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ルナリアン  作者: 広育 春美


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惑星バッハ

月に隠されていた秘密と、人類の歴史へと繋がる真実。

宇宙規模の時間と文明の流れを楽しんでもらえたら嬉しいです。

 二つの恒星が互いに回転する星系には、十二個の惑星が浮かんでいた。視点がズームインし、第四惑星全体が広がるシーンへと移り変わった。地球によく似たその惑星は、水が豊富に存在し、生命が繁栄する場所だった。さらに場面は地表へと迫り、ビル群が立ち並ぶ街並みが映し出された。所々に広がる街のすべてが巨大なドームに囲まれ、ビルの色は白一色に統一されていた。そんな中、歩行者や飛行する車のような乗り物が動き回る姿がはっきりと見て取れた。

 ビル群は波紋のように円形に広がり、その中心には他のすべてを圧倒するかのようにそびえ立つ一つの超高層ビルが鎮座していた。その最上階では、さまざまな種族が集う会議が行われていた。

 「惑星バッハを統括する全員が顔を合わせて集まるのは、これが初めてのことだな。そして、これは最初で最後の集まりとなるだろう。この場を設けたのは、これから話す情報が漏れ、混乱を引き起こすのを避けるためだ。今から伝える事実は、一時間ほど前に得た緊急な事象だ。

 第1恒星イグルスの光度とスペクトルに異常が発生し、その状態が20分間続いた。今までの恒星の研究の結果から、この現象は恒星の寿命が尽きかけていることを示している。イグルスの大きさから推測すると、今後10年以内に爆発が起こるのは確実だ。我々120億人全員がバッハから他の惑星へ移住する必要がある。隣の星系ではなく、最低でも隣の銀河に移動しなければ、イグルスの爆発の影響を免れることはできないだろう。

 現在、120億人を全員乗せる船は存在しない。多くて1万人が搭乗できる船だ。さらに銀河の移動時間を考慮すると仮死休眠装置が必須だろう。しかし、そのような船は存在しない。新たな設計が必要だ。ここまでで何か質問はないか?」

 10億人が住む最大の都市を統治するボーイズが声をあげた。

 「なぜ、対応がこんなにギリギリになった。事前に準備しておける話ではないか。」

 「覚えているか?4年ほど前に恒星エネルギーを補給させてくれと言ってきたドアズ星からやって来た連中のことを。未だに恒星エネルギーを使っているような低レベルの旅行者だったので、何の監視もせずに補充を許可したのだが、どうやら許容量を遥かに超えるエネルギーを補充していったようだ。今回の出来事から計算すると、恒星の2割の水素を吸い取っていったと予想される。その影響でイグルスがバランスを崩し、今回のような事態に至ったと考えている。今さら何を言っても仕方ない事だ。」

 「わかった。ドアズ星はNH4884銀河の615星系だったよな。今回の移住の時に立ち寄って注意しないといけないな。」

 「補充する量を確認しなかった我々にも否はある。他に質問は無いか。無いようなら、これからの予定を話したいと思う。」

 約1000人の統括者たち全員が同意の声をあげた。

 「これからの都市整備など生活に必須ではない世界中のロボットを全て船の製造に回す。もうここから去るので、資源は遠慮なく掘り出して船の資材に回す。船は315種族ごとに製造する。製造場所は大気圏外。船の機能は種族に合わせて調整する。移動先はまだ決まっていない。今の環境と同じ惑星は見つかっていないが、惑星の重力を調整することでバッハとよく似た星になる候補が7つほどある。行き先は強制しない。連絡はいつでも取れるので、全員で同じ惑星に行く必要はないと考えている。それで良いか?」

 「船が全て製造できたら、全国民に星を捨てることを発表する。今から1年以内に惑星バッハから出発できるようにするつもりだ。」


 会議室の風景が一変し、目の前には惑星バッハの周囲に白く輝く丸い球体が浮かんでいた。大きなものは直径5万キロ、小さなものは直径5千キロの球体が白く神秘的に漂っている。惑星バッハは直径370万キロの中級惑星であったが、脱出船が出発準備のために重力を起動させると、その自転は次第に遅くなり、バッハの一日は通常の十倍の長さになった。

 次々と脱出船が発進し、最後には総括を乗せた船も出発の時を迎えた。ビトルズ族とロリンズ族の面々が仮死休眠装置に入る中、船内作業を指揮するグレイのリーダーが総括に確認をとった。

そのグレイは、黒い体に細くスラリとした体型を持ち、目や鼻、口のない異様な姿をしていた。

 「総括、全ての全国民が船に乗り込み、旅立ちました。残るは我々ビトルズ族とロリンズ族のみです。目的地はNM2006銀河の525星系の第3惑星でよろしいでしょうか?」

 総括のレノは未知の冒険を求める決断を下した。

 「いや、我々は星図に載っていないさらに遠くの星系を目指そう。」

 「総括、それでは隣の銀河団に向かうことになりますが、それでよろしいのですか?」

 「それでいい。未開の地を開拓したいのだ。何年かかっても構わない。隣の銀河団でバッハによく似た惑星に出会うまで旅を続けてくれ。他の種族からの連絡があった時は必ず応答するように。私の判断が必要な時は起こしてくれ。」

 こう言い残して、総括のレノは惑星バッハを去り、仮死休眠装置へと身を預けた。


 そして、脱出船が進む場面へと切り替わった。船は前方のダークマターを切り開き、全く重力の影響を受けない無の空間を超高速で突き進んでいた。船の後方に巻き込まれるダークマターをエネルギー源として取り込みながら進むそのダーク航法は、闇を駆ける閃光のようだった。その速度は光の数十倍に達し、なおも加速し続けている。

 ダークマターは透明で電波の影響を受けないが、ダーク航法により大量かつ超高速で押し寄せられることで、船の周囲に形成される重力レンズが強く影響し、周りに見える星々の光は大きく歪んでいた。

 船内では、多くの小さな体のグレイたちがまだ完成していない区画を仕上げるために忙しく働いていた。リーダーからの命令を受けた後、グレイたちは自らの判断で行動し、効率的に作業を進めていた。

 リーダーから新たな命令が下される場面に移った。

 「目標の惑星に到着した。調査員は地上の状態を情報収集し、報告せよ。」

 命令が下ると、船から次々と円盤型の小型船が飛び立っていった。それはまさに地球人がUFOと呼ぶものであった。小型船はバッハと似た青い惑星の各地に向かっていき、グレイたちは地上に降り立ち、詳細な調査を行う。

 やがて、小型船が次々と母船に戻り、自分達の求める星ではない事がわかり、再び次の惑星を目指して出発する様子が見られた。


 次に現れたのは、地球にそっくりの惑星だった。青い海が全体の7割を占め、地上には巨大な一つの大きな大陸が広がっている。先ほどと同様、UFOが各地に向かい、調査を終えて帰還すると、船はこの惑星の周回軌道に乗った。

 スラリとしたグレイのリーダーたちが集まり議論を重ね、ビトルズ族、ロリンズ族の代表50人を目覚めさせた。そして、総括のレノは、目の前の星を見つめながら、声をあげた

 「おお、惑星バッハの環境に似た星に辿り着いたか。あれから何年経ったのだ?」

 「我々の時間で約3万年、この惑星では3億年ほどが経過した計算になります。私たちは3つの銀河団を超えてきました。」

 「この星の状態はどうだ? 移住可能なのか?」

 「説明します。この銀河の中心の恒星は小さくて若いです。第3惑星が今見ている星です。惑星の直径は、この船の約4倍ほどですが、移住には十分な大きさです。重力はバッハの5分の1、自転速度はこの星の時間で約8.5時間。大気や空気の成分はほぼバッハと同じで、テラフォーミングの必要はありません。現在、地上には非常に多くの種類の生物が存在しますが、知能の低い生物ばかりで、交渉できる生物はいません。」

 「まさに求めていた星だな。では、まず重力をバッハに合わせてくれ。船の重力を調整し、惑星の自転速度を24時間に変えろ。かなり小さな惑星だから、惑星との距離を近づけすぎないようにする。この惑星の地上から見える恒星と同じくらいの大きさ程に離れれば、影響も少ないだろう。どれくらいでできそうだ?」

 「重力装置を惑星の中心に埋め込むのには、それほど時間はかかりません。しかし、この星の地質の調査によると、現在の重力でプレートは一つに固まっていますが、重力を5倍にすると、プレートが重力に耐えきれず、分割して少しずつ動くことが想定されます。そのプレートの動きが安定するには、この惑星時間で約1億5000万年は最低必要です。」

 「わかった。では、それで進めてくれ。安定するまでまた休んでおく。」


 惑星は雲が増え、白と青、そして緑や土の色が織りなすグラデーションが広がり、地表は分裂して現在の地球の姿へと変貌を遂げた。再び総括たちが目覚め、惑星の現状を確認する。

 「おお、いい感じに変わったな。近況を教えてくれ。」

 「自転は24時間で安定しています。地上の動物達も24時間のリズムに進化しました。原始的な動物が多く存在し、以前より多種多様化しています。また、30万年ほど前に落ちた隕石から、ビトルズ族やロリンズ族には免疫のない細菌が現れ、そちらも多種多様化しています。」

 「細菌か…わかった。では、星に大きめの隕石を落として、災害を起こせ。大気中の灰と塵で光が届かないようにするのだ。そうすれば、細菌も息絶えるだろう。動植物の殆どが死滅するだろうが、また生態は新たに進化させればいい。次に新しい生物が現れる頃に目覚めさせてくれ。」


 暗転して場面が変わり、6000万年ほどが経過した地上には、全身毛むくじゃらの二足歩行する猿が歩いていた。草木になる実を取って生きているようだった。以前いた恐竜たちの姿はなく、小型の生物が徘徊する星に変わっていた。

 「総括。残念ながら細菌を絶滅させることはできませんでした。生き残った細菌は以前よりも弱いですが、まだ我々の体には不向きです。」

 「細菌を死滅させるのは難しいかも知れんな。諦めて次の星に向かって旅立つか。」

 その時、ビトルズ族の1人の統括が意見を述べた。

 「レノ、この星の現状を確認しているのだが、進化の自然実験場に最適だ。もし我々が関与した時、どのような文明が生まれるか確認できれば、それは我々の古い祖先の文明を明らかにする貴重な知見となるはずだ。この星を離れるのはそれからでも遅くはないだろう。どうだろう?」

 総括は少し考えた後、うなずいて納得した。

 「いいだろう。確かに珍しい星ではあるな。マッカートの言う通りにやってみよう。マッカート、これからどうするのか、何か考えはあるのか?」

 マッカートがにやけて、自分の考えを口にした。

 「これだけ多種多様な動物や植物や昆虫がいる環境で、主導権を握る動物の成長過程を記録に残す。進化の過程を一気に進めることになるが、狩猟能力を二足歩行動物に教える。また、言葉も教えよう。農耕技術も伝える。寿命に限りがあった我々の祖先の時代の始まりも、そうであったに違いない。我々の歴史を振り返る意味でも、進化の過程を見届けていきたい。そして、進化を遂げた動物が、いつこの船に辿り着くかも楽しみだ。」

 「なるほど。」

 総括が相槌を打つ。マッカートの話は続いた。

 「ある程度進化して、団体行動をする動物が出てくる頃にまた目覚める。その時は全員を目覚めさせて、この話を聞かせる。細菌に身体が蝕まれる可能性もあるが、私に共感してくれる仲間を連れて地上に降りて知的生物の様子を伺うことにする。命懸けの研究になるかも知れないが、実験の成果を優先させたい。これほど珍しい星に出会う事はもうないだろうからな。」


 場面が切り替わり、ロリンズ族が地上に降り立つシーンに変わった。7つの大陸の二足歩行する猿に自分達の身体の組織を埋め込んでいる様子が伺えた。さらに場面に変わり、白人、黒人、アジア人、ラテンアメリカ人の祖先となる猿たちの姿が映し出された。進化した彼らは体毛が減り、顔は今の人間の顔に似通っていた。それらの猿に言葉を与えるロリンズ族の姿があった。


 次の場面は真っ白に輝く四角錐の三体のピラミッドへと変わった。一番大きなピラミッドの中で、マッカートが人間に技術向上の方法を教えていた。人間と比べると、マッカートの身長は3メートルほどもあり、ビトルズ族がいかに大きな種族であるかが一目で分かった。また、ホルス神やアヌビス神の仮面をかぶり歩く姿も見受けられた。

 地上に降り立ったビトルズ族の仲間たちは世界各地に散らばり、形の異なるピラミッドを建設しながら連絡を取り合い、技術力の低い人間たちにさまざまなことを教えていった。人間たちはビトルズ族のことを壁画や石像など、さまざまな形で記録に残していった。

 しかし、ある時にマッカートは体調を崩した。細菌に打ち勝つことができなかったのだ。同時期に地上に降りたビトルズ族の面々も次々に倒れ、船に連れ戻されたが回復することなく、残念ながら全員が亡くなった。マッカートは死ぬ前に遺言を残した。

 「人間たちが我々のこの船に辿り着くまでは、この星を去らずに進化を見届けてくれ。」

 そして、息を引き取った。船は人間たちに見つからないように周囲に隕石を引き寄せて、ただの衛星のようにカモフラージュし、人間の進化を待ち続けた。


 場面が、真っ白に輝いたかと思うと、3人の目の前は、元のグレイたちのいる部屋の様子に戻った。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

ビトルズ族やロリンズ族、そして月に隠された船の存在など、これまでの伏線が少しずつ形になってきた章でもあります。

ここから物語はさらに大きく動き始めます。

次の章も楽しんでいただけたら嬉しいです。感想も頂ければ励みになります。

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