第二十一話
2026年7月9日
あれから二日経っても状況はまったく変わらなかった。
そうくんと会っているときも、その後家に帰るときも、寝ているときも、すべて自動で進んでいった。自分がこうしようと、これを言おうと思っても身体がその呼びかけに反応しない。一切違うことをする。
幽霊みたいに好きに周りを動けるのならまだしも、見える景色は全部あたしの身体からだった。だから、首を動かして視点を変えるとかそういうこともできない。自動操縦の
あたし視点だと、まるで映画を見ているみたいだった。
でも、焦っているうちに知らない間に身体が寝ていて、それと同時に意識を失った。どうやら睡眠だけは共有するらしい。
で、今は会社で働いているあたしの視点を見ている。
こうしてみると、周りの人は何も気づけないだろうなと思う。普段のあたしと様子は何も変わっていないし、おかしな言動もない。ただ、あたしの意識が存在しないだけで。
「そうなんですか? 勉強になります」
いつもセクハラをしてくる上司を軽くあしらうあたし。こうして客観的に見ると結構露骨に避けてるのが分かる。
「えっとそれは、ですね」
自分の仕事のついて言い訳しようとするあたし。
「うー」
仕事が上手くいかなくて、スマホをいじりだしたあたし。
あー! 全部あたしがなくても上手にやれてるじゃん!
いや、この場合、本当のあたしはどっちだ?
それは、今脳内にいるあたし! ……だったらいいんだけど、他の人からはこうしていま同僚とお昼を食べているあたしが本当のあたしで、というかあたしの存在なんか誰も知ることができなくて。
そうして昨日と同じように、焦りと混乱に塗れた考え事をしていると、
「もしもし、楠瀬です」
知らない番号から電話がかかってきた。
『初めまして楠瀬さん。実は、少し聞いて欲しいお話がありまして』
身に覚えがあった。真美からもそうくんからもその話を聞いていた。




