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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第2章

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第2章 - 第1話


 ――王都アルビオン ・守護者本部。



 石畳の広場に、朝の冷たい空気が満ちていた。



 その中央に、十人の若者が一列に並んでいる。


 全員の肩で、真新しい黒いマントが朝風に揺れていた。



 汚れ一つない漆黒の布。


 襟元には守護者本部の紋章が、銀糸で細かく刺繍されている。


 過酷な試験を生き抜いた者だけに許された守護者の証だ。

 


 ドラゴはマントの裾を指でつまみ、口の端を吊り上げた。




 「へへっ。いい感じじゃねえか」




 隣のトジが、緊張で伸ばした背筋をほんの少しだけ緩めて笑う。




 「うん……やっと実感してきたよ」




 すると、無精髭を蓄えた強面の男が十人の前に歩いてきた。


 先日、試験官を担当していたパウルだ。




 「整列しろ、新人ども」




 低く、よく通る声が広場を震わせた。




 「今日からお前たちは、正式に組織の一員だ。さっそく初任務に就いてもらう。今回は――要人の警護だ」




 パウルは広場の隅に停められていた豪華な馬車に目をやる。



 その扉が開き、上等な服に身を包んだ、恰幅のいい中年の男が降りてくる。


 男は十人を順に値踏みすると、すぐに眉間に皺を寄せた。




 「……パウル殿。本気で言っておるのかね。これが私の護衛だと?」




 鼻を鳴らす。




 「子供ばかりで、しかも――」




 その視線がトジとサシャのところで止まった。




 「魔力が一切ないものに、魔人族まで混じっているらしいな。こんなやつらに、私の命を預けろと言うのか」




 その言葉に反応するトジとサシャ。それでも、言い返すことはせず、ただ唇を結ぶ。

 



 「魔人族なんかに護衛されたら、むしろ魔獣が寄ってくるのではないか? まったく、冗談じゃない」




 ピリ、と空気が張り詰めた。



 しかし、サシャは何も言わなかった。


 ただ、帽子のつばを指先で掴み、顔が隠れるほど深く被り直す。



 杖を握る手に、ぎりっと力がこもった。ローブの袖が、皺になるほど強く握りしめられている。


 奥歯を噛みしめた頬が、わずかに震えていた。



 ――その時だった。



 赤い髪の男が、一歩、前に出た。




 「おっさん」




 「お、おっさんだと……!?」




 「魔力がどうとか、種族が何とかなんて関係ねえ!」




 怒鳴ってはいない。だが、声の奥には隠しきれない熱があった。




 「魔獣でも賊でも、オレがこの大剣で全部まとめてぶっ飛ばしてやる! だからおっさんは、黙って後ろに乗ってな!」




 「な、なんだこの無礼な赤頭は!」




 男が顔を真っ赤にして喚いた。




 「わわっ、すみません要人様!」




 慌ててトジが二人の間に割って入る。深々と頭を下げた。




 「彼、悪気は全然なくて……!  自分たちが、命に代えてもちゃんとお護りするってことを言いたいだけなんです……!」




 男は「ふん」と鼻で笑った。




 「高い金を払っているんだ。せいぜい働くんだな」




 そう吐き捨てると、馬車の扉を乱暴に閉めて中へ消えた。



 扉が閉まると、サシャが小さく息を吐いた。


 帽子のつばを少しだけ持ち上げ、横目でドラゴを睨む。




 「……ちょっと、あんた」




 「あん?」




 「護衛対象に喧嘩売ってどうすんのよ」




 呆れたような声で続ける。




 「いい? 護衛任務はね、ただ敵を倒せばいいわけじゃないの。対象を確実に護りきって、初めて成功なの。そのためには信頼関係も大事なんだから、勝手に突っかかってかないでよね」




 ドラゴは頬を掻いた。




 「敵が来たらオレが斬る。それで十分だろ? オレ一人で楽勝だっての」




 サシャが眉をぴくりと上げる。



 「……はぁ。本っ当に単細胞ね」




 ため息をつきながら、彼女は再び帽子を被り直した。


 しかし、その顔は先ほどまでと違い、少しだけ緩んでいた。



 二人が言い争っていると、広場の壁に寄りかかっていた長身の男が、つまらなそうに鼻を鳴らした。


 腰に刀を差した鬼人族――ガロウだ。




 「……くだらねえ」




 低い声が落ちる。




 「貴族のお守りに、よく吠えるガキか――足手まといはここで休んでろ。どうせ、俺一人で片がつく」




 ドラゴの眉が上がった。




 「あぁ? おいお前、試験のときは当たらなかったよな。ちょうどいい、今ここでオレと勝負しろ!」




 「ドラゴ、やめなって! これから一緒に戦う仲間なんだから!」




 トジが泣きそうな顔で、二人の間に入る。



 ドラゴとガロウが睨み合い、その横でサシャが「何やってんだか……」とつぶやく。



 朝の広場に容赦なくドラゴたちの声が飛び交った。


 そのど真ん中で、トジは一人、頭を抱えていた。



 他の六人はと言うと――まるで我関せずといった感じだった。



 自らの武器を丁寧に準備している者、大きなあくびをして眠そうにしている者、黙々と荷物の確認をしている者、ただ楽しそうに見ているだけの者――。


 誰も、言い争う二人を止めようとしない。


 十人いて、十人がバラバラ。



 パウル教官は、その光景をじっと見つめていた。


 そして、額に手を当て、深い溜息を一つ落とす。




 「……こいつら、大丈夫か」




 誰にも届かないほど低い声で、そう呟いた。



 そして――。


 重い音を立てて、豪華な馬車の車輪が回り始める。


 十人の初めての任務が始まった。




第2章が始まります。

引き続き読んでいただけるとありがたいです。

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