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ルナリアン  作者: 広育 春美


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ファーストコンタクト

ついに、物語は“月の内部”へと踏み込みます。

白だけの空間。

人類が初めて出会う未知の存在。

そして、地球文明の根底を揺るがす真実。

この章は、これまで積み重ねてきた訓練や覚悟が、初めて“未知”そのものと向き合う瞬間を書いた章です。


少しでも、読んでくださる皆様に

「この先どうなるんだろう」

という感覚を楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは――

人類史上初の邂逅へ。

 光に包まれ、船との通信も途絶え、辿り着いたのは完全な白の世界だった。狭いのか広いのか、高いのか低いのかもわからない。無重力の宇宙遊泳でもなければ、重力のある地上でもない。歩いているのか浮いているのかも曖昧な、不思議な空間だった。


 シスは焦りと混乱の中で声を張り上げた。

 「ヴァーナ、聞こえるか。通信は繋がっているか。応答してくれ、頼む。」

 しかし、何の返答もなかった。続いてAIにも問いかけたが、同じく応答はなかった。そもそも、自分の声が出ているのかさえわからない。手を動かしている感覚はあるが、目の前に手をかざしても、それを見ることさえできなかった。

 落ち着こうと深呼吸を試み、今の状況を冷静に把握しようとした。しかし、わかることと言えば、この真っ白な空間に閉じ込められていることだけだった。ここから出る方法も、時間の流れすらも感じ取れない異様な世界に、シスはなすすべもなく、ただ気が狂いそうなほど白い世界を見つめるだけであった。経験したことのない恐怖と無力感が心を覆い尽くす中、選択肢のない現実を受け入れるしかなかった。静かに目をつぶり、地上での訓練を思い出しながら、次に何が起こるのかを待つことにした。


 ヴァーナもこの異様な空間に戸惑いを隠せなかった。しかし、ヴァーナは機転を利かせ、この場所を意識が明瞭な夢の世界だと仮定した。そして、自らの存在を強く意識し、前方へ進む決意を固めた。動いているかどうかは定かではなかったが、彼は速度を上げるイメージを強く描き、前進を続ける。

 やがて、遠くに微かな光が見えた。その光を希望の兆しと捉え、更にスピードを上げて突き進む。光は次第に大きく広がり、まばゆい輝きとなって彼を包み込んだ。ヴァーナはその光の中に飛び込んだ。


 光の眩しさが徐々に和らぎ、周囲の風景がぼんやりと現れ始めた。七色に輝く光の帯がランダムに流れる、半透明のカプセルに横たわっている自分に気付き、ヴァーナはゆっくりと上半身を起こし、周囲を見回した。壁や天井や床の全体から光が発せられているようで、明るく無菌室のように綺麗で清潔感のある部屋だった。そこには同じようなカプセルが隣に2つ並び、リカとシスが横たわっているのが確認できた。

 ふと自分の顔に手を当てた瞬間、宇宙服を着ていないことに気が付き、呼吸していることに驚いた。その時、カプセルが並ぶ奥から3つの何かが壁をすり抜けて現れた。それは、人類が“グレイ”と呼んできた宇宙人の姿そのものだった。大きな黒い目を持つ3体の宇宙人が、ヴァーナの立つ姿を見てお互いに顔を見合わせ、何かを話しているようだった。そして、3体は再び壁の中へと消えていった。

 ヴァーナは一瞬、現実と幻想の狭間にいるような感覚に包まれながら、これは現実のファーストコンタクトだと認識した。


 シスとリカを揺さぶったが、彼らは全く目を覚ます気配を見せなかった。そんな中、壁から3体の宇宙人が静かに姿を現し戻って来た。ヴァーナは一瞬、どう対応すべきか分からず、その場に立ち尽くしてしまった。宇宙人たちは恐れもせずに近づき、そしてこう言った。

 「ようこそ、我等の住処へ。」

 言葉を失った。宇宙人が地球の言葉で話しかけてくるとは想像もしていなかった。驚きと戸惑いが入り混じる中、ヴァーナはどう対応すれば良いのか分からなかった。

 「驚くのも無理はないでしょう。我々は長い間、君たち人間を観察してきました。地球のあらゆる生物の言葉に精通しています。ヴァーナ、君に危害を加えるつもりはないので、安心してください。」

 「なぜ、俺の名を?」

 人類史上初の対話。その最初の言葉は、疑問だった。

 「カプセルで寝ている時に脳情報を調べさせてもらいました。リカとシスについても同様です。彼女たちも後で目覚めさせます。こちらへついてきてください。」

 彼らは宙に浮かび、滑らかに進んでいった。その後ろには浮かび上がったリカとシスのカプセルが静かに追従していく。やがて全員が壁の奥に消えていった。ヴァーナは我に返り、彼らの後を追うが、壁の前で一旦立ち止まり、恐る恐る手を当ててみた。手は壁に触れることなく、ただすり抜けるだけだった。意を決し、ゆっくりと壁をすり抜けた。

 目の前の丸い通路に一歩踏み出すと、不思議なことに自然と身体が進んでいった。通路は何もないが、上下左右に首を振りながら周囲を見渡すヴァーナの姿は、まるで異星を訪れた観光客のようだった。どこからか2種類の水が滴るような音がランダムに聞こえる。気分が楽になる心地の良いサウンドのようだった。人間のレベルを超越している宇宙人の技術力に驚愕するばかりであった。


 通路を進むこと3分ほどで、左の壁に身体が吸い込まれた。そのままさらに奥へと進むと、微かにガラスのショーウインドウのような物が見え始めた。高さは5メートルほど。ヴァーナはそのガラスに沿って進みながら、ガラスの向こうに広がって見えるのは無数のカプセルだった。さっきまでのカプセルとよく似ているが、こちらは完全に密閉され、中は見えないようになっている。カプセルの大きさも様々で、大きいものは5メートル、小さいものは1メートルほどだった。

 また不意に右手の壁を通り抜けると、そこには3人のグレイが並んでいた。リカとシスのカプセルの頭の後ろで何かを操作しているようだ。まるで2人を目覚めさせようとしているかのようだった。その瞬間、3人のグレイが突然、人間の少年と少女の姿に変わった。

 「うぅぅ。」

 リカが目覚めて、上半身を起こした。

 「おはよう。リカ。」

 「えっ。誰?」

 「大丈夫、安心して、ヴァーナも居るよ。」

 姿を変えた女の子が優しくリカに語り掛けた。シスも起きて、2人の男の子がシスに語りかけた。このやりとりを始終みていたヴァーナは何事が起きているのかと思ってみていたが、目覚めた2人に衝撃を与えないように姿を変えていると気づいた。

 シスがヴァーナに語り掛ける。

 「いったい何があったんだ?えっ、宇宙服は?ここ何処?」

 「いや、ここは月の中のようだ。私も目覚めたばかりだ。」

 ヴァーナが少年少女たちの方に掌を向けて話を続ける。

 「彼らからはまだ何の話も聞いていない。俺たち3人が揃うのを待っていたようだ。」

 まだ現状がわかっていない2人も何が何だかわからないまま、ヴァーナと並んで立ち上がったところで、女の子のグレイが話し出した。

 「改めて、我々の住処にようこそ。そこにお座りください。」

 何もない空間に椅子のようなものが現れる。

 「ナノフォースフィールドによる構造体生成技術か?」

 ヴァーナが呟くと、何かの力に押され3人は座った。

 「おわっ。」

 シスが驚きの声をあげて、自分の座っているものを触ろうとしたが、自分の体に触れるだけだった。そして、女の子が話を続ける。

 「我々は長い間、地球をずっと監視しています。あなた達が我々のことを宇宙人と呼んでいる事を知っています。あなた達が、自分達とは異なる姿を恐れることを知っています。これから姿を変えますが、驚かないでください。」

 そういうと元のグレイの姿に戻った。シスもリカも目を大きく見開いて、衝撃が大きすぎて声が出なかった。

 「目覚めて直ぐにこの姿を見せると、驚くと思い姿を偽っていました。」

 ヴァーナの方を向いて、話が続く。

 「我々が部屋へ3人を迎えに行くと、意識を消していたはずでしたが、なぜかヴァーナだけは目覚めていました。ヴァーナは我々を見た時はさぞ驚いたことでしょう。しかし、落ち着いて受け入れてくれたので、我々も安心しました。」

 「いいや、正直言うと動けなかったというのが正解だ。」

 ヴァーナが応答した。そして、グレイの話が続いた。

 「人間がここへ辿り着くのは、地球時間であと100年先だと予測していましたが、想定外の隕石の影響によりカモフラージュの岩肌が剥がれてしまいました。我々の誤算です。」

 「カモフラージュ…」

 リカがぼそっと呟いて続きの話を聞いた。

 「今の人間の技術力では船の内部に入れないので、そのまま放置しても良かったのですが、人間は次に、核兵器の使用すら選択しかねなかったので、3人には中に入ってもらいました。しかし、危険性がないことを確認したかった為、意識を消して脳を事前に調査させてもらいました。」

 「1つ質問させてもらえるかな。なぜ君たちは人間の言葉がわかるんだ?」

 ヴァーナが話に割り込んだ。

 「簡単に説明すると、もともと人間に言葉を教えたのは、我々の主であるビトルズ族とロリング族です。彼らは地球に降り立ち、至る所で言葉を教えました。そこから人間自身が言葉を変えて今のようになっています。我々は監視を続けているので、変革していく人間の言葉も知っています。」

 「よく理解できていないが、言葉を教えたという事は何千年も前ってこと?」

 「そう、地球時間の約7万年前になります。」

 「…認知革命か。」

 ヴァーナが呟き、何か納得したような顔になり続けて質問した。

 「君たちに寿命はないのか。」

 「我々にも寿命はありますが、人間のように短くはありません。我々は人間がロボットと呼ぶものに近い存在です。古くなったらパーツを交換します。」

 「君たち3人はロボットなのか。」

 「そう、ロボットです。しかし、人間が造るロボットとは全く素材も構造が違います。また、我々の頭脳は、人間がAIと呼ぶ原始的な人工頭脳とは根本的に異なります。我々は人間の頭脳よりも遥かに高い知能を持っています。」

 「君たちは何者なんだ。何の為にここにいるんだ。君たちが主と呼ぶ者は、先ほどのカプセルに入っているってことか。疑問ばかりで申し訳ないが、理解できない事が多すぎる。」

 3人のグレイが見つめ合い何かのやり取りが行われた様子の後にこう言った。

 「過去を見て話をした方が良さそうです。脳にアクセスします。これから見えるものは現実のように感じるでしょうが、夢のようなものですが、現実ではないと理解していてください。」

 グレイがそういうと、透明のカプセルが頭部を囲った。そして、目のまえの風景がいきなり変わった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

今回の章では、ついにグレイとの接触、そして“月の内部”という未知の領域へ踏み込む展開を書きました。

これまで積み上げてきた訓練や準備が、ここで一気に“未知との遭遇”へ変わる瞬間を書きたくて、かなりイメージを膨らませながら執筆しました。

次は、彼らの歴史と月に居る理由が明らかになります。

この先の展開も、楽しんでいただけたら嬉しいです。感想も頂ければ励みになります。

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