第七話
CASE1追加資料/記憶機能の変化/北本大樹
以下、推測されるストーリー
2025年7月31日
「さて、次に個票だが」
学校での生活について軽く話した後、ついに面談は本題に移る。
「北本、お前。成績上がったなあ」
俺のテストの結果がまとめられた細長い紙きれを見て、嬉しそうに言う。
オバセンは、今まで見たことがないぐらいに笑顔で、少し距離を置きたくなるような気持ちになる。
「うす、あざす」
「特に世界史、お前一年ころなんか平気でビリ取ってたのに、トップ10入りじゃないか。部活も忙しい中、よくやったな」
そう言いながら、俺の肩を叩いてくる。俺の雑な言葉遣いもいまばかりは口うるさく咎めてこない。
「俺はお前の進路が心配でな、この学校では落ちぶれたやつの面倒を見る余裕があんまりないというか、追いつきにくいところがあるからな」
今の成績さえ良かったのであれば、落ちこぼれ、と言ってもいいと思っているのだろうか。まあ、否定はしないけど。
「ただ、これなら第一志望も十分狙える。これからもこの成績をキープしていくようにな」
二年生の、夏休みに入る前の面談ならばこういった話題も出てくるだろう。あのときまでは、自分には国公立の大学なんて関係のない話だと思っていた。ただ、確かに、オバセンの言う通り、この成績をキープできれば……。
「失礼しました」
礼をして、一対一の教室から出る。面談の順番を待つ人のために置かれた椅子に座っている、出席番号で次の久瀬と目が合う。
「お、終わったか。面談と、どーせ成績も終わってんだろ?」
久瀬は成績が良い。しかし、性格は悪い。いつも俺を含む成績下位の生徒を当然のように小馬鹿にしてくる。面白いやつではあるが。
しかし、今日からはそうはいかない。俺には返す矢ができたのだから。問いかけに対し、ニヤリとした表情で返す。
「ところが、今回の俺、絶好調でした」
傍に置いてあるリュックを背負いながら会話を続ける。
「え? 何、また下から二番目とかじゃないの?」
「なんと、世界史に至っては、上から五番目です」
「は⁉」
久瀬は細長い顔に乗った眼鏡がずり落ちそうなほどに驚いた顔を見せる。
「カンニングを極めたってこと?」
「世界史を極めにいったんだわ」
「え、嘘マジか」
この焦りようから察するに、どうやら俺よりも順位が下だったようだ。
「ま、俺もやるときはやるってことだ。俺、お前よりいい大学にいけるかもな」
「いや、さすがにそれは」
かぶりを振って、廊下を後にする。
「おい久瀬、早くしろー」
次の生徒に待ちくたびれたオバセンの声と、それに応じる久瀬の返事を聞きながら廊下を歩く俺の足取りは、軽やかだった。
「やっぱり、俺は覚醒したんだ」




