7. アユラ「あんたとの婚約は終わりよ」
私を取り囲んだ兵たちは私を守るように密集隊形を作り、その他の兵たちが王子とウィディヤ姫を取り囲んだ。
「何をしている貴様ら!父上、これは一体どういう……」
「先が見えていないのはお前の方だ、ダハールよ。アユラの言う通り、今はマクブートと争っている時ではない」
王子は目を見開き、信じられないという顔で声を荒げる。
「大王ともあろうお方が……商人の娘風情の口車に乗せられて大義をお忘れになるとは、なんと情けない!」
何が大義よ。あんたこそ女と金山に目が眩んだだけでしょ。
王子の言葉は癇癪持ちの父王の逆鱗に触れた。元々似た者同士で喧嘩が絶えない二人だった。最近は特に王子の独断による勝手な行動が目立っていた。だから私は王に入れ知恵しておいたのだ。
「あなたの跡継ぎはもう一人いますよ」と。
「ダムード!我が息子ダムードよ、ここへ!」
国王に呼ばれて、近衛兵の一人が歩み出た。
兜を脱ぐとこぼれ出る美しい金の長髪。彫りの深い彫刻のような顔には大きな一筋の刀傷がある。
腹違いの兄より痩身だが背は高い。
彼はダムード。妾腹の王子。ダハールの母妃が仕組んだ罠で身分を奪われ、一兵卒として国境送りになっていたのを私がこっそり連れ戻した。
これが私のプランB。ダハールを見限る時には彼を立てようと思っていた。今がその時だ。
「兄上、あなたは選択を間違えた。アユラ様はあなたとこの国を救おうとしていたのに、あなたは女神を手放してそのジャルナの女を選んだ。だがこの国はそんな過ちを犯さない」
弟の憐れむような言葉に激昂したダハールは、掴みかかろうとして周りの兵たちに取り押さえられた。
「ダムード!貴様!その女とグルになって俺をハメたな!お前のような下賎の血が、卑しい商人の娘と組んでこの国を乗っ取るのか!貴様ら身の程を知れ!」
往生際の悪い女狐も必死で劣勢を挽回しようと悪知恵を巡らせる。
「こ、この女はオウランとも繋がっているのです!シン皇帝はこの南方へ侵略のために街道を伸ばしています。そこに資金を出しているのがナプトゥラ家なのです!」
さっきまで優越感たっぷりに王子との仲を見せつけていた性悪が慌てふためいて早口でしゃべる姿は滑稽この上ない。
こっちには慌てることなど何も無い。
「本気で昔みたいな大王国を取り戻したいならオウランとの交易は絶対に必要よ。でも予想通り西から邪魔が入った。異教徒の帝国バラクシャーの妨害で街道の建設工事は止まってる。シン皇帝はひどくご立腹で、大きな衝突が起きるのも時間の問題ね」
お父様が私を王家に嫁がせようとしたのはこのためだった。
放っておけばこの国はバラクシャーに滅ぼされる。異教徒の支配が強まると我が家の商売にもいろいろ支障が出る。だから私がこの国を救わなくちゃいけない。そのためにオウランを呼び込んでバラクシャーとぶつかるように仕組んだ。
この国は今のうちにマクブートやチャバダ、アプドゥを手懐けてバラクシャーの侵攻に備えなくちゃいけない。馬鹿王子と馬鹿女に邪魔をされている暇など無いのだ。
「分かったらジャルナでもどこへでも好きなところに行きなさい、ダハール。あんたとの婚約はもう終わりよ」
私は役に立たない元婚約者に指を突き付けて婚約破棄を言い渡した。まだ何かわめきながら引っ立てられていく馬鹿王子と馬鹿女。
「あ、そういえばウィディヤ姫?その趣味の悪い首飾りの宝石、バラクシャー産よね?」
私のちょっとした意地悪に女狐は顔色を変える。
「そ、それが何だって言うの?宝石ぐらいどこでだって買えるでしょ!ジャルナの街にだってバラクシャーの商人ぐらいいるわよ!」
その言葉に王の間の空気は凍り付いた。
あらあら、自爆しちゃった。
「知らなかったの?バラクシャーの商人は皇帝が認めた土地以外で商売をすると死罪なのよ?だからこの王都では絶対にその石は手に入らない。でもジャルナの街にはバラクシャーの商人がいるなんて凄いのね!山猿なんて言ってごめんなさい。見直しちゃった!」
血の気の引いた馬鹿女に向かって、馬鹿王子の怒声が炸裂した。
「この裏切り者め!!」




