デート・パニック 4
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「えぇぇいッ!」
バン、バンという銃声で画面上のゾンビ達が倒れていく。
「うぉ!? うめぇじゃんか、亮! 全弾ヘッドショットだと!?」
「へっへー! こう見えても射撃は得意なんだから!」
そう言って次々とゾンビを蜂の巣に。意外だ。意外すぎる。亮がこんなに活発に動くことも、射撃が得意だということも。
しかし、こちとらこのゲームはやり込んでいる。今日ゲーセンデビューの亮には負けていられない。
「負けてられるか! おらぁ!」
負けじと刃も応戦。ゾンビをバタバタと倒していく。
「私だって負けらんない! 私の方が絶対、多く潰すよ!」
「(それは女の子としてどうかと思うぞ……亮)」
心でツッコミつつ、刃は画面から迫るゾンビに集中。ヘッドショットを狙って叩き込んでいく。
「……ねぇ、刃君」
周りがゲームセンターならではの騒音。その声は辺りの騒音に掻き消えそうなくらい、小さく。
「なんだぁ!?」
少し声を大きくして問うてみる。
「……刃君は、私のこと」
「うん、なんだ!?」
「……好き?」
「……………………は?」
──ズバァ!
動きを止めた2人にゾンビが襲いかかりヒットポイントが削られても、2人は応戦せず見つめあったまましばし固まってしまった。
そうしてるうちに、あっという間にゲームオーバーだ。
「…………あぁーぁ、負けちゃったね」
なんて言って銃を戻しながら、亮は刃に笑って見せる。
「りょ……亮?」
ガンタイプのコントローラーを握りしめたまま、刃は亮に声を掛ける。
明らかに様子がおかしい。この違和感は気の所為なんかじゃなかった。
「……なんてね、ビックリした?」
「……はい?」
かと思えば、クルッと体を刃に向けて放つその言葉。
「ドッキリだよー、ドッキリ! 私だって女の子だし、同年代の男の子にどう思われてるのか気になったんだ。どう? 私って魅力あるかな?」
そう言ってまた笑って見せる。はっきり言って物凄く返答に困る質問。変に答えたらセクハラになりかねない。
魅力的かと聞かれたら、もちろん魅力的だ。しかし彼女は『何が』魅力的かを聞いている。ここを間違えれば不味いことになるのは確実。
ここはやはり素直に胸……いや待て、これでは絶対にアウト。ならば足か……いや、これも危ないな。
「……やっぱり、ない、かな」
「いや待て! 今答えを絞ってるから! ええと……」
まずい、亮が泣きそうになっている。ここは直感で行くしかない。胸でも足でもなく魅力を感じそうな場所。
フランクかつ、しかし直接的に『女子として魅力がある』ということを伝えてみよう。
よし、これだっ!
「──髪の毛が好きです」
俺は変態か。
「………………あ、うん」
「マジで引かないで! お願いします!」
「……なんてね。だから冗談だってば! 本気にしないでよ」
刃の隣へ来て背中をパンパン軽く叩く亮。本当に、いつもの亮とは別人だ。
「……なぁ、亮」
「なぁに?」
「……何かあったのか?」
そう聞くと亮は黙って俯く。
「……何もないよ」
「んなわけないだろ? なんだかいつもの亮らしくない」
亮は刃とは逆に顔を向ける。
「……私らしくって、例えば?」
「え? それは……元気がよかったり、人を小馬鹿にしたり、冗談言ったり、いつもの亮らしくないっていうか……」
「それは、刃君が知らないだけ。本当は私もこんな人なんだよ?」
「で、でもさ……」
「……どうせ……ホントの私なんて誰もわからないのよ。私だって、わからないんだから」
その亮の声はゲームセンターの騒音に阻まれ、刃の耳では聞き取れなかった。
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「ねぇ、せっかくだしプリクラ撮ろうよ。2人で!」
「えっ!? いや……俺その系統に入るのは抵抗が……」
「いーから! ほら!」
藍がコインゲームに夢中になっている隙に、刃は亮に半ば無理矢理にプリクラの機械の中に押し込められる。
「さぁーて、フレームはこれで、背景はこれで」
さすがは女の子。こういうのは手慣れてる……といっても亮だから、刃には少し違和感が残るが。
そうして亮主体のもとに刃達は何枚かプリクラを撮る。どういう恰好がいいかなんて知らないから、とりあえずVサインをしておいた。
しかし、この入ってもせいぜい4人が限界だろうというスペースに今は亮と2人きり。
「……なんか変な感じだな」
「ん? 刃君、なんか言った?」
「いや、なんでもないよ」
「そっか。……ほら、もう最後、撮るよ!」
亮がそう言うと機械がカウントを始める。
「お、おう」
そう答えると、カメラに向かってVサイン。
「……刃君、他にポーズないの?」
『5!』
「……悪い」
『4!』
「ほら、もっと寄らないと……!」
『3!』
「おい、亮!? 近すぎないか!?」
『2!』
「ほら、カメラ向いて!」
「あっ、おう!」
『1!』
──チュッ。
「……へ?」
──カシャッ!
何か刃の頬に暖かな感覚があった。いや、まさかそんな……その疑念は撮られたプリクラを確認して確信に変わる。
「なっ……なっ……!?」
キス、していた。亮が、刃の頬に。
「エエエエエェェエッ!!!?」
「やったぁ! チュープリ、ゲット!」
刃が固まって何も言えない間に、亮はさっさとプリントするプリを数枚選んで、落書きスペースへ移動。あの最後のも、しっかり選んでいった。
「…………」
何か暖かいものが当たった左頬に指を触れてみる。
「……マジかよ」
刃はしばらく、「落書きスペースへ移動してね」という謎のキャラとにらめっこしていた。
落書きを済ませると、取り出し口からガシャッと音と共にプリントアウトされたプリクラが出てくる。
「へへーっ、チュープリ、ゲットだぜ!」
どこかで聞いたようなフレーズと体勢で言う亮は、すぐにプリを切る用に設置されたスペースでそれを切ると半分を刃に分ける。
「はい、刃君も。大事にしてね」
「お、おう」
とはいえ、直視はできない。特にこの中に何枚かある、このプリは。
「……光に見られたら、どうするかな」
嬉しくも、悲しい事実。このチュープリを撮ったということは光に命を狙われる確率が上がったということでもある。なんとか逃げる方法を考えておかなければ。
「……また、光?」
「えっ? あ、悪い、聞こえてたか」
プリから亮へ目を移すと、亮はプリを見ているのか俯いているのか……とにかく、下を向いている。
「……刃君、それは最大のNGだよ。デート中に他の女の子の話するのは」
「えっ!? 悪い、その……なんとなく口癖になってんだよ。気にしたんなら……謝る」
「……ううん。刃君が謝ることないよ。多分、ホントに悪いのは……私だから」
そう言って悲しげな顔をする亮。本当に様子がおかしい。何かを彼女は隠している。
しかし、亮から話さない以上はこちらから言うのは無粋というもの。ここはいつも通り、自然に行こう。
「そ……そんな顔すんなって! お前が悪いことなんてするとは思えないよ、『亮』!」
「……っ!」
そう言った瞬間、亮は少しハッと顔を起こすと、また顔を沈めた。
「……ねぇ、刃君」
「な、なんだ?」
「私……ね、本当は──」
「……あんた達、何してんの?」
後ろからかけられたその声に、刃は聞き覚えがあった。刃はハッと顔を向けると、
「……光、流斗……!?」
「……刃と、亮? あんたら……こんなとこで何してんの?」
「……刃。お前、用事とは亮とのデートだったのか。これは意外だった」
光と、服を大量に両手に持つ流斗がそこにいた。流斗の『デート』という単語に光の顔が歪んだ気がする。
「い、いや!? これはデートでもなんでもなくてな……!」
まずい。なんとか誤魔化さなくては。刃はそう思って口を開こうとして、
──ギュッ。
「……へ?」
「デートだよ」
気がつけば亮が刃の片腕を掴んで腕を組んでいた。
「り、亮!? 何を──」
「私たち……今日から、恋人同士になったんだから!」




