第十二話
読み終えた?
そう、異変っていうのはこういうこと。
人間が本来持ち合わせていなかった能力を獲得し始めていた んだ。北本で言えば、瞬時に記憶をする能力。私は写真記憶、と呼んでいるけどね。私は写真記憶、と呼んでいるけどね。さっき読んでた北本大樹の関連人物への聞き込みも併せて、この能力がどういう影響を周りに与えていたのかも分かるでしょ?
写真記憶写真記憶は、脳の海馬と呼ばれる部分が変化して発現した。簡単に言えば、記憶を溜め込まるところも、それを通信するニューロンも肥大化して、記憶できる細かい情報が増えたって感じかな。人間はもともと、無意識にのうちに覚えたいものとは別の細かな情報も覚えてしまってるんだ。その機能が異常に強化された結果、目にしただけで写真のように覚えられるし、肥大化した海馬でそんな大量の情報量を保存することができるようになった。ざっくり言えばこんな感じかな。
北本自身は結構その能力を自由に使っていたみたいだね。映像を覚えるとか、そういう応用も自分で生み出しちゃうなんて、面白いと思わない?
え、終わり方?
先に言っておくけど、この文章は私が書いたものじゃないからね。北本自身の脳から読み取れたものをここに記しているだけでさ。※がついているところは私の注釈だけど。
そうだね。CASE1の中で北本は、気が狂って、自分をペンでめった刺しにして、最終的には気を失った。
そのきっかけは、自分に解けない問題が現れたから。
大量の情報に押し潰されながらも、北本は自分が夏休み中に覚えた知識を使って、テストは難なく解けていた。先生のお話通りだね。
けれど意地悪なことに、あの世界史のテストにはかなり応用的な問題が一問あったんだ。進学校なんかだとよくあるね。満点を取らせないための問題みたいな。私も思い出すのに少し時間がかかるぐらいだったから、普通の学生が解けないのは当たり前だと思うよ。あの先生、人畜無害そうな顔して、結構性格が悪いね。
そうなると散々教科書を、資料集を記憶した北本もお手上げになる。
焦った北本は、あるわけないのに、頭の中に記憶した教材を手当たり次第探り始めた。『ない。ない。』って言ってるのもこのとき。
けど、朝から大量の景色を記憶してきたから、取り出すのも単純にはいかない。しかも、その間どんどん新しい記憶が追加されていく。
目の前にある木の机、前の人――久瀬君だね――の髪の毛の本数とか、床の木目のパターンとか、絶対に今必要ない情報ばかりが、1秒間に何百枚も入り込んでくる。出したり、入れたりで、脳の負荷は半端じゃない。経験したことはないけど、相当にきつい体験だろうね。
それで、楽になろうとした。見るものが無くなればいいと思ったんだろうね。
手に持ってるシャーペンで、自分の目を躊躇いもなくブスリ。相当深いところまでいったみたいで、失明は免れなかった。
とにかく、勝手に動く脳を止めたいと思ったんだろうね。身体の急所すべてを効率よく傷つけ始めて。でも、シャーペンじゃ上手くいかなくて、気を失うまで大分苦労してたよ。
血をあちこちから吹き出しながら、教室中を大暴れして、周りが逃げ回って、何人かは止めに入って、でも止めが入る前に自分でコロッと止まった。
まあそれが、彼が突然奇行に走ってしまった顛末。ごめんね、こんな話をして。
では次に。なぜ、テストの日に北本の能力の制御が効かなくなったのか。
原因は、能力が成長しすぎてしまったから。
北本にとっては、そりゃ自分の能力なのに言うことを聞かない、って感じだろうけど、写真記憶写真記憶としては成長しているからね。記憶に必要な時間が短くなっているというのは、北本が喜んでいたようにできることの幅が広がるということでもあるんだから。
まあ、それに身体がついていくかは別として。
え? ああ、そうか。
この後北本がどうなったか、やっぱり知りたいよね。
まあ、お察しの通り。
能力が発現した人間は最終的に、頭が弾けて絶命する。例外なくね。




