第63話 侮る見た目ではないはずなのに
2つ目の山を登り始めてすぐ、何処からか一定のリズムで「ドシーン」という音が聞こえて来た。ちょっとテンポが良い間隔だということと、かなり遠くから聞こえてくるものだということは分かった。
(エイン)「この音何?」
(ルース)「この音はですね」
(ツキハ)「力鯉の稽古音です!!!」
やる気バッチシ、と言った感じだろう。ツキ君は勢いよく話し始めた。
(ツキハ)「力鯉は山の頂上にある主の中で!!!唯一稽古を積む魔物なんですよ!!!地面に打ちつける張り手は山の麓まで音を響かせるという話を聞いたことがあります!!!!」
(エイン)「稽古?」
(ツキハ)「僕も実際見たことはないのであまり分かりませんが!!!ひたむきに山を向き合う姿はまさに生ける闘神さながらなのだとか!!!!」
(エイン)「そっか。闘神なんてかっこいい響きだね!」
(ツキハ)「はい!いつか僕もそれくらい強くなりたいんです!!」
(エイン)「うん!頑張ろう!」
私たちが山の中腹まで進むと突然ルースちゃんが立ち止まった。空を見上げて脱力しているようだった。私はルースちゃんのそばにそっと寄る。
(エイン)「どうしたの?」
(ルース)「この辺りから力鯉の影響範囲ですね」
(エイン)「影響範囲?何それ?」
(ガイド)「今に分かりますよ」
(エイン)「???」
(ガイド)「ツキ君は私が抱えておきますね」
そう言ってガイドさんはツキ君を脇に抱えた。ツキ君は恥ずかしいのか最初遠慮していたけど、ガイドさんが強引に持ち上げた。
なんか危ないことがあるのかな?
ふと足下に目をやると、砂が舞っている。小石も少し動いているようだったが、これが影響なのかな?よく分かんないや。
そして、私たちはまた山を登り始める。そしたらどうだ、山を登るたびに地響きはするし地面が跳ねている。しかも一定のリズム感覚でだ。私は地面が跳ね始めた直後に対応出来なくてこけてしまった。
(エイン)「いったぁ……、うわ!うべ!どぅわ!」
(ガイド)「早く!立た!ないと!この、奇妙!な!地震!は!止まり!ません!よ!」
ガイドさんとルースちゃんは跳ねる地面に合わせてピョンピョンと跳ねていた。ツキ君はちょっとグロッキーだったけど。
(エイン)「止ま!らない?!」
(ルース)「これは!力鯉の!張り手が!山を!揺らして!起こす!地震!なんで!すよ!」
そんなバカな。どれだけ強い張り手なんだ!地震を起こすほどの張り手なんて……
(エイン)「そんな!バカな!」
(ガイド)「バカな!こと!が!起こせて!しまえる!それが!山の!主!という!こと!です!」
寝そべっていても埒が明かないので、私はルースちゃんの動きを真似て同じタイミングでジャンプする。それでも普通にこけた。
(エイン)「うびゃ!どは!どえ!」
(ルース)「力を!抜いて!ください!脱!力!が!鍵!です!」
言われた通り脱力する。
ヤバい、跳べない。
またこけた。
(エイン)「ぎゅわ!どわ!ぶわ!」
(ガイド)「跳べ!ない!ほど!脱!力!しろ!なんて!ルース!さんは!言って!ません!よ!」
(ルース)「軽く!跳べる!程!度!に!脱!力!して!くだ!さい!この!反!動!で!跳ぶ事!を!意識!して!くだ!さい!」
反動で跳ぶ……!よし!それなら!
(エイン)「ほっ!はっ!ひゅっ!」
私は下からくる衝撃を利用して跳ぶように辛く力を抜いてから跳んだ。そうすると、あまり力を使わずに地面が響くタイミングに合わせて跳ぶことが出来るようだ。
よし!跳べた!!
(ルース)「お!見事!です!では!いき!ましょ!う!!」
(エイン)「は!あ!い!」
そこからぴょんぴょんと、ずっと跳ねていた。どこまで跳ねていたかというと山頂までずっとだ。山頂に着いた時、ちょうど稽古?が終わったのか。疲れた顔をした大きな魚がへたり込んでいた。かなり大きめの魚で、全長が15メートルくらいある気がするくらい大きかった。筋肉があるかは分かんないけど、見た目は筋骨隆々な感じでゴツかったけど、それでも、なんとも愛くるしい見た目をしていた気がする。
か、かわいい……!金魚みたい!
(ガイド)「ちょうど休憩時間のようです。今のうちに逃げちゃいましょう!」
(ツキハ)「うっ!!オロロロ〜!!!」
(ガイド)「あ、吐いちゃいました」
なんか軽いな。もっとこう、なんかあるでしょ!
私たちは、ツキ君の容態が回復する迄少し道を戻った所にある近くの茂みで隠れる事にした。ツキ君は途中からずっとグロッキーだったが、今まで我慢していたのだろう。小さいのに相当強い子だ。
(ツキハ)「す、すみません……」
(エイン)「謝らないで。むしろ、私たちも休憩できてラッキーって感じだから!」
(ツキハ)「エインさん……!」
(ガイド)「……、そうですねぇ。そういえばルースさんは力鯉のような魔物は得意ですか?」
ガイドさんはとても穏やかな口調で話し始めた。いつものみたいなバカさ加減がまるでない。
(ルース)「得意、と言いますと?」
(ガイド)「実力云々関係無く、見た目が苦手な相手には遅れをとる事が有るので、もし戦いになった場合の事を考えておいた方が良いかと思って」
(ルース)「なるほど!ご心配には及びません。生きているものであれば大丈夫です!」
(エイン)「やっぱりお化け怖いんだ?」
(ルース)「や、やっぱりとは?」
(エイン)「え、だってガイボンの時に」
(ルース)「あれはあれ!これはこれ!ですよ!エイン!!」
急にルースちゃんは肩を持ってブンブン降ってきた。ふっ、また弱点見つけちゃったぜ。
そんなこんなで少し時間が経った後、ツキ君は嘘のように回復した。
本当にビックリした。こんなケロッと回復するもんなんだ、と思ったくらいに。
(ツキハ)「さぁ!行きましょう!」
(ガイド)「そうですね、いきましょ!わ!!」
急にまた地震が起き始めた。つまり、力鯉の稽古が再開した。改めて感じる衝撃の強さと音のデカさ。半端じゃない、この余波だけで充分な攻撃になり得るレベルだ。
(ガイド)「……、ルース!さん!ツキ!君!のこと!頼み!ます!」
(ルース)「は!はい!」
ルースちゃんはツキ君をお姫様抱っこしてぴょんぴょん跳ね始めた。私も最初こそはこけたが、すぐにぴょんぴょん跳ね始まる。
そのまま山頂まで来た。ツキ君は何とか平静を保とうとしていたが、もう既にグロッキーだった。
力鯉は私たちに気がついたらしく一旦地面に打ちつける手?前ヒレ?を止めた。ルースちゃんは「お先に失礼します!」と言った後、すぐに新しい山への道を駆け降りていった。対して私は地響きというには強すぎる振動が止まった反動なのか、私は少し身体が止まってしまったので、力鯉を見た。その瞬間、力鯉と目が合った。力鯉は器用に片方のヒレだけ上げてきた。
(ガイド)「まずい!エイン!失礼!!」
(エイン)「え?どは!!」
ガイドさんは急に私を蹴っ飛ばしてきた。私は防ぐことが出来ずに地面をゴロゴロ転がる。あまりの事に「何するんだこのスケベは!!」とは正直思ったが、その数瞬後、私はガイドさんに感謝する事になる。
なぜなら、私がいた場所から直線上に新しい道が出来たのかとでも思うくらい綺麗に深く抉られた道が出来ていたからだ。
(エイン)「……は?何……?これ……?」
あまりの事に言葉を失ってしまう。それほど迄に衝撃だった。鳶玉・檸檬でもここまで地面を抉らない。それに抉られた地面や石、果ては草木がどこにも見当たらなかった。つまり、衝撃で全て遠くの彼方へ飛ばされたという事だ。
バケモノすぎる!!
私が呆気に取られていると、ガイドさんが手を叩いて大きな音を出した。
(ガイド)「はやく逃げなさい!私が最後尾を務めてあげますから!黒炎魔術・終炎の呼声!!!」
(エイン)「う、うん!ありがとう!!」
私はガイドさんに言われた通り、先に山を駆け降りる。その際、少しだけ振り返ってガイドさんたちの様子を見た。
ガイドさんは黒い炎で小さな盾を何個も作っていた。力鯉は上体を起用に起こし、ガイドさん目掛けて何回もヒレをパチパチしていた。パチパチする度に物凄い音と風が飛んできていたように思う。それを黒炎の盾が防いでいるように見えた。
なんだあの盾、強すぎる。
ガイドさんが最後尾を務めてくれたからとて、山を駆け降りるのは大変だった。上りは地響きの影響なのかあまり魔物が襲って来なかったが、下りは魔物が大量に出てきた。私はそれらを全て無視して、ルースちゃんのところへ急いだ。だってルースちゃんはツキ君を抱いてる。魔物と交戦出来ないからだ。
私が必死にルースちゃんを追う事しばらくして、私は山の麓にある結界の張った休憩所に着いた。その直後にガイドさんも追いついて来た。
(ルース)「あら、お疲れ様です。ご無事でなによりです」
めっちゃ涼しい顔してるルースちゃん。力鯉と戦い
殿を務めてくれたガイドさん。
この人たちもバケモノ側だったの忘れてた……
お疲れ様です。洋梨です。
1000文字とかの方が読みやすいのではないかと思い始めましたが、それだと話数をめちゃめちゃ区切ら必要があるのではないかと思うこの頃です。
Q.終炎の呼声ってどんな技?
A.炎の形を自由自在に造形出来る技です。今回は盾でしたが、剣や棍棒にも出来ますよ。




