行き止まりの酒
南へ進み続けて、
道はだんだん細くなっていった。
人も減る。
建物もない。
代わりに、
焦げた地面が増えていく。
風が、少し乾いている。
「……この先か」
前方に、簡単な柵が見えた。
人はいない。
だが、
越えていい雰囲気ではない。
近づく。
地面が黒い。
踏みしめると、
軽く砕ける。
焼けている。
スイが、
足元で動きを止めた。
色が少し薄い。
「やめとくか」
誰に言うでもなく、口に出る。
柵の向こうには、
何もない。
木も、建物も、
人もいない。
ただ、
焼けた跡だけが続いている。
少しだけ、考える。
進めなくはない。
だが――
「酒、なさそうだな」
それで十分だった。
踵を返す。
スイが、
ゆっくり動き出す。
色も、元に戻る。
少し戻ると、
小さな建物があった。
ほとんど壊れているが、
屋根だけは残っている。
中に入る。
酒場だったらしい。
棚は空。
瓶もない。
匂いだけが、少し残っている。
「ここも、終わりか」
そう言うと、
背後から声がした。
「終わりじゃない」
振り返る。
男が一人。
年は分からない。
だが、
ここに長くいる顔だ。
「まだ、やる」
男はそう言った。
「酒は?」
「これからだ」
何もない棚を見る。
「作る」
簡単に言う。
「水はある。
麦も、そのうち来る」
それは、
かなり先の話に聞こえた。
「時間かかりますね」
「かかるな」
男は笑う。
「でも、無くなったわけじゃない」
その言い方は、
どこか店主に似ていた。
「……そうですね」
納得はしないが、
否定もしない。
スイが、
床の焦げた跡に触れる。
色は変わらない。
もう何も残っていない。
「飲めるようになったら、また来い」
男が言う。
「覚えてたら」
「覚えてるさ」
根拠はない。
だが、
そういう顔だった。
外に出る。
風が、少しだけ変わる。
南は、ここまでだ。
それでいい。
「さて」
どこへ行くか。
東か、西か。
あるいは、少し戻るか。
酒がある方へ。
それだけだ。
スイが揺れる。
色は、いつも通りの青だった。




