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ルナリアン  作者: 広育 春美


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7/14

ビトルズ族とロリンズ族

巨大構造物――ビスティ。

それは、我々が慣れ親しんでいた“月”そのものだった。

そこでヴァーナたちは、地球文明の起源へ繋がる驚愕の真実を知る。

そしてついに、長い眠りから目覚めた統括者レノとの接触が始まろうとしていた。

 「今、見たものは、君たちが地球に来るまでの経緯と、地球に留まっている理由を示しているの?」

 リカが尋ねた。

 「そうです。説明するより、映像を見る方が、理解が深まるでしょう。」

 「ピラミッドはあなた達の主が建造したってこと?」

 「そうです。見た通りです。」

 「…」

 3人とも歴史を覆す話がさらりと伝えられて、言葉にならなかった。ヴァーナが沈黙を破る。

 「いったい、何から聞けばいいのか…。君たちは我々がグレイと呼んでいる宇宙人で作業員の役割をしているようだが、ずっと眠らずに、そして永遠に船の状態を監視しているように見えた。ロボットだとも言っていたが、パーツはどれぐらいの期間で交換するんだ。」

 「パーツの寿命は地球時間で約2500年。何もない時は休眠モードに移行します。我々の主である、ビトルズやロリンズ族には寿命という概念はありません。」

 「新しい体に変わっても、今までの記憶は引き継がれるのか?」

 リカがさらに問いかける。

 「我々の活動記憶はこの船の量子空間に記録されているので、消えることはありません。」

 グレイの回答は理解しがたいものだった。

 シスが質問を続ける。

 「惑星バッハには多くの種族がいたようだが、どうやって300種族以上の惑星外から集まることができたのか? そして、そんなに多くの種族が集まっても争いはなかったのか?」

 グレイが答えた。

 「惑星バッハは、星図を頼りに旅行する者のビジターセンターのようなものです。立ち寄った者がバッハの環境を気に入り、自分たちの星から移り住むようになり、そうして数は次第に増えていきました。

 争い。それは地球だけの概念です。人間は同じ種族でありながら、お互いに殺し合う習性があります。そういった特殊な性質も、大事な進化の過程としてマッカートは記録しています。

 また、人間の進化の速さは驚異的です。マッカートたちが地上に降りて知識を与えたが、その時の文明の発展は遅かった。しかし、地球外に出るようになってから劇的な早さ進化し始めました。新しい情報が入るたびにニューロンが反応し、インターネットという情報回路の発達により、一気に情報を処理する必要が生じました。それにより、ニューロン内のナノ組織が活性化し始めましたが、同じ機構を持つロリンズ族のニューロンは、そのような進化は見られません。後ほど、それらを調べた統括たちにも会うことになりますので、質問して話を聞けば良いでしょう。」

 シスは納得したように頷きながら言った。

 「ありがとう。何となくわかった。これだけ広い宇宙で、人間だけが特殊な存在って事だな。」

 「無数に未知の星はあります。もしかしたら、人間と同じような種族が他にも存在する可能性はゼロとは言い切れませんが、限りなくゼロに近いでしょう。」

 グレイが答えた。


 さらに続けてグレイに映像の話を聞いていた時、横の壁からそびえ立つような人物が現れた。ビトルズ族だと一目で分かった。映像で見たときとは違う姿だった。楕円形の顔の真ん中には細くて黒い直線があるだけで、鼻や口、耳や髪はない。まるでロボットのようだった。彼の身にまとっていた白いワンピースのような服の周りには、常に黄色い光の輪が上下していた。まるで天使の輪が彼を包み込むように動いている、不思議な光景だった。

 その巨大な存在に圧倒された3人は、ただ黙って見上げることしかできなかった。

 「我はビトルズ族、総括のレノだ。ついに地球人が我らの船に到着する日が来たか。もうすぐ他の者達も目覚めるだろう。」

 レノがそういうと部屋が更に広くなり、3人の姿を映した大きな3D映像が宙に現れた。

 「どうした?何も言わんが、我の話す内容は理解できているのか?」

 ヴァーナがふと我に返り、答えた。

 「…初めまして。地球を代表してやってきた三人です。私はヴァーナ、こちらはシスとリカです。ここに来てから思わぬ事ばかりで驚きの連続です。その…いきなりの質問で申し訳ないのですが、レノ総括は仮死休眠装置に入っていた映像で見ました。なぜ起きてすぐに地球人の言葉が分かるのですか?」

 レノの顔の直線に黄色い光が左右に動いて言った。

 「君たちが私の言葉を理解するようになったのだ。ここに来た時、我々の言葉がわかるように脳に量子を埋め込んでいる。その量子が地球人の言葉に変換している。体に悪影響はないから安心して良い。」

 シスが驚愕して声を漏らす。

 「えっ。どういう事。」

 リカがシスを抑えるように小声で突っ込む。

 「シス、少し静かにして。もうここまで来たら何でも受け入れてよ。」

 「…わかった、そうする。」

 レノ総括の話が続く。

 「我の量子と君たちの脳の量子で話をしている。地球人がテレパシーと呼ぶものに似ている。もうわかっていると思うが、レチリたちは地球人と同じように音波で言葉を伝えている。無論、我も音波の言葉を受けてそれを理解することも可能だ。」

 グレイたちは“レチリ”と呼ばれているようだった。

 「他の統括達も目覚めたようだな。もう来るだろう。その前にどうしても聞きたい事がある、良いかな。」

 ヴァーナが即座に答える。

 「もちろんです。何なりと聞いてください。」

 「なぜ地球人は同じ星の種族同士で殺し合うのか教えてくれ。地球人はただでさえ短命な種族だと言うのに…。」

 ヴァーナが少し考えて答えた。

 「争いは、生存競争から始まり、やがて利権、思想、宗教、国境といった複雑な要因へと変化していきました。祖先はあなた達から言葉や狩猟の方法などを教えてもらったようですが、狩猟した食べ物が全員にまわる事はありませんでした。そこで力が強い者が食べ物を奪う為に、相手を倒して食料を奪う事を覚えました。

 人間はさらに進化して、お互いの争いを減らす為に自分達の縄張りを決めました。食料の問題が満たされると、次は縄張りを広くしたい欲望が出てきて、縄張り争いが発生しました。

 そして現代になり、食料、縄張り、生きていく事に困らない全てが揃ったところで大きな争いは減りましたが、思想の相違により争う事があります。全ての争いを無くすのは難しい課題です。」

 レノ総括は少し時間をおいて返した。

 「我々には永遠に理解できない事だな。地球人は不思議だ。」


 ぞろぞろと宙に浮かんだ巨人たちが、滑らかな動作で入ってきた。身長は2メートルから4メートルほどでバラバラだった。白いコートのような服は皆同じだが、コートの取り巻くように回り続けているリングの色が違っていた。青、黄、赤、最後の巨人は緑だった。何かを区別するためのものである事に間違いなかった。その後に続いて、身長が地球人ほどの人が入ってきた。ロリンズ族だ。

 ロリンズ族は人間と同じ風貌のように見える。顔には仮装舞踏会で見るような眼だけが見える白い仮面を着用していており、髪の色は茶色に近い黄色、黒と様々だ。男性なのか、女性なのかわからないが、髪の長さは皆バラバラだった。仮面の下に見える首の色は薄い肌色。白くてタイツのような薄い素材のものが体にぴったりとフィットし、肩からシルバー寄りの白いコートを羽織っている。全員が細くてスラリした細身の体をしていた。また、ビトルズ族、ロリンズ族の全員に言える事だが、シャボン玉のように時折、七色に輝く膜に覆われているようだった。


 全員が部屋に入り、総括レノの正面に我々3人、総括の右にビトルズ族、左にロリンズ族が弓の形のように並んで座った。ヴァーナ達は、その圧巻の光景に世界裁判の被告になったような気分で緊張のあまり、身じろぎ一つできなかった。

 「待たせたな。このメンバーがこの船、ビスティの活動を運営する統括たちだ。全員、君たちの到着を待っていた。我々から話をする前に、君たちの話を聞くとしよう。思う事を話してくれれば良い。」

 ヴァーナが立つと、続いてリカ、シスも立ち上がった。

 「皆さん、初めまして。地球人代表のヴァーナ、リカ、シスです。ここに来た経緯を簡単に説明します。1年前に巨大隕石が月の裏側を数百キロの距離ですれ違いました。その影響で月の土や岩がはぎとられ、貴方たちの船の入り口を発見しました。その入り口の調査に私達3人が地球代表として選ばれ、入り口を調査している時、自分達では船内に入る方法が分からず、戸惑っていましたが、レチリにより船内に招かれました。

 当初、ここは宇宙人が残した古代遺跡という予測が主流でした、運が良ければ宇宙人と出会って、ファーストコンタクトになる可能性もゼロではないという話はありましたが、まさかこのような大々的な出会いになるとは誰も想像していませんでした。今、私達3人は人生で最も忘れられない時間を体験しています。

 我々地球人がまず伝えたいのは、地球人は貴方たちと仲良くなりたいと願っています。地球代表として、その言葉に嘘はありません。準備には時間がかかると思いますが、交渉を重ねていき、いつか地球に招きたいと考えます。」

 総括レノがビトルズ族の緑のリングの統括に話をするように持ち掛けた。

 「地球人たちよ。ビスティにようこそ。マッカートの後任で地球人の進化の見届ける役となったハリスだ。人間の監視役はもう1人居る。」

 右端にいたロリンズ族の身長が180センチほど、髪は肩にかからないほどの金髪の女性と思われる者が少し前に歩み寄った。ハリスが話を続けた。

 「ロリンズ族のスウィフだ。2人で地球人を調査している。地上にも何度も降りた事がある。地球人が他の星に住む者たちを宇宙人と呼び、我々の探査機を“UFO”と呼んでいる事も知っている。地球人が自分たちの容姿とまったく違う姿を見ると恐れる事も知っている。

 今では地球人の数は増え、建物も増えた。我々ビトルズ族は人間と顔を合わせないため、地球人の細かい生態調査を行う時はロリンズ族のスウィフが地球人になりきり調査する事もある。スウィフは人間だけなく動植物の生態、細菌についても研究している。我は地球の気候、水、地質、また武器と呼ばれるモノの調査を担当している。

 人間の数が今ほど多くない時は、地球時間で30年に一度目覚めて調査していたが、地球人が定めた年代で1950年頃からは5年ごとに調査を行い、情報化時代以降は常時観測へ移行した。宇宙にも飛び立つようになり、もうすぐビスティにも気づくだろうと予想はしていた。

 そして、今。宇宙人、UFOの正体が分かった今。これからは隠れて調査は行う必要がないよう、地球人と話をしていきたい。それは我、スウィフだけでなく、このビスティに居るビトルズ族、ロリンズ族、全員の願いである。

 地球上には、我々の身体を蝕む細菌が居る。その細菌を地球人と共に駆除し、我々も安心して住める星に変えたいと考えている。」


 それから、お互いに疑問に思うこと、要望などを話し合った。ファーストコンタクトで、これほど寄り添った形となった交渉を誰が予想できただろうか。人類にとってこの上ない最上級の交渉の場となった。最後に今まで喋らず話を聞くだけだったスウィフが言葉を伝えてきた。その澄みきった声が頭の中へ直接響く。まるで心を撫でるような声だった。しかし、その要望は人類にとって決して簡単なものではなかった。

 「私が今までの人間と接触して分かった事の1つ、人間は自分の考えをそのまま話さない事を知っています。それは、地球文化の1つ、"嘘"と呼ばれるもの。仮想の自分を作り上げ、自分の正体を隠す事も知っています。我々と交渉する者は、嘘はなく、素直に自分の考えをそのまま話をしてもらう必要があります。それが約束できないなら、貴方達3人と同様に量子を埋め込んで交渉して頂くことになります。ここから戻り、他の人間たちにもその事を必ず伝えてください。」


 そして、全員が立ち去り、レチリと3人だけになった。

 「あなた方は、上で待機している船に戻る事で良いですか。それとも、始めに着用していた服を着て、転送した場所に送れば良いですか。」

 シスが言う。

 「船まで送ってもらえるなら、その方が楽だよな。」

 リカが答える。

 「けど、いきなりUFOが近づいて行ったら、皆びっくりするだろう。下手をすると攻撃される可能性もあるわ。ハッチの上に戻してもらって、宇宙船に引き上げてもらった方が良いかも。」

 レチリが静かに答えた。

 「いいえ。探査機では送りません。近距離なので次元転送を使って送ります。この中に転送した時と同じです。」

 「次元転送!」

 3人が声を揃えて言った。シスが再確認する。

 「いったい何それ。どうなって、どこに送られるの。」

 「2つの空間座標を歪めて繋ぎます。そして、船に3人を送ります。身に着けていたものも一緒に。」

 シスが両肩を上げて言う。

 「何を言っているのか、さっぱり、わからん。」

 「どうしますか。」

 ヴァーナが割り込んだ。

 「彼らには当たり前の技術のようだから、危険もなさそうだし、船まで送ってもらおう。」

 「ちょっと怖いな。」

 シスが弱気になっていた。

 「やってみましょうよ。人類が初体験の話。持ち帰る話は多い方がいいでしょ。」

 リカは楽しみな様子だった。そして、レチリが言った。

 「では、宇宙船に送ります。ハリスかスウィフから量子を通してコンタクトがあります。それまでは他の人間たちに今日のビスティでの出来事を伝えてください。」


 待機している船ではツェッペリンが椅子に座り、月面基地、宇宙開発機関コスモの長官と会議をしていた。地球の官房長官は地球全体への報告についてどうするべきか相談していた。

 「どうする。彼らが消えて、もうすぐ24時間になろうとしている。現状の報告をしろと世界中から声が上がっている。」

 「もう少し待ってくれませんか。彼らなら相当な試練が起ってもなんとか乗り越えてくれると信じています。今から24時間経っても何もなければ、ありのままを報告してください。」

 その時、ツェッペリンの目の前の空間に床から天井まで縦に光が素早く走り、そして広がった。眩しさのあまりに眼の前が真っ白になる。視界が戻ってくると、ツェッペリンの目の前には3人が両目を抑えて立っていた。3人の足元には、脱ぎ捨てられた宇宙服が床に転がっていた。

 「おおぉぉぉ!」

 突然の大声に、部屋の外に居た監視員たちもツェッペリンの方を見て、そして、皆が大声で叫んだ。映像を通して、月面基地、地球からも全ての状況が見えていたので、説明するまでもなかった。3人一緒にツェッペリンにハグした。そしてヴァーナが告げる。

 「今日という日は、人類が忘れられない日となり、新しい宇宙歴の始まりとなるだろう。」


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。

今回は、地球人とビトルズ族たちが初めて本格的に対話を行う章となりました。

文明が違えば、価値観も常識も大きく異なる――そんな部分を意識して描いています。

特に「争い」や「嘘」という、人類にとって当たり前になっている概念を、宇宙側からどう見るのかを書きたかった回でした。

また、スウィフやハリスなど、今後の物語に深く関わる存在も登場しています。

ここから物語は、“未知との遭遇”から、“共存と理解”へ進んでいきます。

今後も『ルナリアン』をお楽しみ頂けたら幸いです。感想も頂ければ励みになります。

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