第十話
2025年8月4日
夏休みに入ってから四日目、昨日と同じようにうんざりしながら俺は範囲になるであろう問題集をパラパラッとめくってみた。この分さえ記憶してしまえば範囲はすべて頭に入ったことになる。
この能力を得てからひと月ほど経ち、最初のころよりも記憶に必要な時間が少なくなってきた気がする。はじめは一、二分、じっと眺める必要があったが、今日は全体が移るように問題集をめくって数分後には、頭の中にはすべて記憶されていた。
……。
コツコツと勉強するというのは、自分が少しずつしか覚えられないようなやつがやることだ。
少し覚えて、また忘れ、少し覚えて、また忘れ。その差し引きを最終的にプラスにしようと、忘れる量よりも多くを今日のうちに、と頑張るわけだ。
なら、その忘れる、という工程がない今の俺が、そのようにする必要があるのだろうか。
うんざりしていたのは、やることがなくなってしまったからだ。せっかく精を出して勉強を始めたのに、学校の教科書、参考書、単語帳はすべて脳に入ってしまった。今目を瞑れば、どこどこの何ページをすぐに取り出すことができる。市販の参考書を買って、それを記憶するのもいいが、結局は同じことだ。
というか、買う必要もない。立ち読みでパラパラッとめくれば、それでただ買って読むよりも効果的に覚えることができる。本屋で何度か試してみたけど、記憶するうえで何の問題もなかった。
つまり、今の俺は少なくとも優等生のように毎日同じ時間だけ、コツコツと勉強をする必要は、ないってことだ。
気づいたときには、プシューと体から空気が抜けていた。
俺はわずか四日間に満たないほどの時間だけ、あのときの向上心を取り戻し、そしてまた自分の優れた能力によってそれを失った。残るのは何のやる気も出ない重苦しい体とそれを地面に横たわらせているだけの途方もない時間だけだ。
まあ、どうせ。前日にでもやれば、いいか。




