第二十八話
僕が今まで見た夢は大体ストーリー調で、ムービーを見ているだけのものがほとんどだった。覚えている限りでは、なぜか好きでもなかった懐かしいタレントと一緒にボルダリングをする夢とか、明らかに自分の意思の介入が必要なであると思われる夢ですら、ただ観客として存在しているだけだった。でも、今は違うのかもしれない。
湧き始めた現状への実感を基に、脇に力を入れる。入れる必要があるのかは分からないが、自然にそうなってしまう。
やがて手をゆっくりと上へ挙げて、そのまま力強く振り下ろした。
途端に地面が崩れ始めた。ごろごろと表せるほどに可愛げのあったその音はやがて激しさを増していき、ついには日本語にある子音、母音をすべて同時に発音したような濁った音へと変わっていった。自分はどうなのかと言うと、当たり前のように宙に浮いている。崩れ始めた地面を見つめるでもなく、次にどうするかを考えているのだ。
閃いて、足に力を入れる。空中に浮いたことがなかったので知らなかったが、どうやら踏ん張ることはできるらしい。
崩れてバラバラになった地面の破片を、球状にして集める。手では自然と、円を作ってしまっていた。おおよそ見える範囲の地面をまとめ上げたかと思うと、下には宇宙が広がっていた。しかし、僕自身の宇宙への関心が低いのが祟って、ただの一枚絵が表示されているだけだった。どの角度から見ても風景が変わらない。何もないところが宇宙になるという発想は良かったが、もっと高解像度なものを用意してほしかった。
さっき同じように腕をゆっくりと挙げると、それに元地面、現球体がついてくる。僕の腕の動きに合わせて上下するそれを、数秒楽しんだ後今度は思い切って、雲一つない空に打ち上げる。
花火と同じような速度で打ちあがった、しかし爆発することのない球体はある程度まで上昇すると何かにぶつかったように止まった。おそらく、僕の限界がここなのだろう。何度やってもそれより上に行きそうもない。正確にはこれより上に行くなら、新たに背景を追加する必要がありそうだ。自分の脳内の非オープンワールド性にやきもきしながら、その最高到達点にある球体を操作し始める。
空の上をごろごろと転がしていくうちに、段々と自分の何十倍もの大きさだった球体が自信を構成する地面の破片をぽろぽろ落として小さくなっていき、それに応じてはがれた破片が空に張り付いていく。空の青い色がテーブルについた汚れで、それを雑巾で拭きとっているかのように、光が薄くなっていく。やがて球体は僕に見える空全体を拭き終わり、最後の破片が張り付いたと思うと動きを止めた。かつて誰も歩くことのできないうずたかく上がる空だったものは、いまや逆転し踏まれゆく地面になっている。その地面は、いまや宇宙だし。
そうなると、自分がいつまでも浮いているのがおかしく思えて、ふっと力を抜く。すると徐々に体が宙に浮き、上に引き寄せられる。だんだんと加速していき、頭が衝突するかと思ったところでそちらの重力に合わせてくるりと半回転し、無事足をつけて着地することができた。上には先ほど浮かんでいた宇宙空間がある。ここは。
志摩スペイン村だ。ちょうどそのことを考えていたから、生成されてしまったんだろう。子供のころに一度だけ行ったっきりなのだが、ここまで鮮明に覚えているとは。意外と楽しかったんだろうか。
周りに見えるスペイン風の建物、ジェットコースターをじろじろと見ながら、手ごろなベンチを探して一息つく。
さすがに、はしゃぎすぎた。




