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自己暗示の異世界無双 〜信じ込めた力だけが、俺の武器になる〜  作者: あちゅ和尚


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第18話 壊れた運び屋

 翌朝、俺は詰所へ向かった。


 歩いて行くつもりだったが、ガルドに止められた。


「荷馬車に乗れ」


「もう少し歩けます」


「歩けることと、歩いていいことは違う」


「リーナさんみたいなこと言いますね」


「便利だからな」


 便利な言葉扱いされている。


 だが、逆らえなかった。


 俺は小さな荷馬車に乗せられ、東門の詰所まで運ばれた。


 自分が荷扱いされるのにも、だいぶ慣れてきた。


 嫌な慣れである。


 ただ、身体は確かにまだ万全ではない。


 自然治癒促進のおかげで傷は塞がりつつあるが、深いところの痛みは残っている。


 長く歩けば太腿が重くなる。


 背中も、冷えると引きつる。


 今、無理をする場面ではない。


 そう自分に言い聞かせる。


 詰所へ着くと、空気が少し張っていた。


 黒い箱。


 黒鳴石。


 眠り粉。


 倒れた若い運び屋。


 その一件のせいで、東門の兵士たちも神経を尖らせているのだろう。


 門を出入りする荷車への確認も、いつもより厳しいように見えた。


 詰所の奥に通されると、ノルが寝台の上で上体を起こしていた。


 年は20前後。


 痩せていて、顔色はまだ悪い。


 手は包帯で巻かれている。


 目の下には濃い隈。


 だが、意識は戻っているようだった。


 彼は俺を見ると、警戒したように肩を縮めた。


「……あんた、誰だ」


「アストです。商人ギルドの軽急便に関わっています」


 ノルの顔がこわばった。


「俺を責めに来たのか」


「違います」


「嘘だ。あんたらが断った荷を、俺が受けたんだろ。馬鹿だと思ってるんだろ」


 声が荒い。


 だが、強がりの奥に怯えが見えた。


 責められると思っている。


 罰を受けると思っている。


 あるいは、自分でも自分を責めている。


 ここで詰めても、情報は壊れる。


 荷と同じだ。


 割れやすいものを乱暴に扱えば、中身は散ってしまう。


「馬鹿だとは思っていません」


 俺は椅子を借り、寝台から少し離れて座った。


 近づきすぎない。


 見下ろさない。


 逃げ道を塞がない。


「俺も昔、急ぎの仕事を断れなかったことがあります」


 ノルがこちらを見る。


「昔?」


「遠いところで、荷を運んでいました。無理な時間、よくわからない荷、曖昧な受け取り。そういう仕事はありました」


「……あんたも受けたのか」


「受けたことがあります。後で、受けるべきじゃなかったと思ったこともあります」


 これは本当だ。


 前の世界で、怪しい荷を運んだという意味ではない。


 だが、無茶な予定や雑な条件を飲んで、危ない思いをしたことはある。


 断れない空気。


 受けてしまえば何とかするしかない仕事。


 それがどれだけ現場を削るか、俺は知っている。


 ノルの目から、ほんの少しだけ敵意が薄れた。


「俺は……中身なんて知らなかった」


「はい」


「ただ、箱を運べって。東門を出て、古塔の近くまで行けって。そこで合図を待てって」


「合図?」


 ガルドが壁際で反応した。


 俺は手で少し制した。


 急かすと、ノルは硬くなる。


「どんな合図ですか」


「黒い布を枝に結ぶ。そしたら、向こうから受け取りが来るって」


「受け取りの顔は?」


「知らない」


「名前は?」


「知らない」


「依頼人は黒い外套の男ですか」


 ノルは少し迷い、頷いた。


「顔は布で隠してた。声は低かった。けど……」


「けど?」


「右手の小指がなかった」


 ガルドの目が細くなる。


 俺は木札に書き留めた。


 依頼人。


 黒外套。


 顔布。


 低声。


 右小指欠損。


 古塔付近。


 黒布合図。


 受取人不明。


「どこで依頼を受けました?」


「灰鴉亭」


 ガルドが小さく舌打ちした。


 知らない名前だが、良い場所ではなさそうだ。


「どんな店ですか」


 俺が聞くと、ノルは少し顔をしかめた。


「西市場の外れにある酒場だ。荷運び、日雇い、喧嘩屋、そういう連中が集まる。仕事を探す奴もいる」


「裏の仕事も?」


「……ある」


 ノルは俯いた。


「でも、俺は普段そんな大きいのは受けない。市場の荷運びとか、手紙とか、酔っ払いの忘れ物とか、そういうのだけだ」


「今回はなぜ受けたんですか」


「妹が熱を出した」


 声が小さくなった。


「薬代が要った。銀貨5枚なんて、普通の使い走りじゃもらえない」


 部屋の空気が少し重くなる。


 金につられた。


 それは事実かもしれない。


 だが、ただの欲ではなかった。


 薬代。


 家族。


 そういうものを握られた。


 危ない荷は、安い命を探す。


 そう思って、胸が冷えた。


「妹さんは?」


 俺が聞くと、ノルは顔を上げた。


「知らない。俺、戻れなくて……」


「名前と場所を教えてください。商人ギルドから確認します」


「何で」


「妹さんが困っているなら、薬師へつなぐ必要があります」


「でも、俺は……」


「それはそれです。黒い箱の件とは分けます」


 ノルは唇を噛んだ。


 泣きそうな顔だった。


 だが、泣かなかった。


「ミナ。妹はミナ。西市場の裏、染物屋の隣の長屋にいる。大家の婆さんが見てくれてるはずだ」


 俺は木札に書く。


 ミナ。


 西市場裏。


 染物屋隣。


 長屋。


 大家。


 薬師確認要。


 ガルドが兵士へ目配せした。


 兵士が外へ走っていく。


 これで少しは動く。


 ノルはそれを見て、呆然としていた。


「本当に行くのか」


「行きます」


「俺、捕まるんだろ」


「それは領兵が決めることです」


 俺は正直に言った。


「でも、妹さんの熱は別です。荷を間違えたからといって、妹さんまで止める理由はありません」


 ノルは何かを言おうとして、言えなかった。


 俺は少し待った。


 沈黙も、情報を運ぶ道だ。


 急かすと崩れる。


「箱を運んでいる途中、何が起きましたか」


 ノルは包帯の巻かれた手を見た。


「古塔の近くまで行った。黒い布を枝に結ぼうとして、箱が変な音を立てた」


「音?」


「中で、石が鳴ったみたいな。カチ、カチって。でも、箱は開けるなって言われてた」


「それで?」


「手がしびれた。最初は寒いだけかと思った。でも、箱の留め具のところから灰みたいな粉が出てて……手袋が黒くなって……」


「触ったんですね」


「拭こうとした。そしたら、目が回って……」


 眠り粉。


 封が少し切れていた。


 荷主は、運び手が中身を見ることを防ぐために箱へ仕込んでいたのか。


 それとも、箱自体が漏れ始めていたのか。


 どちらにしても、運び手を守る気はない。


「受け取りは来ましたか」


「見てない。音がした気はする。笛みたいな、小さい音。でも、その後は覚えてない」


 笛。


 黒い布。


 古塔。


 右小指のない男。


 黒鳴石。


 何かの受け渡し手順がある。


「黒い外套の男は、他に何か言いましたか」


 ノルはしばらく考えた。


「……正規の道は腐る、って」


「正規の道?」


「鎖のある道は遅い。だから、鎖のない道に荷は流れる。そう言ってた」


 俺は息を止めた。


 昨日の言葉とつながる。


 軽急便の鎖を見て、いつまで錆びずにいるかと言った男。


 あいつは、ただ危険物を運ばせたかっただけではない。


 正規の道と鎖を意識している。


 軽急便を敵視しているのか。


 あるいは、試しているのか。


「その男の名前は?」


「知らない。でも、灰鴉亭の奥にいた男が、そいつを“欠け指”って呼んでた」


 欠け指。


 あだ名だろう。


 俺は木札に書き込む。


 欠け指。


 右小指欠損。


 黒外套。


 灰鴉亭。


 鎖のない道。


 黒鳴石。


 笛。


 黒布。


 これは、ただの一件ではない。


 裏の運び屋たちの網。


 そこに、欠け指という男がいる。


 そして、道を汚す荷を動かしている。


【危険荷判定:継続】


【新規対象:欠け指】


【関連語:鎖のない道】


【注意:敵対構造が形成されつつあります】


 嫌な表示だ。


 だが、目を逸らすわけにはいかない。


     ◆


 聞き取りの後、ノルはまた横になった。


 疲れたのだろう。


 顔色が悪くなっていた。


 俺も似たようなものだ。


 詰所の外へ出ると、朝の光が東門を照らしていた。


 門の外には、いつも通りの道がある。


 荷車が出入りし、旅人が並び、兵士が札を確認している。


 その何気ない流れの裏で、黒い箱は運ばれようとしていた。


 道は見た目よりずっと危うい。


「灰鴉亭か」


 ガルドが言った。


「知ってるんですか」


「悪い噂はある。だが、ただの酒場でもある。日雇いが集まる場所だ。下手に踏み込めば、働き口を探す連中まで敵に回す」


「全員が悪いわけじゃない」


「そうだ」


 ノルの顔が浮かぶ。


 妹の薬代のために、銀貨5枚の荷を受けた若者。


 悪人と言い切るには、あまりにも普通だった。


 普通の弱さに、危険荷が乗る。


 それが一番怖い。


「灰鴉亭を潰すだけでは駄目ですね」


 俺は言った。


「ほう」


「仕事が欲しい人がいる。金が必要な人がいる。そこへ危険な荷が流れる。なら、正規側にも受け皿が要ります」


「軽急便で雇う気か?」


「全員は無理です。でも、危険荷を断った人が、まともな日雇いに流れられる場所があれば、少しは違うかもしれない」


 ガルドは少し黙った。


「甘いな」


「そうですね」


「だが、甘いだけではない。人手は必要だ」


「はい」


 商人ギルドは人手を必要としている。


 軽急便も、通常便も、谷村への物資も、鉱山町への支援も、人がいる。


 ただし、誰でもいいわけではない。


 荷札を守れる者。


 中身不明を断れる者。


 報告できる者。


 危ない時に逃げず、でも無茶に突っ込まない者。


 そういう人を育てる必要がある。


 大きな話になってきた。


 最初は、自己暗示で生き延びるだけだった。


 次は荷を届けること。


 今は、運ぶ人間そのものをどう守るかまで来ている。


 広がりすぎている気もする。


【警告:責任範囲拡大】


【推奨:役割分担】


 わかってる。


 俺1人でやる話ではない。


 商人ギルド。


 領兵。


 薬師。


 日雇い。


 それぞれの役割が必要だ。


「商人ギルドへ戻りましょう」


 俺は言った。


「ノルさんの妹の件と、灰鴉亭の件を共有しないと」


「その前に飯だ」


 ガルドが言った。


「またですか」


「顔色が悪い」


「ガルドさんまで顔色を見るようになってません?」


「リーナほどではない」


 やはりリーナの影響は広がっている。


     ◆


 商人ギルドへ戻ると、ノルの妹ミナの確認が先に届いていた。


 西市場裏の長屋。


 染物屋の隣。


 大家の老婆が、熱を出した少女を看ていた。


 領兵の使いと一緒に、薬師見習いが向かったらしい。


 命にすぐ関わる状態ではないが、薬は必要とのこと。


 俺は胸を撫で下ろした。


「薬代は?」


 マルセルが帳面を見ながら言った。


「領兵案件ではない。商人ギルドが出す理由もない」


「ですよね」


 わかっている。


 感情で全部を払えば、仕組みは崩れる。


 だが、放っておくのも違う。


「ノルさんが回復した後、正規の仕事で返せる形は作れますか」


 マルセルが俺を見る。


「借金にする気か」


「いえ、救済じゃなく前払い扱い。危険荷に流れた日雇いを、正規の雑用仕事に回す試験です」


「また面倒なことを言う」


「危険荷を断れと言うなら、断った後の食い扶持も少し必要です」


 マルセルは渋い顔をした。


「理屈はわかる。だが、甘く見える」


「甘く見せないために、条件をつけます。荷札の基礎、報告、危険荷を受けない誓約、日当から少しずつ返済」


「誓約か」


 セリアが口を挟んだ。


「書面が必要ですね」


「お願いします」


「また私の仕事です」


「すみません」


「必要なら構いません」


 セリアは本当に頼もしい。


 マルセルは腕を組んでしばらく考えていた。


「軽急便の下働き、という形なら使えるかもしれん。荷を持つ前に、札を読む。読めぬ者は読める者と組ませる。危険荷を受けた経験があるなら、逆に教育材料にもなる」


「ノルさんを晒し者にするのは」


「そこは気をつける」


 マルセルは帳面を閉じた。


「まずはノル本人が意識をはっきりさせてからだ。妹の薬代は、俺が立て替える。ただし、本人には返させる」


「ありがとうございます」


「礼を言うのは早い。これは商売だ」


「でも助かります」


「……まったく」


 マルセルは少しだけ目を逸らした。


 商人らしいが、冷たいだけではない。


 そういうところが、この人の信用につながっているのだろう。


     ◆


 昼過ぎ、黒札の正式な原案が完成した。


 セリアが読み上げる。


「危険拒否記録。黒札。対象条件。中身不明、受取人不明、目的地危険、夜間指定、報酬相場外、依頼人身元不明、危険物疑い、封印異常、道害要素」


「道害要素、採用されたんですか」


「他に短い言葉がありませんでした」


「なるほど」


 道を害する荷。


 黒鳴石には、ぴったりだった。


「通知範囲。商人ギルド長、受付責任者、門番詰所、必要に応じて領兵。客名は原則伏せるが、危険が高い場合は特徴を記録する」


 かなり整っている。


 断るための札が、ここまでの仕組みになるとは思わなかった。


 オルディンが原案を確認し、頷いた。


「これで行く。まずは試行だ」


「試行」


「完璧な仕組みは最初から作れん。使いながら直す」


「はい」


 その考えは好きだ。


 ただし、雑に始めるのではなく、危険を見ながら直す。


 軽急便も黒札も、そうやって作るしかない。


 その時、受付から職員が駆け込んできた。


「ギルド長、灰鴉亭の者が来ています」


 部屋の空気が変わった。


 ガルドの手が、自然と剣の近くへ動く。


 オルディンは表情を変えない。


「何人だ」


「1人です。店主を名乗っています」


「通せ」


 職員が少し戸惑った。


「よろしいのですか」


「ここで追い返せば、話が見えん」


 しばらくして、男が入ってきた。


 50代くらい。


 太った身体。


 赤ら顔。


 だが、目は笑っていない。


 服は酒場の店主らしく、少し油と酒の匂いがした。


「灰鴉亭のダンテだ」


 男は低い声で名乗った。


「商人ギルド長、オルディンだ」


 オルディンが答える。


 ダンテは部屋を見回し、俺のところで視線を止めた。


「お前がアストか」


「はい」


「うちの客が迷惑をかけたらしいな」


「客?」


「欠け指だ」


 いきなり名前が出た。


 ガルドの目が鋭くなる。


 ダンテは両手を上げた。


「待て。俺はあいつの仲間じゃねえ。むしろ迷惑してる」


「どういう意味だ」


 マルセルが聞く。


「灰鴉亭は、確かに日雇いの仕事を回す。表に出しづらい仕事もある。だが、黒鳴石なんぞ運ばせる話は別だ。あんなものを店で使われちゃ、こっちまで潰される」


 ずいぶん正直だ。


 いや、正直に見せているだけかもしれない。


 オルディンが静かに聞いた。


「欠け指とは何者だ」


「本名は知らん。半年ほど前から西市場に出入りしている。危ない荷を安く運ばせる。相手は金に困った若いのばかりだ」


「なぜ止めなかった」


「止めたさ。だが、外でやられたら店主には限界がある」


「灰鴉亭の奥で依頼を受けたと聞いている」


 ダンテは苦い顔をした。


「それは認める。見落とした」


「見落とした、か」


 ガルドの声が低い。


 ダンテは肩をすくめた。


「だから来た。あいつは今夜、西市場の外れでまた荷を集める。黒い布の合図を使う。俺の店を勝手に使われるのは困る」


「なぜそれを教える」


 オルディンが聞いた。


 ダンテの目が細くなる。


「鎖のない道がどうとか、あいつは格好つけて言う。だが、あいつがやってるのは、金に困ったガキを捨て駒にすることだ。そんなもん、裏の運び屋でも嫌われる」


 部屋は静かだった。


 裏の世界にも、線引きがある。


 そういうことか。


 ダンテは俺を見た。


「お前、ノルの妹に薬を回したらしいな」


「まだ薬師が見に行っただけです」


「同じことだ。あれで、西市場の何人かは商人ギルドを見る目を変えた」


「それは……良い方に?」


「半分はな」


 どいつもこいつも半分と言う。


「残り半分は、警戒だ。正規の道が日雇いまで拾い始めたら、裏は食い扶持を失う」


 やはり、そこに行く。


 正規の道を作ることは、裏道の人間を刺激する。


 だが、危険荷を放置するわけにはいかない。


 オルディンが言った。


「情報は受け取った。対価は?」


 ダンテはにやりとした。


「話が早い。灰鴉亭を潰すな。日雇いの受け皿を作るなら、うちも噛ませろ」


 商売だ。


 この男も商売をしに来た。


 だが、単純な悪ではない。


 扱いを間違えると、裏の連中全部が敵になる。


 俺は黙って聞いていた。


 オルディンもすぐには答えない。


「検討する」


「早くしろ。欠け指は今夜動く」


 ダンテはそれだけ言い残し、部屋を出ていった。


     ◆


 会議室の空気は重かった。


 欠け指が今夜動く。


 西市場の外れ。


 黒い布の合図。


 危険荷。


 日雇い。


 灰鴉亭。


 商人ギルド。


 裏道と正規の道が、いよいよ近づいている。


「領兵へ知らせる」


 ガルドが言った。


「もちろんだ」


 オルディンが頷く。


「だが、領兵だけで動けば、西市場が荒れる。日雇いまで散る」


「なら?」


 マルセルが俺を見る。


 また俺か。


 だが、考えはあった。


「荷を押さえるだけじゃなく、人を逃がす道も用意するべきです」


「人を?」


「欠け指に雇われかけている日雇いを、全部捕まえると敵が増えます。でも、危険荷を断れば別の仕事に回れると示せば、何人かは離れるかもしれない」


「今夜それをやるのか」


「全部は無理です。でも、商人ギルドの臨時仕事札を出せますか。荷下ろし、谷村物資の仕分け、軽急便の下働き。危険荷を受けずに来た者は、翌朝仕事を紹介する、と」


 マルセルが渋い顔をする。


「金がかかる」


「でも、欠け指の人手を減らせます」


 オルディンが細い目で俺を見る。


「人を荷の流れから抜くのか」


「はい。危ない荷に乗る前に」


「面白い」


 ギルド長はそう言った。


「採用する。マルセル、臨時仕事札を用意。セリア、危険荷を断った者向けの誓約文。ガルド、領兵へ。アスト、お前は」


「休め、ですか」


「いや」


 オルディンは静かに言った。


「作業部屋で流れを組め。現場へは出さない。だが、どこで人を止め、どこへ流すかを考えろ」


 現場には出ない。


 だが、道を組む。


 俺は深く息を吸った。


「わかりました」


 黒い箱は、道を汚した。


 なら今度は、人がその汚れた道へ乗る前に、別の道を出す。


 うまくいく保証はない。


 だが、やる価値はある。


 頭の奥に表示が浮かんだ。


【新規任務:危険荷流入阻止】


【対象:欠け指・西市場外れ・日雇い人員】


【役割固定:運び手】


【補助派生:流通制御・危険荷判定・拒否後対応】


【目的:危険荷と人員を分離すること】


 危険荷と人員を分離する。


 そうだ。


 危険なのは荷だけではない。


 その荷を運ばされる人間も、道の上で壊れる。


 ノルのように。


 俺は木札を握った。


 運ぶべき荷を運ぶ。


 運んではいけない荷は断る。


 そして、運ばされる人間を、できる限り別の道へ逃がす。


 運び手の仕事は、また少し広がった。


 重い。


 だが、見えた以上は、見なかったことにはできない。


第18話─了

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