8. ユエ「たとえどのような咎を受けようと」
「ホァン・ユェルン、お前を我が妃の候補から外さねばならない」
太子の黒い瞳がまっすぐに私を射抜く。その表情は冷徹で、いかなる感情も読み取ることはできない。
「皇帝陛下暗殺を企てた罪で、お前を無尽獄に送る。企てに関わった者は一人残らず白状してもらうぞ。いかなる手段を使ってもな」
私は跪き、深く頭を垂れて弁明する。決して誰にも本当のことを知られるわけにはいかない。表情を隠し、震える声を装う。
「本当に私は何も知らないのです殿下!私の部屋にあったという薬も全く見覚えの無い物です!誰かが勝手にそこに隠したとしか……」
「弁明の機会を与える気は無い。先に捕らえた二人の刺客がいずれもお前の名前を証言している。あとは獄吏に全てを話せ。無尽獄は決して易しくはないぞ?」
どこまでも無機質に私を拒絶する太子の声。もはや私にかける一片の情も残されていないことは誰の目にも明らかだ。
私の目から涙がこぼれる。
「お願いです殿下!私はただ殿下のお側に置いていただきたいだけなのです!本当にただそれだけなのです!」
ほんの一瞬、太子の瞳が揺らいだ。唇をきつく結び、何かの感情を呑み込んだようだった。一度目を伏せ、そしてもう一度上げた時、その瞳にはまたあの冷徹な輝きがあった。
「……連れて行け」
「殿下!たとえどのような咎を受けようと、お慕い申し上げております!殿下!」
両脇を抱えられるようにして拝殿を連れ出される。二度と戻ることは叶わないかもしれないこの場所を、そして太子の背中を目に焼き付けながら。
*
少し後、私は薄暗い地下の一室にいた。
簡素な椅子が二脚と小さな木机、その上に置かれた小さな燭台の灯りの他には何も無い、殺風景な部屋だ。
牢ではないし、私は拘束されていない。
ただ片方の椅子に座り、そこで人を待っている。
やがて歩調の速い足音が聞こえてきて、彼が部屋に姿を現した。
「ユエ!ああユエ!よかった!ちゃんといてくれた……」
彼は部屋に入ってくるなり膝を滑らせるように私の椅子の前に跪き、座ったままの私に抱きついた。
「そりゃいますよ。そういう打ち合わせだったでしょ?」
大袈裟な彼の態度に困惑しながら、私は軽く彼の背中に手を回す。
顔を上げた彼はその濡れたような黒い瞳でじっと私の目を見つめ、謝罪した。
「敵を欺くためとはいえ、あんな態度で君を断罪するなんて……胸が張り裂けるかと思った。どうか私を許してくれ」
「許すも許さないも……その筋書きを書いたのも私ですし、どうしてリュオ様が謝るんです?」
彼は孤独な迷い犬のように不安そうな目で私を見つめ、そっと私の頬に手を伸ばす。
「解ってはいるが不安だったんだ。君が本当に私の元からいなくなってしまうのではないかと……」
立ち上がり、私の頭をそっと自分の方へ引き寄せる。微かに香る白檀香が私の中にまだ残っていた緊張をほぐしていく。
そう、私も慣れない芝居に緊張していたのだ。この宮廷に来て、彼の側で過ごすようになってからはいつもそうだった。




