第十三話
CASE23追加資料/運動機能の変化/新隈修也
以下推測されるストーリー
2026年6月23日
「えー、これから挑む敵は、はっきり言って強敵だ。お前らの練習が足りなかったとは思わない。でも、それでも、一歩だけ及ばないことはめいめいにしてある。そういうとき、その一歩を埋めるのは、俺でもあるし」
監督はスタジアム全体を見渡してから言う。
「ここにいる大勢でもあるんだ。分かったか? じゃあもう俺から言うことはない。もう少しだけ、本番まで備えておいてくれ」
ここで監督を呼び止めて「すいません、さっきのどういう意味ですか?」って聞いたらどうなるんだろう。「一歩を埋めるってどう言うことですか?」って。「観客がスタジアムに乱入してくるってことですか?」って。しないけど。
20年近くなるサッカー経験の中で、どの監督も試合前には論理的に意味がなく、耳で聞くだけの意味があることを言う。
冷静になって……相手選手も、味方の選手も、プレーする環境も、これ以上ないほどにトップレベルであることに気づかされる。改めて、なんというか、俺登り詰めたんだな。
サッカーをやってきて、苦労したことはなかった。一つのことが驚異的にできれば、他のことはでしゃばりな人が勝手にやってくれたし、もっと練習に時間を使えた。
スポーツというのは構造的に、上手い人がもっと上手く、下手な人はもっと下手になりやすい。だって、当たり前かもしれないが、ここにいる人は一度もサッカーが下手だなんて面と向かって言われたことがない。人間なんて、どれだけ努力しても最初の評価を覆すことなんてできない。
と、言うことをインタビューで話したら、その記事内で、俺の存在が抹消されたことを思い出した。以来、インタビューでは隣に座ってるやつに同意するだけにしている。
こんな残酷な考えが宿ったのは、おそらくあの瞬間からだった。思えば、あのときまでサッカーはただの時間潰しだったし、他のものと同列でもあった。今みたいに、生きていく手段でも、自己表現でも、時間潰し、ではあるのかもしれないが。とにかく重要度は低かったはずなのだ。




