16. フリーダ「ただただ敬慕、敬愛申し上げている」
でも今日はそんなことより、もっと大事な用事がある。私は鏡の前でいつもより少し丁寧に髪を整え、香油を染み込ませたブラシを使う。新しく下ろしたばかりの礼服と洗濯したての隊のマントを身に着け、教会に向かう。聖堂騎士団は全員、週に一度の礼拝に参列する義務がある。私にとってはその時間こそが何よりの心の安らぎなのだ。
びっしりと街の人々が詰めかけた聖堂で、教壇に立って教えを説く司教様のお姿………あぁ、なんと神々しい。まるで壁画に描かれた天使のようではないか。すべてが神の調和に則って形造られたような完璧に整った顔立ち、スラリと背筋の伸びた佇まい、まっすぐ人々に向けられた眼差しはどこまでも暖かく慈愛に満ち、穏やかなのによく通る声は聴き入る者の心を限りない優しさで慰撫するかのようだ。
私はこの司教様を愛している。もちろん邪な気持ちなど微塵もない。まったくもってやましいところの無い完全に純粋な信仰心から、ただただ敬慕、敬愛申し上げている。部下たちはまた笑うだろう。異教徒を震え上がらせる鋼鉄の雌獅子が、司教様の前ではまるで借りてきた猫のようだと。笑った奴は後で全員罰走一時間だ、覚えておけよ。
礼拝が終わり、私たちは聖堂の片付けをお手伝いする。そこに司教様がやってきて声をかけてくださる。一週間この時を心待ちにしていた。
「隊長さん、いつもすみません。騎士団の皆さんに片付けまで手伝っていただいて……」
眩しい笑顔を向けられ、心臓がキュンと縮こまる。上ずりそうになる声を鋼の自制心で抑え、忠実な信徒の顔を取り繕う。
「いえ、私たちも信徒であり、教会に帰依する騎士団です。奉仕は当然の義務であります」
司教様は目を細め、小さく頭を下げる。
「ありがとうございます。皆さんはこの街の信徒の模範です。隊長さんが来てくださってから、この街は変わったと皆が話しています。神のお導きに感謝しなくては。貴方と巡り合わせてくださったことを」
なっ……な……なんともったいないお言葉!信頼と親愛に満ちた微笑みで見つめられ、胸の内が幸せで溢れ返る。
「わっ、私もっ!私もこの教区の皆さんのために働けて……そのっ、し、司教様と共に働けて……し、幸せです!」
声が裏返ってしまった。自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。恥ずかしくてまともに司教様のお顔を見られない。
背後で「プッ」とか「ブフゥッ」とか堪えきれずに噴き出した部下たちの声がした。ハインとマルクだな。罰走一時間。
「いかなる時も皆さんに神のご加護がありますように」
司教様は私たちのために祈り、聖堂を後にされた。立ち去る法衣の後ろ姿をうっとりと見送る私を、後ろからホルツが肘でつつく。
「隊長、顔、緩みすぎですって。そろそろ我々も撤収しますよ」
「う、うるさい!わかってる!」
振り向くと部下たちが全力でニヤニヤしている。
「私もっ!司教様と働けて幸せですっ!」
マルクの気色悪い裏声の物真似で全員が噴き出した。聖堂で殴り倒すわけにもいかず、私はそのお調子者を睨みつける。
「いい度胸だ貴様ら。いま笑った奴……全員だな?罰走一時間、プラス打ち込み千本だ。もちろん私が受けてやろう」
全員の笑いが引きつった。
「た、隊長!俺は笑ってませんって……」
慌ててホルツが抗議する。
「うるさい、連帯責任だ。いや、副官は監督責任で便所掃除一週間だな」
「そんな理不尽な……」
こうなることが分かっているのに私をからかわずにいられないんだから困った連中だ。でも、こんな理不尽なしごきになんとか耐えてきたおかげで、若い連中はずいぶん頼もしくなってきた。司教様の信頼に応えるためにも、この第一教区守備隊をどこにも負けない精鋭集団に鍛え上げてやる。
私は意気揚々と部下を引き連れて稽古場に向かった。




