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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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デート・パニック 7


 刃が3階に辿り着くと、そこはもはや煙と炎で充満し、辺りの様子を目視することすら叶わぬ状況。


 しかし、何故か声の聞こえる方向へ刃は迷わず走る。その声が導く方へ。

 やがて一番端のまだ火が回りきっていない部屋の前で止まり、扉を開けてみる。


「……藍!?」


 いた。部屋の真ん中に寝ている藍を見つける。急いで刃は走り寄って藍を抱きかかえた。


「藍! 藍! 大丈夫なのか!? しっかりしろ藍!」


「…………あ、い?」


 その声にゆっくり藍は目を開け、刃を見つけると微笑んで見せた。


「……藍!?」


 少しすすを浴びて頬を黒ずめた藍を刃は強く抱きしめる。


「ごめんな……俺が少し目を離したせいで……ごめんな……」


「……あー……い」


 気にしないで、そう言うように藍はニッコリ精一杯の笑顔で刃の背中を摩る。よし、藍は見つけた。これであとは一緒に逃げるだけ──




──ドガアアァァァアア!!!




「!?」


 爆発が近い。刃がハッとして上を見ると、またも天井が崩れてくる。


「!? しまっ……」


 回避が間に合わない。ここまでか。刃は咄嗟に藍を自身の身体の下に隠した。


「『初紋字ファーストスキルざん』!」


──スパァ!


 その時だった。刃達と瓦礫の間に割って入った影が瓦礫を真っ二つにしてみせる。


「(…………流斗? 光?)」


 助けてくれる可能性のある2人を考えたが、どうやら違うようだった。刃がゆっくり顔を起こすと、そこに立つ影が1つ。

 その影はキャスケットを被り、この黒の景色に馴染む黒い翼を生やす。

 そしてその左手には、デカい鎌を携えて。


「……あんたは」


「……ごめんね。やっぱり、じっとしてなんかいられなかった」


 そう、さっきまで刃が「亮」と呼んでいた人物だった。


「こんなとこまで来て……とにかく早く! 早く逃げ……ゲホッ!」


 その時、刃の身体を守っていた光の紋字が切れる。まずい、これはまずい。ここには光がいないからかけ直してもらうことも出来ないし、藍にも危険が及ぶ。


「(や、やばぇ、このままじゃ……!?)」


「……大丈夫だよ」


 ゆっくりその女は刃に右手を伸ばし、左頬に触れる。


「ゲホッゲホッ……って……あれ?」


 その手が触れた瞬間、刃の身体から息苦しさが消えた。


「……私のI'temはこういうときに一番役に立つの。ごめんね、本当に」


 そうして、女は顔に影を落とす。


「……私が無理に言って藍ちゃんから目を離さなければ、こんなことにならなかったかもしれないのに……本当に、ごめんなさい」


 そう言って彼女は頭を下げた。やはり流斗が言うように、やはり亮ではないのだろう。


「……やっぱりダメだ、私。『代わり』すらうまくやってあげられない。やっぱり……私は『あの子』に何もしてあげられない」


「……『あの子』って……亮のことか?」


 コクッと1回頷く。


「……私は、昔からあの子に頼りっぱなしだったのよ。なのに私はあの子を放ったらかして、好き放題やってきた。だから、せめて少しくらいは、優しすぎるあの子に代わって、君に近づこうとした」


 つまり、亮として自分に近づくことが目的であったらしい。泣いて下を向く顔色を刃は伺うことは出来ない。


「でも……やっぱダメだった。情けないなぁ。せっかく君の話をあの子から聞いたとき、『これだ!』って思ったのに……それすら……うまく叶えてあげられないんだもん」


「…………」


「……ハハッ、笑っちゃう……『ただの代わり』すらうまくできないなんてね。やっぱりあの子にとって……私なんて、いないほうがよかったのかな」




──ぐにっ。




「!!?」


「お前、バカじゃないのか?」


 刃は俯く彼女の両頬をつねって上を向かせる。自分もバカであることは自覚していたが、自分以上のバカがいるとは思わなかった。


「ひゃ、ひゃにを(何を)!?」


「あんた、亮を大事に思ってるんだろ? そのくらい見てりゃわかる」


 パッと手を離してから、刃は辺りを見回しながら続ける。


「今回の事だってわざわざ亮に扮して俺に会いに来たくらいだもんな。それがどういう意味なのかはよく分からないけど、亮の為に時間と金と燈気を使ってこんなことするくらい、大事に思ってるのはわかった」


「……そ、そうだよ! でも、失敗したんだよ。なら、私はただあの子に恨まれて──」


「あはははは!」


 突然笑いだした刃に彼女は困惑する。こんな状況で気でも触れたのだろうか。


「え、えっと、刃君?」


「あんた、亮が本当に自分を恨んでると思ってるのか?」


「そ、そんなの当たり前じゃない! あの子は気を使って言わないけど──」


「それ、気を使ってる訳じゃなくて、多分本心だぞ」


「……へ?」


 彼女が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている間に、刃は窓から覗いて下を確認する。


「ちゃんと亮に直接言ったのか? 『迷惑かけてごめんなさい』とかさ」


「い、言ったよ! そんなの当たり前でしょ!? でもあの子はいつも『大丈夫』って言うんだよ! 私に気を使って、なんでもない顔して、だから私は──」




「じゃあ、お前はなんで亮のその言葉を信じてやらないんだ?」


「…………え?」




 近くにあったロープで寝ている藍をしっかり体に固定する。これで身体から落ちる心配は無くなった。


「だってそうだろ? お前は亮が『大丈夫』って言うことを信じてない。亮が『本当は自分に気を使ってる』って決めつけてる。誰より亮を、他人を信用出来てないのは……あんたじゃないか」


「そ、そんなこと……」


 ない、と言えなかった。確かに私は亮の気持ちを決めつけていた。いくら言い訳したって結果的にはそういう事なのだから。


「……じゃあ、私はどうすれば良かったの? 私は、どうしたら……」


「簡単だ。亮を信じればいい」


「……え?」


「亮の『大丈夫』を信じればいい。裏なんて考えず、素直に言葉に甘えればいい。あんたと亮がどんな関係かはわからないけど、信じられる関係なんだろ?」


 信じる。そんなことでいいのか? 私は今まで、彼女に好き勝手してきたというのに。


「……でも、そんな身勝手な……」


「大体、亮が恨むわけないだろう? どんな事があったか知らないけど、俺の知ってる亮はちっとやそっとじゃ怒ったりしねぇ」


「……えっ!?」


 そう言いながら刃は彼女に近づいて彼女の手を引く。


「なんにしても、まずは脱出するぞ! 話はそれからだ!」


「ちょ、ちょっと刃君!?」


 そう言って窓の方へ走り出した。そして窓の近くまで来ると、刃は彼女をお姫様抱っこ。


「……っ!?」


「行くぞ! しっかり捕まれ!」


「ま、待って刃君! こんなとこから落ちたらタダじゃ──」


「大丈夫だよ……よっと!」


 そう言いながら刃は彼女を抱えたまま飛び降りる。


「きゃあああああああ!!!」


 死ぬ。そう思った彼女は強く目を瞑った。でも、刃は真っ直ぐ下を見る。




「……俺は、信じてるからな。仲間を」

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