第64話 神撲の剣
私たちはこの時、山の頂の6つ目を超えて下山中だった。二番目の山を越えて麓の休憩所で休憩していた時、ガイドさんが急に「時間がない!私が後ろを守るので急ぎましょう!」と言い出したので、急ぐことになった。ツキ君には使役で主を従わせられるか、三番目の主以外には試してもらっていたけど、全部ダメだった。なんとか励ましてもどんどん落ち込んでいくようで何も出来ないのが歯痒かった。
その前にそれぞれの山の主について振り返っておきたい。とりあえず、めちゃめちゃ死ぬかと思った。生きててすごい!
一番目の主、山々蛇は全力疾走じゃなきゃ逃げきれなかったし、二番目の山の主、力鯉の張り手はもの凄かった。他の四番目、五番目、六番目の山の主たちも、やはり主として君臨するだけあり、凄まじかった。
とてもじゃないが、私一人では倒すどころか抜け切ることも不可能に近いような化け物達だった。しかし、三番目の山の主、大きな釜みたいな鱗を持った兎である茶釜兎は気の良い?魔物だったようで、きちんと頭を下げて一礼したら快く通して貰えた。これを怠るとブチギレてきて、殺しに来るらしい。なんか葉巻も吸ってたし、見た目が怖かった。
四番目の山の主は、猫と狼の雑種、猫狼。かなり大きい狼だと思ったら、猫みたいに縦横に急に止まったり動いたりして私たちを襲ってきた。普通に怖かった。ガイドさんも少し手こずってたくらいには機敏だった。
五番目の山の主は、めちゃめちゃ大きく何本にも枝分かれした角を持つ鹿、神秘鹿。とても静かに佇んでいたので真横を通り過ぎようとしたら、急な突風が吹いて葉っぱや枝が飛んできた。なんとか風魔法を操作して顔付近に飛んでくるものは跳ね返していたけど、他の部分は風が強力すぎて難しかった。ツキ君に使役をつかってもらったけど、怒らせただけで、使役する事は出来なかった。その後、角で刺そうとしてきて怖かった。ガイドさんが角の一部を叩き折ってしまい、ガイドさんと鹿が両方ともがっかりしていた。
神秘鹿は分かる。ガイドさんはなんで?
六番目の山の主は、片刃の剣を咥えた熊、斬熊。大きさこそ普通の町熊程の大きさだったが、この熊は斬撃を飛ばしてきた。他にも剣を振って斬ろうとしてきたり、刺そうとしてきたりして怖かった。でも、ガイドさんが隙をついて剣を蹴っ飛ばしたら、その剣が木に刺さってしまい、必死に剣を抜こうとする熊の姿はかわいかった。私たちはその隙に逃げたのだが。
そんなこんなで、私たちは六番目の山を歩いて下山中だった。「今日も今日とてちょっと疲れたな、でも後2日でナズナ様の村まで行かないといけないし頑張らなきゃな」と思っていたら、茂みがザザッと揺れた後、その茂みから筋骨隆々で上半身裸で強面の大きな男の人と一本の線みたいな髭を2本生やして手の隠れるほど袖の長いゆったりとした服を着ているハゲているおじいさんが出てきた。私はその事にひどく驚いてしまう。
なんの気配もなかった……!
ルースちゃんもそうだったのかはちょっとわからないけど、男の人たちが出てきた瞬間に即座に剣に手を添えていた。ガイドさんは静かに佇むだけ。そんなガイドさんの後ろにツキ君は隠れていた。私はルースちゃんが剣に添えている手に私の手を添えた。明らかに敵意はあるように思う。思うのだが。
(男の人)「コイツらか?」
(おじいさん)「じゃろうな、時間的にもコヤツらしかおるまいて」
(エイン)「……?あの……?何かお困り事ですか?」
明らかに遭難者な見た目はしてないし、敵意は感じる。でもかといって、人を見た目で判断するのは良くない。うん、良くないと思う。たぶん、いやでもこの人たちは……、どうなんだろ?
(男の人)「単刀直入に言う、アクセサリーを渡してもらおう」
(エイン)「アクセサリー……ってなに?」
(男の人)「惚けるな。ナズナに渡す赤い耳飾りを持っているだろう……!寄越せ!!」
(エイン)「持ってるけど……、嫌だ」
(おじいさん)「まぁ、そうじゃろうな。それは分かっとる。故、こうして我らが赴いておるのじゃからな。この神撲の剣が八傘、がな」
(エイン)「……?なに?だれ?」
自己紹介されたのかな?でもその神撲の剣がわかんないしな。仕方ないね。
(ルース)「噂は伺った事があります。エデン祭を廃止しようとしている団体なのだとか」
(ガイド)「まぁ、そんな組織があるのですね」
相変わらず軽いなこの人。というか、皆んなそこまで知らないのか。
(男の人)「……」
(エイン)「……てへっ!」
とりあえず頭をこつんとしてみた。
(男の人)「コイツ……!」
やらなきゃ良かった。
(ツキハ)「神撲の剣はとても強い集団だと聞いています……!その中でも8人の幹部である八傘は皆、一人で山の主と張り合う事が出来てしまう程の実力者集団だと……!」
ガイドさんの後ろでビクビクとしているものの勇気を出して私たちに知っていることを教えてくれたようだ。
(おじいさん)「坊主、よく知っておるな。然り、我ら八傘は神撲の剣が筆頭である一番傘に、その実力を認められた精鋭よ。ただ、実力は拮抗しているとは言い難く、番号が若くなるにつれてより強い実力者になっていく。特に一番、二番、三番傘の実力は折り紙付きだと言われておる」
(エイン)「……、おじいさんは……!?」
(おじいさん)「八番傘じゃ、コヤツは七番傘よ」
その言い方で三番傘とかじゃないんだ。
(エイン)「三番傘とかじゃないんだ……?」
(おじいさん)「三番傘に我らなど遠くも及ばぬ。儂らは弱い。しかしそれでも、主らが渡してくれぬというのなら、力尽くで奪い取るまで!」
おじいさんが急に飛び出してきて拳が目の前に飛んできた。私は少し反応が遅れる。
しまった……!避けられない……!
私の顔に拳があたる寸前、拳が止まった。ルースちゃんがおじいさんの手首を掴んでその拳を止めてくれた。
(エイン)「ルースちゃん!ありがとう!」
(ルース)「どういたしまして。……、相手なら私がします。二人まとめてかかってきても構いません。正々堂々、勝ってみせます」
(男の人)「ふっ……、1対2を正々堂々か。道義に反するがそれをおまえが望むなら仕方あるまい……」
(ガイド)「お待ちなさい!確かにルースさんだったらお二人に勝てるでしょう。しかしそれは、1対1の場合、お二人を同時に相手して勝てる保証はありません!私も加わります!」
(おじいさん)「ほっほっほ、若僧が舐めよって……」
見た目が若い人なだけで中身は400歳越えの妖怪ババアだよ。すみません、言い過ぎました。睨まないで下さい。というか、心読まれてる?
(ガイド)「エイン、ツキ君を連れて先に進みなさい。休憩所の方が安心して過ごせるでしょう。任せます」
(エイン)「わかった!行くよ!ツキ君!」
私はツキ君をおんぶして走り始める。その瞬間、七番傘の人が私の目の前を塞いだ。その七番傘の人をルースちゃんが蹴り飛ばす。
(ルース)「エインに触れたければ私たちを倒すことです!エイン!頑張ってください!」
(エイン)「うん!ありがとう!ルースちゃんも頑張って!」
私は山を駆け下り始める。
(男の人)「大した度胸だ……!若い芽を摘みたくはないのだがな……!」
(ルース)「ご心配なさらず。一度夢を諦めた私に再び夢を与えてくれた友人がいつも傍に居てくれるので」
(おじいさん)「ふむ。それは強い。儂らも本気でやろうか」
(ガイド)「八傘とやらの実力、拝見させていただきます」
……………
私とツキ君が山を駆け下り始めて暫くして、休憩所が見えてきた。その瞬間、背中に走る凄まじいほどの寒気。
(エイン)「ツキ君!!ごめん!!」
私はツキ君を地面に打ち付けるようにして背中から転けた。地面にこけたのだ。にも関わらず私の前髪を少しだけだが剣の刃先が掠めた。あのまま立っていたら首に当たっていた可能性がある。
(エイン)「ツキ君ごめんね!大丈夫?!」
(ツキハ)「は、はい……、なんとか……」
(女の人)「よく気が付きましたね。まぁ気がつくような殺気を込めさせて貰いましたけど」
片手に剣を持った儚い目をした金色の長い髪をした女の人が目の前に佇んでいた。雰囲気がとても雅な人だった。
(女の人)「ここに来るまでに"トーン"と"バルサム"が貴方を止めた筈ですが……、どうされたのでしょう?まさか貴方が勝ったとでも言いませんよね?」
(エイン)「……だれ?」
状況的には……、七番傘と八番傘の人かな……?
私はこの間に態勢を直して女の人の前にしゃがみ込んだ。
(女の人)「またあの人たちは……、七番傘と八番傘と名乗った者が居られませんでしたか?」
(エイン)「いました……、今私の仲間が足止めしてくれています」
(女の人)「そうですか。それはそれは」
私はツキ君の背中を叩いてツキ君をしゃがみ込ませる。そして小声で話す。この間にこっそり赤い耳飾りをツキ君のポケットに入れた。
(エイン)「ツキ君、休憩所まで走って逃げて」
(ツキハ)「で、でも……!」
(エイン)「ツキ君はカッコいい魔物使役者になりたいんでしょ?なら、生き残らなきゃ……!逃げて……!」
(女の人)「その言葉が聞こえないとでも……?」
(エイン)「ツキ君行って!!」
私はツキ君の背中を思いっきり押してツキ君を走らせた。そして女の人の前に向かい合う。
(女の人)「……、では失礼」
そんな私を気にもせずに女の人は私の横を通り抜けようとした。けど、私は女の人を腕を掴んで素通りは阻む。
(女の人)「離してくださいませんか?私は【赤い耳飾り】が欲しい。それはあの子が持っているのでしょう?」
バレてる……でも……
(エイン)「赤い耳飾りは私が持ってるよ。当たり前でしょ。私が持ってた方が君たちに奪われなくて済むからね」
私はこの時、腕を掴んでいた腕とは反対の腕でポケットをわざとらしく叩いた。
(女の人)「とんだハッタリをかますものですね」
(エイン)「ハッタリ?事実だよ。でも、君と戦うには全力を出さなきゃいけない。それにはあの子が邪魔だった。だから行かせただけだよ。弱い子を守って戦うのって大変なんだ。実力が出せない。邪魔者がいて勝てませんでしたって笑い話にもならないでしょ?負けた言い訳づくりはしたくない、それだけだよ」
(女の人)「よく喋りますね。嘘だという事を自白しているものですよ。我々の目的はあくまでネイチャルエデンを亡き者に変える事。貴方方を相手することではないの、失礼」
私は手を払ってこようとする女の人の腕をギュッと掴み直す。
(エイン)「逃げるんだ?賢明だね、私でもそうする」
(女の人)「逃げる?貴方から私が?つまらない挑発をしますね」
よし、食いついた。これで……、時間が稼げる。
(エイン)「……だってそうでしょ?嘘ついてると思いました、だから子どもの方を追いました、結果、『アイテムを奪えませんでした』って言い訳が立つんだから。【無様に負けてアイテム取り損ねました】なんて、本当のこと言えるわけないもんね?」
(女の人)「……、……、良いでしょう。相手をしてあげます。神撲の剣が三番傘、"ジェール・スリュウ"、いざ参ります……!精々、足掻きなさい」
(エイン)「……っ!こっちのセリフ、やっぱり逃げとけばよかったなんて後で言っても知らないから……!」
私は少し距離を取った後、今までとは桁違いの闘気を放つジェールに対して、剣を構えた。
お疲れ様です。洋梨です。
山の主と張り合えるほどの強強集団登場。




