僧侶と癖のある酒
その酒場は、少し落ち着いた場所にあった。
町の中心から外れている。
人も多くない。
「飲むか」
店主に言われ、頷く。
出てきたのは、
少し香りの強い酒だった。
色は薄い。
だが、
鼻に抜ける匂いが残る。
一口。
悪くない。
「癖ありますね」
「南の方の酒だ」
店主はそう言った。
「慣れるとこればかりになる」
スイが、
足元で揺れる。
色は落ち着いた青だ。
その時、
後ろの席から声がした。
「……その酒、飲めるんですね」
聞き覚えがある。
振り返る。
あの僧侶だった。
以前と同じ、
落ち着いた顔。
「どうも」
軽く会釈する。
「また会いましたね」
「そうですね」
偶然にしては、
よく会う。
僧侶は俺の向かいに座る。
同じ酒を頼む。
一口飲んで、
少しだけ眉を寄せた。
「やっぱり、慣れません」
「癖ありますから」
「ええ」
それで少し笑う。
前と同じ空気だ。
「南へ?」
僧侶が聞く。
「なんとなく」
いつもの答えだ。
僧侶は頷く。
「勇者様も、南にいます」
自然に出た言葉だった。
「会いました?」
「いいえ」
「そうですか」
少し間がある。
「この前、席だけは座りました」
そう言うと、
僧侶が少し驚いた顔をした。
「そうなんですか」
「普通でしたよ」
「ええ」
僧侶は頷く。
「普通の方です」
それは、何度も聞いた。
「ただ」
僧侶は少し考える。
「飲み方に、癖があります」
「癖?」
「一口目を、少し長く味わうんです」
それだけだった。
だが、
妙に引っかかる。
「二口目からは、早い」
僧侶は続ける。
「でも最初だけは、ゆっくり」
どこにでもありそうな話だ。
だが――
「……そういう人、いますよね」
そう返す。
「ええ」
僧侶は笑う。
「珍しくはありません」
それで話は終わる。
酒を飲む。
香りが残る。
スイが、
少しだけ揺れる。
色は変わらない。
「でも」
僧侶が、ぽつりと言う。
「昔から、そうだった気がします」
その言い方は、
少しだけ曖昧だった。
「昔から?」
「いえ」
僧侶は首を振る。
「気のせいかもしれません」
それで終わる。
俺は酒をもう一口飲む。
一口目を、少しだけゆっくり。
……確かに、悪くない。
「……まあ、分からなくもないですね」
そう言うと、
僧侶は静かに笑った。
外は静かだ。
風も弱い。
勇者にはまだ会っていない。
だが、
少しだけ輪郭が見えてきた気がした。
それでも、
確信には遠い。
スイが揺れる。
色は、いつも通りの青だった。




