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ルナリアン  作者: 広育 春美


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9/14

総括レノ降臨

世界中が、ルナリアンとの接触に注目していた。

しかし、それは平和的な会談という言葉だけでは片付けられないものだった。

ニューヨーク上空に現れる“統括レノ”。

その存在は、人類の常識そのものを揺るがそうとしていた。

 「ヴァーナ、大丈夫?」

 リカの声には心配がにじんでいた。

 「今日、ずっとぼんやりしてるし、質問に対して全然違うこと答える時もあるし。それにミスも多い…体調悪いの?」

 ヴァーナはリカの肩に手を置き、微笑みを浮かべて応えた。

 「大丈夫だよ、本当に。ただ、ちょっと別のことが頭から離れなくてね。」

 「講演中なのに気になる事って、一体何なの?」

 リカの眉がきゅっと寄った。

 「そのうち話すよ。」

 ヴァーナは視線を逸らす。

 「まさか、ルナリアンから連絡があったの?」

 リカの鋭い推測に、ヴァーナは一瞬、動揺を隠せなかった。

 「えっ…あ、まあね。」

 「何それ。なんで私たち2人に何も言わないの?私たちは仲間でしょ。もしかしてルナリアンから口止めされているとか?何か秘密がある?」

 「違う、違う、誤解しないでくれ。そんな大げさなことじゃないんだ。ただ、今夜の夕食のときに話そうと思っていただけ。」

 「OK、じゃあ、夕食のときに全部、包み隠さず話してね。」

リカの目が鋭く光る。ヴァーナはリカの強い押しに、結局折れるしかなかった。


 シスは食事を終えると、満足げに一言。

 「今日の食事も言うことなしに旨かった。毎日こんなに美味しいものばかり食べていたら、自炊なんてできなくなるな。これは切実な問題だ。」

 リカが割り込んだ。

 「その問題より、今日のヴァーナのほうが深刻な問題よ。私たちに内緒でルナリアンと会っているんだから。」

 「まじかよ。いつ会ったんだ?」

 シスが驚いた様子で尋ねる。

 リカはヴァーナに鋭い視線を向けた。

 「さあ、早く全部ぶちまけなさい。」

 ヴァーナは一瞬戸惑ったが、フォークとナイフを置き、ワインを一口含んで静かに語り始めた。

 「そんな大ごとじゃないよ。気楽に聞いてくれ。昨日、講演中にアメリカ人の女性がいたって言っただろう。夜にベランダで夜空を眺めていたら、その女性が下から俺を見上げていたのを見つけた。」

 リカが眉をひそめて割り込む。

 「そんな女の話はどうでもいいから、ルナリアンの話をしなさい。」

 「だから、ちょっと聞けって。」

 ヴァーナは少し困った顔で続ける。

 「ちゃんと全部話せよ。」

 シスが促す。

 「分かってるよ。」

 ヴァーナは深呼吸をして続けた。

 「俺は彼女を追いかけて階下へ降りた。ギザのピラミッドが見渡せる丘で追いついて、話しかけたんだ。そしたら彼女が『ついてこい』と言うから、その通りにしたら、砂漠の中にある秘密の通路に案内されて、突然光の輪が俺たちを囲んだ。次に気がついたときには、ルナリアンの船、つまり月の中にいた。」

 シスは驚きすぎて手を挙げた。

 「ちょ、ちょっと待て。月に行ったって?何を言ってるんだ?砂漠で頭を打ったんじゃないのか?」

ヴァーナはシスの手をそっとテーブルに押さえつけ、静かに言った。

 「最後まで聞いてくれ。そこで、壁をすり抜けると、あの巨体のハリスが待っていた。どうやら次元転送装置で月まで送られたようだ。ハリスが話したのは、オクラホマの建設を中止すること、そして地球の生態系が壊れつつあることへの懸念だった。他にも話があったようだが、スウィフが話を止めてくれて、そこまでとなった。二人に伝えたい事はその後から聞いたスウィフの話なんだが、ハリスは人間の研究を疑問視していて、地球を去るような事を懸念していた事だ。人類は滅亡の危機に瀕するからそれだけは避けないと、とは言っていたが。」

 リカは納得した様子で頷いた。

 「なるほど…確かに考えさせられる、今後の人類の問題になるかもしれないわね。けど、こちらからは何もできないから、スウィフに頼るしかないわね。けど、ヴァーナ、私たちに秘密はもうよして。どんな問題でも情報は共有するって約束して。」

 「もちろん、約束する。」

 ヴァーナは真剣に応じた。

 リカは確認するように尋ねた。

 「本当にあの月の中に行ったのは間違いないの?」

 「ああ、間違いない。地球上のピラミッドはすべて次元転送装置だと言っていた。月に行けるのはギザのピラミッドだけで、他のピラミッドは世界を駆け巡るためのものらしい。」

 シスが拗ねるようにつぶやいた。

 「なんでヴァーナばかり、いつもそういう役回りになるんだろうな…。」

 ヴァーナは、個人的に心の中で最も重い事は、彼らに打ち明けることは避けた。


 その時、ウェイターが静かにテーブルに近づき、メッセージを差し出した。

 「お食事中、失礼いたします。ミス・スウィフ様から御一行様宛にメッセージをお預かりしております。」

 シスが苦笑しながら一言。

 「タイミングが良すぎるな。」

 リカがメッセージを開き、声に出して読んだ。

 「総括レノからの命令により、ニューヨーク時間の翌日12時、上空に船で向かう。人間の代表たちを自由の女神があるリバティ島へ集めて。」

 リカの顔には驚きが浮かぶ。

 「ちょっと、これ急すぎない?いきなり明日だなんて。」

 シスが肩をすくめた。

 「彼らには準備って概念がないんだろうな。」

 ヴァーナはまだスウィフが近くにいるかもしれないと感じ、頭の中で彼女を呼んでみた。ヴァーナの声が頭で響き、リカとシスも気づいて、同じように呼びかけた。しばらくして、スウィフの声が頭の中に響く。

 「そんなに何度も叫ばなくても聞こえているわよ。」

 ヴァーナが思わず苦笑しながら答えた。

 「メッセージを読んだけど、これはあまりに急すぎて準備ができないよ。人間には、大きなイベントがある時は事前準備が必要なんだ。それに、なんでメッセージで知らせたの?直接話しかけてくれればよかったのに。」

 スウィフが淡々と応える。

 「食事中にいきなり話したら驚くかと思ってね。だから、地球人流にメッセージを選んだの。ところで、話をするだけなのに準備が必要なの?」

 ヴァーナがため息をつきながら答えた。

 「そりゃ、必要だよ。いきなりUFOがニューヨークの上空に現れたら、街中がパニックになる。軍に伝えないと攻撃される可能性もあるし、旅客機の飛行計画もある。しかも、今回はルナリアンとの顔合わせって、世界の一大イベントになるのに、いきなり明日は難しいよ。地球人は日常と違う出来事がある時はいろいろと準備が必要なんだ。」

 スウィフは少し考えた後、冷静に言った。

 「そうね。そんな感じだったわね。でも、これは総括の命令だから、変更はできない。何とかしてくれる?」

 リカが短く応えた。

 「もう引き返せないってことね。」

 シスも頷いて言葉を継ぐ。

 「とりあえず、大統領に早急に伝えて、メディアを通じて市民に知らせるしかないな。やれることをやるしかない。」

 ヴァーナは決意を固めて答えた。

 「分かった。今から動いてみる。どうなるか分からないけど、うまく話がまとまることを祈るよ。駄目な時は、スウィフに連絡を入れるよ。」


 ヴァーナたちはまず大統領への接触を試みた。彼らの話は即座に通され、大統領は深刻な表情で彼らの言葉に耳を傾けた。その間、リカはメディア関係者に緊急連絡を入れ、シスはエジプト軍を通じて各国へ緊急連絡を行って協力を要請。夜間のうちにニューヨークまで高速ジェットで彼らを運んでもらう手配をつけた。

 ヴァーナはニューヨーク市長とも連絡を取り、協力を依頼。翌日の午前中には、市内の交通機関を完全にストップさせ、空港も閉鎖。すべての企業や店舗の営業を停止し、住民には自宅待機を求める計画を打ち立てた。市長は当初、その無理難題に顔をしかめたが、ルナリアンの登場で町がパニックになる可能性を聞くと、最善を尽くすと約束した。

 時差の関係でわずかな余裕はあったが、それでも時間は限られていた。ニューヨークに到着するやいなや、ヴァーナたちはメディアを通じてニューヨーク市民に向けて緊急メッセージを発信した。

 「明日の12時、ルナリアンの宇宙船がニューヨーク上空に現れます。彼らは地球人との対話を求めて来るだけであり、侵略の意図は一切ありません。どうか、メディアからの放送を自宅でご覧ください。我々も彼らがどのように現れるかは不明です。時間が指定されただけで、他に伝えられることはありません。繰り返しますが、危険は一切ありませんので、どうか冷静になり、自宅からメディア放送をご覧ください。」

 その言葉が街中に響き渡り、ルナリアンに興味はあるが、恐れも抱いている市民たちは次第にその意味を受け入れていった。また、そのメッセージは一瞬で世界中に広まり、世紀の一大イベントとなった。地球全体が興奮状態となり、メディアは緊急特番が放送され続け、世界中の誰もがニューヨークに注目していた。明日の正午、ニューヨークの空に何が現れるのか、それは誰にも予測できないものだった。


 翌日、リバティ島には緊張感が漂っていた。中心に立つのはヴァーナたち3人。彼らを取り囲むように、プレス大統領、シラン長官、宇宙技術代表の8名、NASAのジャクソン長官、ニューヨーク市長、そして護衛にあたるSPたちが集結していた。TVカメラも200台ほどがリバティ島の至る所に設置され、全世界へ向けて生中継されていた。

 プレス大統領が静かに口を開いた。

 「まさか、こんな形で彼らと出会うことになるとは思わなかった。本当に事前に何の話もなかったのか?」

 ヴァーナは真剣な表情で答えた。

 「はい、大統領。すべて突然のことでした。この連絡は、ルナリアンの連絡担当から話を受けたのですが、彼女自身も突然言い渡された様子でした。おそらく、ルナリアンの総括の意見は絶対的なものでしょう。その力関係は、見れば分かるほど絶対的です。」

 大統領は少し考え込んだ後、再び問いかけた。

 「ヴァーナ、今回の話がどんな内容になるか、何か予測はついているか?」

 ヴァーナは慎重に言葉を選んだ。

 「大統領、私も正直言って、何もわかりません。彼らが何を言ってくるのか、何を求めてくるのか、すべてが未知です。大統領、今回は地球の代表として交渉に臨むことになります。今後の彼らとの関係を築くためにも、どうか冷静に、そして落ち着いて対話に臨んでください。また正直な思いで対応して頂ければと思います。」

 プレス大統領は静かに頷き、自由の女神を眺めた。


 11時59分。未だに彼らの船影は見えなかった。

 11時59分30秒。プレス大統領が焦りを隠しきれず、3人に確認の言葉を投げかけた。

 「本当に今日の12時で間違いないのか?この状況はおかしくないか。」

 ヴァーナが静かに答えた。

 「はい。12時で間違いありません…。」

 そして、12時。それはまさに瞬間だった。突然、ニューヨークの街に夜が訪れたかのように、太陽の光が完全に遮断された。遠くの空には、わずかな青空が名残惜しげに残るのみ。その光を遮ったのは、目を疑うほどの超巨大な宇宙船だった。いや、正確には宇宙空母と呼ぶべき存在かもしれない。漆黒の影が、音もなく空中に浮かんでいた。

 その姿に、ルナリアンを快く思わない者たちでさえ息を呑んだ。彼らはニューヨークに集まり、密かに攻撃を企てていたが、その圧倒的な大きさを前にしてただ茫然と立ち尽くすばかりだった。手にした拳銃やロケットランチャーといった武器が、あまりにも無力であることを悟り、戦意は霧散していた。その場に立ち尽くす彼らが見上げるのは、人類の想像をはるかに超えた存在。その巨大な影が静かに漂っていた。


 直径30メートルほどの白い球体が、巨大な宇宙船からゆっくりと降下し、自由の女神の前、地上3メートルほどの高さで静止した。息を呑んだ全員が、その異様な光景に目を奪われていた。

 「私のことは伝えてくれたか、ヴァーナ、シス、リカ?」

 総括レノの声が、頭の中に響いた。3人は顔を見合わせ、ヴァーナが声を出して答えた。

 「ようこそ、地球へ。地球の代表たちが出迎えています。ビスティのこと、ビトルズ族、ロリンズ族のこと、そして総括レノのことも世界に伝えています。」

 「了解した。3人を通して地球人の代表者と話をするはずだったが、状況が変わり、直接話をする事となった。ここで姿を現しても大丈夫か?」

 「はい。姿を現してもらっても大丈夫です。全世界がレノの来訪を待っています。」

 リカは大統領たちに総括レノの言葉を伝えた。その瞬間、白い球体から薄い霧が流れ出し、総括レノの姿が現れた。そして地球の代表達を取り囲むように、ビトルズ族の巨体が次々と現れ、さらにその前にはロリンズ族が現れた。ビトルズ族の圧倒的な威圧感を前に、地球の代表たち、SPたちも腰を抜かすように、次々に倒れ込んだ。

 その瞬間、リバティ島全体が、薄い白い霧のようなもので覆われた。そして、総括レノが語り始める。

 「ここにいる全員に私の声が届いているはずだ。」

 地球側の代表たちは、全員が震えるように頷いた。

 「一時的に我と意思疎通できるようにした。脳に埋める量子変換については、ヴァーナたちから聞いていると思うが、この白い霧は一時的な量子変換のようなもので、我との会話が可能になる。」

 地球側の誰かが、恐怖と畏敬の入り混じった声で呟いた。

 「なんて大きさだ…。」

 その声にレノが応えた。

 「地球人たちから見れば、我々ビトルズ族は大きい、それはヴァーナたちが既に伝えていたのではないか?」

 大統領が震える声を抑えて答えた。

 「総括レノ、聞いてはいたが…本物を前にすると、動揺してしまった。もう大丈夫だ。失礼した。」

 「この霧の中では考えるだけでも、我々全員に伝わる。少しすれば、慣れてくるだろう。改めて挨拶をしよう。地球側の代表者は、プレスで間違いないか?」

 プレス大統領は、内心の動揺を隠しながら答えた。

 「そうだ。地球で最も偉いわけではないが、この場では地球代表としてここに居る。初めてルナリアンの総括レノと会えたことは、本当に光栄に思っている。」

 「プレス。我々も君たちとこうして会話できることを喜んでいる。他の地球人にも会えることを嬉しく思う。ヴァーナ、リカ、シスがビスティに現れたとき、ついにここまでたどり着いたかと驚いたものだ。マッカートが地球に興味を抱いてから、地球時間で数万年が過ぎ、地球人がここまで成長したことに、深い感銘を受けている。」

 レノは話を続けた。

 「地球の調査をしているハリスから、君たち人間の世界のことはよく聞いている。地球人が同じ種族同士で殺し合うことも含めて……人間は不思議な存在だ。」

 ハリス大統領もヴァーナ達から聞いている事を伝えた。

 「地球は宇宙でも珍しい星だと聞いている。また、人類は多くの反省をしなければならない事も承知している。君たちが現れたことで、人類がより良い方向に変わることを期待している。ルナリアンの技術力を得て、人類がもっと豊かになれば、さらに争いや犯罪も減るだろう。しかし、最終的な改善には君たちの協力が必要だ。その為にも君たちが地上に降り立てるように、君たちが苦手とする細菌やウイルスを地球上から除去するように全面協力する所存だ。」

 その言葉と共に、総括レノはゆっくりと地面に降り立ち、プレス大統領の前に滑るように近づいた。プレスは恐れから一歩後ずさりする。

 「プレス、恐れることはない。我が今日来たのは、まさにプレスが言った地球改善を代表に伝えるためだ。ハリスから地球の生態系についても聞いた。今の地球は生態系が崩れて、住めない星になろうとしている。水、土、植物、動物たちが自然に生きていく為の改善の必要があること。そして、一部の者は、人類が絶滅しなければ自然は戻らない、と考えているとも聞いている。」

 「確かに、完全な自然を取り戻す為には、そういう考えも一考だ。しかし、絶滅を考えるのはナンセンスであり、あり得ない答えだ。まだ考えられる新たな道があるはずだ。君たちの技術でその道を切り開いて欲しい期待もある。」

 「そうだ。私の親友であったマッカートも人間の絶滅は望まないはずだ。だからこそ、改善を行う。」

 プレス大統領は怯える声で尋ねた。

 「何をどうやって改善するのか…?」

 レノの落ち着いた声が頭に広がる。

 「地球人にはこれから3年の時間を与える。その時間内に地球人全員が地下に移住するのだ。3年後、人間の築いたものは全て破壊し、我々の環境に地上を変えて自然を取り戻す。宇宙の秩序に従う星に改善する。」


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。

今回は、ついに総括レノが地球へ姿を現す章となりました。

ニューヨーク上空を覆う巨大船、そして人類へ突きつけられる“3年”という猶予。

地球側とルナリアン側、それぞれの価値観の違いも強く描いた回になります。

ここから物語は、人類が選ぶ未来そのものが、大きく動き始めます。

今後も『ルナリアン』を楽しんで頂ければ幸いです。感想も頂ければ励みになります。

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