第三十一話
2027年9月26日
10年間の眠りから目覚めたと思ったら、自分の思い通りになる世界に来て、その中にある志摩スペイン村で何とも言えない物体から衝撃の事実を告げられた。中断された文章をつなげるとしたらそんな感じの説明をするしかないのだが、納得のいくものであるとは思えない。あまりも支離滅裂で、まるで夢の中……のようだ。
それ、は息継ぎもせずに一息で言い切った。なのに、僕はすらりとその発言の意味を理解することができた。だからこそ、質問をすることができる。分からなかったら何もせずぽかんと立ち尽くしていただろう。
「えっと、僕の脳の一部、というのは?」
「もともと、『一人称』を構成する素材は君の脳。だけど、君の脳、というか人間に寄生した『一人称』の同族たちが進化するにつれて、人間が望むような能力を与えられるようになっていった。それがここ10000年ぐらいでちょっとずつ現れてきて、ついに最近、一つの臨界点に達した。それで、『二人称』はこの空間を作れる能力を得た」
僕の脳の一部が進化して、それで僕の保護下を離れてこうやって対話できるようになった。そんなことができるのなら、人間も捨てたもんじゃないな。
「だからこの夢を見る能力を手に入れたってことなの?」
「それに関しては『違うよ』と言ったはず。ここは正確に言えば夢ではない。『二人称』の実感では変わらないかもだけど。ここは『二人称』の進化した意識機能が作り出した、もう一つの世界。強いて言うならそういう言い方になる」
さっきの「違う」はそれについてだったのか。どんな状況でもチュロスは美味しいよ、という意味の「違う」かと思ってたけど。
それ、の見た目は先ほどの僕を覆うほどの大きさから、段々と僕の目線より少し下ぐらいの背丈の人間のシルエットへと変わっていった。だが、その色調はいまだ変化し続けている。先ほどよりも寒色系の色合いがやや強い。
「もう一つの世界。それは、僕以外も入ることができるってこと?」
もしそれができるのならば夢とは明らかに性質が違うものになる。
「十分に進化した脳であれば可能」
なるほど。特殊な能力として十分だ。明晰夢世界と名付けよう。かっこいいから。
「分かった。能力については、今のところは良いよ。次は」
僕はわくわくしてしまう心に、幾分か落ち着く時間を与えて言い淀みがないよう淡々と喋りだす。
「君たちの出自について。宇宙人と言うのは、僕がイメージしているようなクレイ型だとか、あとUFOだとかそういう類のもので考えていいの?」
「『一人称』は『二人称』の脳の一部だから、そのイメージも入ってきているけど」
おやそうだったのか。恥ず。
「そんなものではない。そもそも、この地球に住み着いたのは人類の祖先が生まれるよりも前。だから、次に『二人称』が聞こうとしている、侵略とかそういったことも『一人称』たちには関係のない話」
やっぱり、全部伝わってるのか。会話の必要性に疑問を抱きながら、それでも言葉を紡ぐ。
「じゃあ、目的は一体?」
「人間は未知の生物がすべて単一の目標を抱えていると判断する傾向にある。実際はそうでない場合がほとんどなのに。逆に、人間が地球で生まれた目的は何?」
痛いところを突かれた気分だ。確かに、創作の中の異星人はほとんどの場合、侵略か、あと日本の上手い食べ物を食べに来たとか、とにかく一つの目的を達成するためにはるばる地球に来たと描かれがちだし、他にも意味の分からない行動を繰り返す犯罪者にもその動機を重点的に調べたがる。本当は、何もないことなんて珍しくないのに。
「なるほど、生物はすべてただ生まれたということだね」
「そう理解したならそれでいい。さっきも言ったように、地球に住んでいる時間は人間たちより長い。目的があって生きているんんじゃなくて、『一人称』たちはただそのときどきで最適な寄生先を探しているだけ。」
寄生虫の脳バージョン。そう考えると、気味が悪いけど理解することができた。
「ちなみに、なんて名前の生物なの? ずっと私たちって言ってるけど」
「生物の名前は人間がつけるもの。人間が生まれる前は生物に名前なんてなかった。だから『一人称』に聞かれても答えは用意できない」
そうか、ならば。
「寄生脳とかでいいんじゃない? 寄生のパラサイトとブレインをかけ合わせた」
単純だが、覚えやすくていい名前だ。
「決まったならそれでいい」
投げやりにそう返される。どうやらカタカナをカッコいいと思う感覚は寄生脳にはないようだ。




