17. フリーダ「私を何だと思っているのか」
それから数日後、父の屋敷に呼び出された。例の手紙の件でまた嫌味を聞かされるのだろうか。今回は向こうの都合で会ってすらいないんだから、私が責められる謂れは一つもないと思うのだが。
父は国王軍の最高指揮官である将軍。私は国王の指揮下ではなく教会の指揮下にある聖堂騎士団の一隊を預かる身だ。同じく聖都に駐屯する二系統の武力組織は犬猿の仲とは言わないまでも、常にある種の緊張関係にある。普段は父の立場に気を使って実家にはあまり寄り付かないようにしているが、呼び出しとあれば無視するわけにもいかない。
釈然としない思いをなるべく顔に出さないように、父の執務室に足を踏み入れた。
「この度は私の努力が至らず、またしても父上の顔に泥を塗るような結果になってしまい、誠に己の不甲斐なさを恥じ入るばかりでございます」
深々と頭を下げると、慌てて父が押し止める。
「いや違う違う!今回のはさすがにワシの見立てが悪すぎた。そのことでお前をとやかく言うつもりは無い。いよいよお前の貰い手を見つけるのが難しくなりすぎて少々焦っていたのだ。済まなかった」
そこまでして見つけていただかなくても結構ですと何度も申し上げているのだが。つい憮然とした表情を露わにしてしまう。
「ウチの隊じゃ大人気なんだけどな。お前に一目会いたいって連中は山ほどいるんだぜ?」
「兄上!?」
二番目の兄、レイモンが「よっ」といつも通り力の抜けた態度でソファからこちらを振り返った。私が父に叱られるところを見物でもしに来たのだろうか?相変わらず暇そうで何よりだ。
「俺から一本取れないようじゃ妹には相手にもされねえぞって言ってやったら、みんな目の色変えて稽古に励んでるよ。いや助かるわ」
「……私をダシに使うのはやめてください」
「娘を嫁がせるに値する者が我が軍の中に見当たらないのは嘆かわしいことだな。お前たちの怠慢だ」
「へいへい。己の不甲斐なさを恥じ入るばかりですよ、閣下」
兄が率いるのは国王軍最強との呼び声も高い紅旗隊の精鋭たち。ホルツは別としても、若手が多い私の隊より総合的な実力は上だろう。まさか私をダシに使って鍛えていたとは。実際のところは私がどうというより、将軍の娘という付加価値が目当てなのだろう。父もそれがわかっているから、よほど目をかけた幹部候補でもない限り、国王軍から私の相手を探すつもりはないようだ。でも今のところ、実力でも実績でも兄たちを脅かすような幹部候補は見当たらない。父が嘆くのも無理はない。
「今日呼んだのはそのことではない。次の話だ」
「………は?」
父が切り出した言葉に私は耳を疑う。いくらなんでも節操が無さすぎる。ほんの数日の間に婚約者を取っ替え引っ替えなどいい笑い者だ。私を何だと思っているのか。さすがに剣呑になった私の声色に、父はまた慌てて弁明する。
「いや、今回は向こうから是非にと来た話なのだ。しかも相手がその……まだ詳しくは言えんのだが、大変な家柄の方でな。ワシがお断りすることなどできんのだ」
「父上が断れない相手なんてそうそういるわけが……」
食ってかかる私を押し止めて、父は声をひそめた。
「王家と縁のある御方……としか言えん。ここだけの話だぞ」
「………は?」
「おいおいおい、お前まさかの玉の輿ルートかよ!」
兄上がいつになく興奮気味に話に食い付いてくる。少し静かにしていてくれないだろうか。話に現実味が無さすぎて全然頭に入ってこない。
「私が聖堂騎士だからですか?将軍の娘が教会の組織にいるのを面白く思わない方がいると?」
ワシリウス教国には国王と教皇、二つの最高権力がある。国王は教会を保護し、教皇は国王に神のお墨付きを与える。両者は補完し合う関係だが、その力関係は常に揺れ動いている。例えば国王軍の将軍の娘が教会に属する聖堂騎士として有名になりすぎると、「将軍が教会との距離を縮めている」などと考える人もいるかもしれない。
「まあ……無いとは言えん。何しろお前は目立つからな」
「申し訳ありません」
私のせいではないけれど。という態度に父は苦笑した。
「お前を騎士にするつもりはなかったし、ましてや聖堂騎士団に入ると言い出した時はワシに対する当てつけかと腹を立てもしたが………今となってはお前の働きに文句など付けられん。お前はアルデレヒテ家の誇りだ」
「父上……」
思ってもみなかった父の言葉に感動しかけたところで、話にはまだ続きがあった。
「……だからどこに出しても恥ずかしくはない。無論、相手が王族であろうとな」
……え?あれ?今そういう流れだった?私の騎士としての働きを認めてくれたのでは??
「しっかり頼むぞ」
ガッシリと肩を掴まれる。有無を言わせない圧力に、私は頷くしかなかった。




