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七人の令嬢  作者: 夕景孤影
20/44

20. フリーダ「胸が苦しい。今夜はずっと」


「あの時、司教様にいただいた言葉があったから……長い長い戦いの中で最後まで自分を見失わずにいられました。そのご恩を忘れたことはありません」


たとえ仮の姿と言われても、私にとって目の前の御方はやっぱり司教様でしかない。

ヒュリック殿下もあの時のことを思い出してくださっているのか、私の知る司教様の顔で、また私の心を蕩かすあの澄んだ微笑みで、じっとこちらを見つめた。


「あのような過酷な戦場で聖職者と話す方は皆、神に許しや救いを求めるものです。でもあなたは自分ではなく死者たちの救いを求め、心から涙を流した。なんと美しい涙か……なんと強く優しい方なのかと、雷に打たれたような気がしました。あの時お伝えした通りですよ。貴方ほど神に愛されている方を私は他に知らない」


「そ、そんなことは……」


とても自分のことを言われているとは思えない。そんなに綺麗とは思えない胸の奥底を見透かされそうにじっと見つめられて、顔が熱くなる。


「だから貴方が無事、戦地から戻られたと聞いて、すぐに自分の教区の隊長に推薦しました。公私混同もいいところですが……もっと貴方のことを知りたかったのです。隊員さんたちと仲良くなって、普段の貴方の様子を色々聞かせてもらっています」


「ええぇぇぇっ!?」


あいつら絶対変なこと言ってる!鬼だとか理不尽大王だとか司教様の大ファンだとか……いや全部その通りだけど、私のイメージが……


「皆、本当に貴方のことを慕っているのがよく分かります。街の人たちとお話していても、皆さんのことを悪く言う人はいません。他の教区では規律を取り締まる聖堂騎士団を煙たがる人も多いのですが。それも貴方の人徳と教育のおかげでしょう」


「い、いえ、決してそのようなことは……」


「思った通り……いえ、思った以上に貴方は素敵な方でした。貴方のことを知れば知るほど、その気持ちは強くなる。今この身が聖職者でなければ……そしてダルウィット公という奇妙な肩書きを持たない私だったなら、きっと貴方のことばかり考えて何も手に付かない毎日を送っているでしょう。明日はどうやってお誘いしようか、どんなことを話そうかと頭を悩ませながら」


とても想像がつかない。こうしてヒュリック殿下が情熱的な言葉をくださる度、胸が忙しく高鳴って頭がのぼせてしまいそうになるけれど、私がお慕いするのはやっぱり司教様だ。あの深い思いやりに満ちた言葉や眼差しは敬虔な信仰心あってのもの。聖職にある司教様だからこそ、心からの尊敬と愛を捧げられるのだ。

でも当たり前だけど、聖職者と結婚はできない。せっかく憧れの御方から愛の告白を受けているのに、この気持ちの昂りをどこに持って行ったらいいか分からない。胸が苦しい。今夜はずっと。


「私はいずれ聖職を離れようと思っています。そうすればただの一人の男として貴方にこの愛を捧げることができる。でもその前に、やらなければならないことがあります」


同じ御方を二つの顔に分けて考えるのもおかしな話だけど、私の知っている司教様とは違った顔になって、ヒュリック殿下は続けた。


「周知のようにダルウィット公は先王の子というだけで何の権限も領地も持たない、何物でもない存在です。だからこうして名前を変えれば、別の人間として生きることもできる」


確かに、ダルウィット公がどんな御方か誰も知らない。ダルウィットというのは古代の聖人が神の教えを広めたとされる伝説上の理想郷の名前で、現実には存在しない。つまりダルウィット公は領地を持たず、どこに住んでいるかも知られていない。領地も王位も何も与えられなかった悲運の王子。そんな御方がまさか、素性を隠してすぐ近くにいたなんて。


「私はニコ・フランシスとして教会内で地位を高め、味方を増やし、影響力を強めてきました。内部から教会を改革し、ヒュリック・マルシアルが教会に奪われたものを取り戻すためです」


「教会に……奪われたもの?」


殿下は応接用の椅子を引き、私に勧めた。わずかな所作がとても自然に洗練されていて、気品が感じられる。


「少し座って話しませんか?私のことを知ってもらうには、少々込み入った事情をお話しする必要があります」


「は、はい……」


信じられない話ばかりで頭が付いて行けない。ほとんど何も考えられない状態で、ただ殿下の微笑みに吸い寄せられらように席に着いた。しかも話はまだ始まったばかり。誰も知らないダルウィット公ヒュリック殿下の秘密をこれから私に明かすという。私の頭と心臓はこれ以上の驚きに耐えられるだろうか?まったく自信は持てなかった。


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