6. アユラ「全部私が言った通り」
「お前との婚約は終わりだアユラ。裏切りの証拠は揃っている」
王宮に呼び出された私、アユラ・ナプトゥラは、婚約者である王子ダハールから指を突きつけられ、断罪されている。
私は口元に涼し気な微笑みを浮かべてとぼけてみせる。
「裏切り?証拠って、何のこと?」
元から無駄に大きい王子の声が、さらに一段階煩くなる。
「ナプトゥラ家は密かにマクブートと繋がっている!わが国の領土を掠め取ったあの薄汚い反逆者に武器を売り、その見返りに金山の採掘権を手に入れたな?」
王子の勝ち誇った顔が可笑しくて、私はつい声に出して笑ってしまう。
「別に密かでもないけど、まあ必要なら武器も売るわね。実際に売ったのは機織りの機械と職人だけど。あそこで採れる綿は質がいいから、織物を作らせて海の向こうに持って行けば驚くような値が付くのよ」
私の笑いが気に障ったのか、王子は顔を真っ赤にしてさらに怒鳴り立てる。
「さすが卑しい商家の娘は金のことしか頭に無いんだな!目先の金に目が眩んで敵を富ませるなど、先の見えない愚か者の行いだ!」
耳がキンキンする。私は顔をしかめて溜息をついた。
「敵?あんたの敵は誰なの?ダハール。西の帝国から来る異教徒たちはどんどん増えて手に負えなくなってる。あんたのご自慢の猛虎軍だけでアレの相手ができるとでも?」
王子はグッと言葉に詰まる。顔はますます真っ赤。いくら自惚れ屋の勘違い男でも、さすがに勝てるとは思ってなかったようだ。
「だからこそマクブートは討たねばならん!反逆者どもを一掃し、かつての大王国を復活させるのだ!金山も取り戻す。残念だがお前の取り分など認めんぞ」
どうやらこの男の頭の中では、ここ百年ほどの歴史がすっぽり抜け落ちてるらしい。
かつて大陸の南半分を支配した大王国マハヴァールは、代々無能になっていく王家のおかげですっかり衰退し、各地で反乱が起きて三つの国が独立した。マクブート、チャバダ、アプドゥ。彼らはこの百年で力を増し、固い同盟で結ばれている。
今のマハヴァールに彼らを滅ぼす力は無い。
「あのね、ダハール。このお馬鹿さん。戦をするにはお金がかかるのよ?うちの援助が無くて、どうやってマクブートと戦うの?」
私の実家は海上貿易で莫大な財を築いた有力豪族のナプトゥラ家。私が嫁ぐにあたって、王家は巨額の持参金を期待していた。
一度黙った大声王子は私の言葉にフンと鼻を鳴らし、また得意げに素晴らしいお考えを披露し始めた。
「ジャルナ族の手を借りる。あそこは元々彼らの土地だ」
王子に呼ばれて女が一人、王の間に姿を現した。
やたらと露出度の高い薄衣をまとい、褐色の肌の上にジャラジャラとこれ見よがしな宝石のアクセサリーをまとわりつかせた下品な姿。
ああはいはい。やけにちゃんと調べてるから一体誰の入れ知恵かと思ったら、ジャルナのウィディヤ姫、この女狐か。納得。
私は今度こそ堪えきれなくなって高らかに笑う。
「ジャルナ!あんなの兵とは言わない、獣と変わらないわ。山猿に戦を教えるつもり?十人隊長の十が数えられるようになるまで三年はかかるわよ?」
私の分かりやすい挑発に山猿の姫が眉を吊り上げる。
「自分を大層賢いと思ってらっしゃるのね、ナプトゥラのお嬢様は。可愛げの無い方。ねぇ王子?」
見せつけるように王子にしなだれかかる。その腰を抱いて鼻の下を伸ばした私の婚約者は、精一杯の威厳を見せようと胸を反らし、また私に指を突き付ける。
「すでに同盟の約は交わした。彼女への侮辱は許さん!お前はもう俺の婚約者ではない。そろそろ身の程を知ってもらうぞ」
控えていた兵たちを見回し、居丈高に命じる。
「この女を捕らえよ!マクブートと通じて何を企んでいるか、洗いざらい吐かせるのだ!」
武装した兵たちが私の周りを取り囲む。私はまた一つ溜息をついて、王子の後で今までじっと黙りこくっていた国王を見た。
「だからこうなるって言ったでしょ?全部私が言った通り。あなたの息子はこの国を任せられる器じゃない。どうする?山猿の姫にそそのかされて、本気でマクブートに喧嘩を売ってみる?」
老齢の王は苦々し気に顔をゆがめ、兵たちに命じた。
「……王子を捕らえよ」




