべた。
「私はシエル・アイシクル。得意なのは氷魔法よ。……みんなと仲良くやっていきたいから、よろしくね」
柔らかな笑顔、その物腰に列の空気がまた一段と和らいだ。
「じゃあ、次はオレだな!」
待ちきれないとばかりに、ドラゴが胸を張った。
「オレはドラゴ・ヴォルガッシュ、竜人族だ! どんな敵が来ても、この大剣で全部まとめてぶっ飛ばしてやる! よろしくな!」
背中の大剣を親指で示し、にかっと豪快に笑う。
その隣で、サシャがやれやれと肩をすくめた。
「……ほんと、そればっかりね」
呆れたように呟く。
そして――彼女の番が、回ってきた。
サシャは、ほんの少しだけ歩くペースを落とした。
帽子のつばに指をかけ、深く被り直す。けれど、目元までは隠さない。
吸い込まれそうな緑色の瞳を、まっすぐ前へ向けたまま、彼女は静かに口を開いた。
「私は、サシャ・ルミナス」
声は、凛と澄んでいた。
「得意なのは、光魔法。……それから、もう知ってると思うけど」
少しだけ間が空く。
「私は――魔人族よ」
はっきりと言い切った。
その瞬間――、和みかけていた空気が、ぴたりと止まった。




