第65話 それが私の決めた事
※戦闘シーンにつき、第3者目線で書きます。
エインが剣を構えた瞬間、ジェールはエインの腕を後ろに抑えて喉元に剣の刃を突きつけた。
(ジェール)「1」
ジェールがエインを離して蹴っ飛ばす。エインは地面に転がるがすぐに態勢を立て直す。しかしその瞬間、再び腕を取られた後、地面に押さえつけられ喉元に刃を突きつけられる。
(ジェール)「2」
ジェールは再び、エインを離して距離をとる。エインはすかさず起き上がったが、その瞬間頭に踵落としをくらい、地面に顔を打ちつけられた。そしてそのまま顔を踏みつけられる。
(ジェール)「3」
4,5,6……、その後もジェールのカウントはどんどん積み重なっていく。脇に剣を挟まれ、首に剣先を突きつけられ、転がった上から臍に向かい剣を突き立てられ、ありとあらゆる方法で、『今ので命は奪えた』と言わんばかりにカウントを重ねていく。実際その意味が大きく、エインもそれは分かっていた。
(エイン)「はぁ……はぁ……はぁ……」
明らかな実力不足。エインの攻撃は掠りはするものの、一つも当たらず、逆に隙をつかられて攻撃され続けた。故に、今ここで立っているのも精一杯。「(敵うわけない……、強すぎる……!)」そう感じているエインだが、それでもエインの瞳から意志を奪う事は叶わない。
(ジェール)「カウントは10、つまり10回もの死の宣告を受けたとは貴方も感じているでしょう。たとえ、【その気】がなくとも、これだけの実力差を見せつけたはず。なのに……」
ジェールが真っ直ぐにエインに突っ込み、肘を鳩尾に入れた。カウントをして実力差を分からせる方法を好んで使ったジェールが放つなんの策略もない【真っ向から沈める一撃】、エインは腹を抑え、「きゅぅ……」という声にもならない声をあげて、うずくまる。それでも尚、エインは立ち上がろうとする。依然、エインの瞳が死ぬ事はない。
そのエインとは対照的に、ジェールの顔は少しずつ曇っていく。
(ジェール)「もう、良いでしょう。これが今の貴方と私の実力差。先ほど申し上げた通り、我々の使命は貴方方の命を奪うことではない。失礼」
ジェールがエインを捨て置き、去って行こうとする。そのジェールの足をエインは必死に掴んだ。
(ジェール)「……、そうですね。肝心な事を忘れていました」
ジェールはエインのポケットを漁る。そして赤い耳飾りがない事を確認した。
(ジェール)「やはり持っていなかったようで。それでは失礼」
再び歩き出そうとするジェールの足は引っ張られる。エインはジェールの足を離さない。半分目が座っているほどに気が離れていってるにも関わらず、それでも瞳の奥の光をジェールは捉えてしまった。
(ジェール)「……、これ以上やれば本当に死にますよ。それは貴方も分かっているでしょう。何がそこまで」
(エイン)「私は……!勇者様になるんだ……!!約束したから……!!ダブル勇者様になろうって……!!」
(ジェール)「貴方の何が勇者たらしめるから分からないけれど……」
ジェールはエインの胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げた。
(ジェール)「その心意気は立派です。ですが、我々には何も関係のない事。命を取ると言っているわけではありません。【赤い耳飾り】、我々はこれが欲しいと言っているだけです」
(エイン)「ぐっ……!でもそれは……!エデン祭をなくすって……!ことでしょ……!果てはネイチャルエデンを殺すって……!」
(ジェール)「……、はい。最終目標はまさに」
(エイン)「私はここの出身じゃないから……!何があったか知らないし……!ネイチャルエデンに何の恨みがあるかは知らないけど……!祭りがあるって事は……、ネイチャルエデンは【人の心の拠り所】だ……!私利私欲で……!無くしていい人じゃない……!!」
(ジェール)「……、他所者に我々の痛みは分かりませんよ。それに勇者を目指しているという事は、インカ・ノートをご覧になっているはず。ネイチャルエデンは『関わる事を禁ずる』ほどの邪神です」
(エイン)「邪……神……!」
エインの脳裏によぎる一筋の記憶。温かい笑顔と優しい頭の撫で方。エインはジェールの手を掴む。
(エイン)「……、勇者様になるって事……!笑わないんだね……!」
エインは思い出したネイチャルエデンの記憶をそっとしまい込んだ。
(ジェール)「えぇ。【神殺し】、それが我々の最終目標、『馬鹿げた夢はお互い様』ね。でも……、我々は必ず成し遂げるという意志がある……!それは貴方もじゃないですか?」
(エイン)「うぐっ……!」
ジェールの言葉に呼応するようにエインの手はジェールの手から離れた。
その瞬間、少し遠くから感じる身震いする程の禍々しい闘気。ジェール、エイン共に少し身体が固まってしまった。
(エイン)「(これガイドさんの……、今の……うちに……)」
エインはジェールが動かなくなっていると判断し、ジェールの手を外そうとジェールの手を再び掴んだ。しかしジェールは笑ってエインの顔を見つめる。その額には汗をかいていた。それでもエインの思惑とは裏腹にジェールはの腕の力は弱まらない。
(ジェール)『コレは……、ヤバい……!貴方の仲間ね……、これほどの人を相手にしないといけないか……、でもそんな事で諦めるほど、私たちはヤワじゃない……!神殺しを決意した時から命なんて捨ててるの……!』
ジェールはエインを地面に落とした後、エインを見下ろしながら剣先を喉元に突き立てた。
(ジェール)「仕方ありません……、私は早く子どもを追わねばならない。邪魔をするというのなら、次は本当に殺します。そのまま倒れていてくれますね?」
エインが身体起こす為に手に力を入れ、指が土を抉った瞬間、二人を包む大きな鳥の影。上空にいた漆黒の鳥。その上にはツキハが乗っていた。
(ジェール)「あれは……!!大黒鷲……!!?何故ここに……?!本来山の主は自ら他の山には来ないはず……!……っ!なるほど……!あの子!!魔物使役者なのね!?」
(エイン)「ツキ君……」
そう呟いたエインが思い出した記憶。ルースが一刀で首を斬り落とした大黒鷲。しかし目の前に現れたのはそれよりもさらに大きな漆黒の鳥だった。
(エイン)「大黒鷲……?あれ……?知ってるのより……、大きい気が……」
(ジェール)「山の主を張れるほどの個体、他の個体よりも大きく強いのは当然でしょう……」
ジェールが上空にいる大黒鷲とツキハの攻撃に備え、構えを直した。タイミングを見計らったようにその瞬間、大黒鷲が急降下してくる。そしてそのまま嘴でジェールを突き刺そうとするが、ジェールは剣の背でそれを受け止めた。足元の地面がひび割れるほどに最大限に力を込める、しかし、大黒鷲の力は強く押されていく。
ツキハは大黒鷲から飛び降り、エインの側まで駆け寄った。そしてエインの肩を持ちエインと共に近くの茂みに向かい走りだす。
(ツキハ)「その人を倒せ!!大黒鷲!!!」
その声に呼応した大黒鷲とジェールは戦いが始まる。ツキハとエインは急いで茂みに隠れた。
(エイン)「ツキ君……、使役できるようになったんだね……、良かったね……!にひ……!」
(ツキハ)「エインさんのおかげです……、エインさんが逃がしてくれたから……、エインさんの為に何かしなきゃって……、それで……、使役のカクシンに至ることができました……!」
(エイン)「……、頑張ったね……!」
エインはツキハの頭を撫でた後、フラフラと立ち上がる。剣を持ち、呼吸を入れて息を整え、足に力を込める。
(ツキハ)「エインさん!?何する気ですか?!」
(エイン)「私たちは……、決着をつけてない。私が勝つにせよ負けるにせよ、あの人が勝つにせよ負けるにせよ、私たちは決着をつけなきゃならない……!」
(ツキハ)「ダメです!使役だって切れるかもしれない!危険です!!」
(エイン)「それでも……、私はあの人と決着をつける……!どんな形でも……!それは私の意地なんだ……!」
エインからの熱烈な気持ちをぶつけられるジェールは傷だらけであった。山の主に張り合える、それは楽に勝てるというわけでもなく、また、勝てる保証があるものでもない称号。八傘の中でもその実力を認められる三番傘であるジェールですら、山の主を相手にすると良くて辛勝にしかならない。故、傷だらけのジェールの前にいた大黒鷲も深傷を負い、両者互いに距離をあけて牽制していた。
(ジェール)「はぁ……はぁ……はぁ……」
両者互いに距離を取る中、エインはジェールの後ろの茂みの中から飛び出してくる。突如現れたエインを警戒したのか、はたまた使役の効果が切れたのか、それとも両方か、大黒鷲は大きく羽ばたき上空まで一気に飛び上がった。そしてそのまま何処かは飛んでいく。
ジェールは安堵して少し気が抜けたのか、足がかくつき、剣を地面に刺して支えにした。エインは少しだけ後ずさった後、そのまま足に力を入れて飛び出した。
(ジェール)「帰っ……た……?」
ジェールが深く呼吸をして背筋を伸ばした後、首を後ろに傾けた。その刹那、まるで「ごめんね……!」とでも言いたげな悔しそうな顔のエインから放たれる剣の背による全力殴打を後頭部に当てられ、そしてそのまま地面に叩きつけられた。
ジェールは大黒鷲との戦いの傷もあるが、不意を突かれた全力殴打を頭に与えられた。なんとか立ちあがろうとするものの、体が上手く動かずにそのままうつ伏せで倒れている。
(ジェール)「ぐっ……!!(忘れてた……!!この……なんて……!ひ……)」
ジェールは突如、立ちあがろうとする行為をやめて仰向けになるように転がった。
(ジェール)「参った……!」
(エイン)「っ!……」
罰の悪そうな顔をするエインを見て、ジェールは少し微笑んだ。
(ジェール)「気にすることはないのよ……、私の不意打ちは決まらなかった……、でも……、貴方の不意打ちは決まった…….、それだけの事……」
(エイン)「……、ごめんなさい」
ジェールに認められてなお、罰の悪そうなエインを見てジェールは大きく笑った。
お疲れ様です。洋梨です。
エインちゃんは、実力不足なので正攻法ではまだ基本的にはタイマンでの勝負に勝てない。




