22. フリーダ「悲運の王子の数奇な運命」
教会から破門されるということは、この世に存在を認められないのと同じことだ。この世だけでなく、死後も魂が救われることは無い。教会が王族に対してそこまで重大な処分を下すなんて前代未聞だ。しかもそのことが公にされていないなんて、あまりにも異常な事態だ。
「まさかそんな……一体何が……」
「母は戦地を訪れ、自ら組織した看護団と共に傷病者の手当てをしていました。戦いで荒廃した街の復興にも手を尽くし、家や財産を失った者の暮らしを助けるために寄付を集めました」
聞いたことがある。テレーズ基金は戦災孤児の保護にも使われ、そのおかげで生活に困ることなく修道院で育った者が今、聖堂騎士となって私の隊にいる。聖女の名に相応しい尊い行いだ。そのような方を破門する理由がどこにあるというのか。
「母が助けた者の中に異教徒がいた。それが破門の理由です。目の前で困っている者に手を差し伸べる時、母は改宗を条件としませんでした。母に救われて改宗した者も大勢いましたが、中には改宗を拒む者もいた。それでもその者が飢えていれば母はパンを与えました。教会はそれを許さなかった。ですが神様はどうでしょうか?神様は相手を選んでパンをお与えになるでしょうか?」
「それは……」
神ならぬ私に答えは分からない。でも心はテレーズ様の行いが間違っていないと感じる。きっとテレーズ様を慕う国民の誰もがそう感じるのではないだろうか。
「どのような事情があったとしても、破門なんて……」
「父が言っていました。もしかしたら当時、母の言葉は教皇よりも強い力を持っていたかもしれない。それほど多くの国民に愛された人だったと。だから教会は国民の反発を恐れ、母の破門を公にしませんでした」
確かに、私はテレーズ様のお姿を見たことがないけれど、そのお名前は今も色褪せることのない輝きと共に語り継がれている。それだけこの国にとって特別な御方なのだ。
「破門が解かれることは無いのでしょうか?どのような罪であれ、心から悔い改めた者を神様はいつか必ずお赦しになるのでは……」
「父は教皇の足下に跪き、何度も母の赦しを乞いましたが、聞き入れられることはありませんでした」
ヒュリック様は天を仰ぎ、小さく祈りの言葉を唱えてからまた私に視線を戻した。
「母が破門されたことを公表し、国民の同情に訴えることも考えたそうですが、他ならぬ母がそれを止めました。もし公表していれば、おそらく国王と教会の対立は決定的になり、国が真っ二つに割れていたでしょう」
その筋書きは容易に想像できる。特に火種の無い今でさえ、両者の関係は常に目に見えない権威の綱引きで張り詰めている。対立が表面化すれば国民を巻き込んだ大混乱にも発展しかねない。
「だから父は教会と対立するのではなく、内部から教会を変えようと考えました。そのためにダルウィット公という隠れ蓑で私を隠し、密かにあるお方のもとに送ったのです」
話が核心に近付いてきた。悲運の王子ダルウィット公の数奇な運命。いつしか私はおとぎ話に聞き入る子どものようにヒュリック様のお話にのめり込んでいた。
「当時七歳の私に父は言いました。母を破門した以上、教会はお前が王位に就くことを決して認めない。いや、いかなる身分も、領地の継承も、何一つ認めないだろう。今の教皇が在位する限り、お前の生きる道は無いと」
「そんな……」
「私が私として生きるためには、私自身の手で教会を変えるしかない。そうして私はリベルタのディステファノ師のもとに預けられ、そこで聖職者となりました。教会改革の実質的指導者である師に学び、現教皇の下で世俗化が進んだ教会を本来の姿に……全ての人々の信仰の拠り所に立ち戻らせるために」




