第三十七話
CASE0/老化機能の変化/名称不定(博士)
※言葉は現代調に直してある。
メソポタミア文明(ギルガメシュ叙事詩)前3000年ごろ
ああ、あやつの働きぶりは大したものだ。我らが王、ギルガメシュの素晴らしい功績をかくのごとくまとめ上げたものはこれまでいなかった。きっと後世にも語り継がれるような、そんな名誉な書になるであろう。私はそう確信しておる。
ヘロドトス(歴史) 前500年ごろ
わが調査はペルシア戦争だけに留まらず、全ギリシアを巻き込んだ壮大なものとなった。もしアテナイで貴様に出会っていなければこの調査は手詰まりとなっていただろう。改めて感謝を申し上げたい。
紀清人(日本書紀) 720年4月18日
天皇から命を賜ったときには、何から手を付けていいのやら分からない状態だったが、こうして日本書紀が完成したのも貴方様の助言のおかげでございます。
しかし、その知識は一体どこからきたものなのだろうか。まるですべてを体験しているかのようにお詳しかったものですから。
ダーウィン(種の起源) 1858年10月7日
……そうか。そういう意味だったのだな。
感謝しよう。そなたは良き友人であり、ともに自然選択説を求める同士の一人だ。
この本が完成した暁には、もう一度話をしてみたいものだ。
山川出版(世界史用語集) 1965年4月25日
いやー。なんとか刊行に漕ぎつけることができました。
本書の編集には『私の名前』様ほか、多くの歴史研究の第一人者の助言をいただきました。おかげで今後の歴史教育の礎になるような一冊ができたと、思っております。
これからもこの用語集が長く愛されることを願っております。
CASE0/老化機能の変化/名称不定(博士) 終
102340年5月8日
「研究者っていうのは、何も博識な人が向いているわけじゃないんだ。知識なんてのは生きている年数だからね。どんなに知的好奇心に溢れた赤ん坊だったとしても、そこら辺のおじちゃんの方が知ってることは多いわけだ」
手を払いのけて僕の方をじっと見てくる。
「だから、そういう意味で君は研究者に向いてるよ」
「我々には、人間が行う『研究』が存在しません。ましてやそれを生業にする研究者は存在せず、向いている個体も存在しません」
「まあ、そうなんだけどね。でもその中では、ってことだよ」
「質問に答えてください」
話題をすり替えられたような気がして、つい言葉を急かしてしまう。
「私の出自なんて、別に面白いことはないよ。CASEにまとめたのも最後だし。これなんて書きたてほやほやだよ」
これまで聞かれたことは自信満々に答えていた博士だったが、この質問にだけは乗り気じゃなかった。
「これが一応人類についての最後の資料。ほとんどおまけみたいなものだけど、まあ、私が与えた影響もゼロとは言えないからね。理解の一助ぐらいにはなるんじゃないかな」
そうして記録媒体に保存された最後の資料というのを読み始める。




