第五話
CASE34/感情機能の変化/楠瀬由衣
大学時代の友人 2026年7月16日
由衣についてですか?
えっと、大学の後輩で、同じサークルでした。映画研究会っていうサークルで、つっても自分たちで作ってるわけじゃなくて、まあ、そういうやつらも中にはいましたけど。
というか、俺に聞くより真美に聞いた方がいいんじゃないですかね。というか、俺に聞くより真美に聞いた方がいいんじゃないですかね。
ああ、すいません。真美っていうのは俺の彼女で、由衣とも大学の同期なんです。二人は学生のころから結構仲良くしてて、いまでも付き合いがあったはずです。やっぱり女の子同士の方が、人となりとか詳しく知ってると思いますし。
真美の連絡先?
その前に、失礼ですが、あなたの素性を教えていただけますか?
疑ってるわけではないんですけど、さすがに見知らぬ人にほいほいと連絡先を渡すわけには……。
あ、名刺。ありがとうございます。ちょっと検索させてもらいますね。
研究者、なんですか? 自然人類学、はあ。そんな人がどうして由衣を調査してるんですか?
……うーん、ちょっと分からないですけど。
要は由衣の脳に異常が見つかったみたいな?
それで大丈夫? まあ、ちょっと僕には難しい話ですので。
じゃあ、分かりました。とにかく何か怪しい方ではないみたいですね。でも一応連絡先を渡すのは避けたいので。
すいません、でも自分の彼女なんだから当たり前じゃないですか。
ここで真美に電話をかけるので、そこで直接会う予定を取ってくれますか? 真美も何か重要な調査だって分かればきっと協力してくれると思うので。
問題ない? じゃあ、かけます。
……付き合ってから、半年ぐらいになるんです。世間的には倦怠期とか、そういうのに入るころなのかもしれないんですけど、俺たちは全然そういうのが無くて。大学生のころと同じぐらいのちょうどいい距離感で上手くやれてるんですよ。
惚気話みたいになってしまってすいません。でも、今までの女の子とは真美は明らかに違くて、浮気をするやつとかほんとに考えられないなって思います。
あ、つながりました。
中辻真美(楠瀬由衣の友人) 2026年7月17日
あ、こんにちはー、中辻真美ですー。
えっと、由衣ちゃんのことを聞きに来たんですよね? いや、もうびっくりしましたよー。由衣ちゃんに何かあったんですか? 悪いことしちゃったとか。
はい。はい。なるほど……。
何も分からなかったです!
でも、刑務所に入るとかそういうのではないんですよね。ないんですよね?
連絡をもらった時に、由衣ちゃんにも電話したんですけど、本人は別にいつも通りで特に心配要らないのかなって思って。
まあ、私にできる限りお話します。
はい、大人になってからも、由衣ちゃんとは定期的に会ってました。大体、月に一回ぐらいお互いの家で一緒に映画を見る約束をしてるんです!
颯太からもう聞いてますか? 私たち映画サークルに入ってたんですよ。だから、いつも盛り上がってー。
前に集まったのは……、二週間ぐらい前ですかね? ああ、聞いても分からないですよね。そのときも二人で映画を見ました。交代で自分の好きな映画を持ち寄るようにしてるんです。その日は由衣ちゃんのターンで、っていうか。
由衣ちゃんってばひどいんですよ!
私は苦手って言ってるのに、何度も懲りずに怖い映画持ってくるんです!
その日もなんだかよく分からない、海外の血がいっぱい出るやつ持ってきてて、もうあたし怖くて寝れないかと思っちゃいましたよ。まあ、すぐ寝ちゃったんですけど。
他には、ですか? うーん。
でも、ホラーとかそういうのが好きなのは昔からみたいで、しかも怖いのはずっと得意だったらしいですね。じゃんぷすけあ、って言うんですかね。そういうびっくり演出も全然、驚く素振りも見せなかったし。
もともとそういうのに強い人ってすごいですよね。私は人が帰ってくる音とかでもすごいぼっくり、ああ、びっくりしちゃうんですよ。
あ、そうなんです。颯太とも話したんですよね。
最近一緒に住み始めて、それで由衣ちゃんともよく会えるようになって。嬉しいんですよ、大学の友達となんだかんだあのときからずっと仲が良いのが。
颯太も由衣ちゃんとそれなりに付き合いあったし、それだけじゃ駄目だったんですか? ああ、あんまり教えてくれなかったのか。
颯太ってそういうところありますよね! 自分の興味ないことはきっぱり断る感じ。まあ、それが頼りになるときもありますけど。
というか、すいません突然。由衣ちゃん本人に聞いてみたりしてないんですか? してない? 私たちより先に連絡するべきじゃないですか!
ちょっと由衣ちゃんに聞いてみますね。えっと、こ、の、ま、え、そ、う、た、に、は、な、し、き、い、て、た、ひ、と、が、ゆ、い、ち、ゃ、ん、に、も……。
はい送っておきました。何か返事があったら伝えますね。
じゃあ引き続き、由衣ちゃんとの思い出についてですね。
あとは、ほんと他愛もない話なんですけど――。
※調査への関連性が著しく薄いため、以降の中辻真美の発言は記していない。
楠瀬由衣 2026年7月20日
もしもし、楠瀬です。
……はあ、あなたですか? 颯太先輩とか真美とかにあたしのことを聞きまわってる学者さんは。
いや、まあ、別にいいんですけど、何が目的なんですか? あたし何かしましたっけ? 別に法律を犯すようなことは……。
あたしの、脳? 脳がなんですか?
……。
そんなの、いつ調べたんですか?
健康診断? まあ、ひと月前ぐらいに……。え、そこでですか? 特に問題ないって話だったはずですけど。
あなたが調べたら、って勝手にそんなこと……。
とにかく、あたしは何も問題ないですからね。
はあ。はい、真美とは二週間前ぐらいに会いましたけど。そのときのこと? なんでそんなこと喋らせるんですか? あたしだってなんでもかんでもべらべら話すわけじゃないんですよ。
人類の発展のため? じゃあそのために、あたしのプライベートが研究されてもいいっていうんですか? そんな権利があなたにあるんですか? 研究者ってだけでなんでも間でもまかり通ると思わないでください。
真美にも、颯太先輩にも話を聞いたんでしょ? もうそれで十分じゃないですか。
最後に一つだけ? じゃあ最後にしてくださいよ、こっちも仕事放り出して電話出てますからね。
……なんですか、今の雑音。この音に聞き覚えはないか、って。
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※不自然な沈黙が一分以上続いた。
ないですよ。音に心当たりとか、あるわけないでしょ。
もう終わりでいいですか? 切りますよ。
CASE34/感情機能の変化/楠瀬由衣 終




