酒税官と密造酒
宿の酒場は、昼でも暗かった。
窓が小さい。
灯りは油のランプだけだ。
その代わり、
酒の匂いは強い。
俺はカウンターで
黒蜜酒を少しだけ飲んでいた。
昨日の店主が、
まだ少し残っている瓶を出してくれた。
重い酒だ。
甘いのに、
舌の奥が少し痺れる。
スイが足元で揺れる。
色は濃い青だ。
どうやら気に入っているらしい。
扉が開いた。
風と一緒に、
一人の男が入ってくる。
服は地味だが、
腰に小さな紋章がついていた。
役人だ。
店主が少しだけ眉を上げる。
「酒税官か」
男は帽子を取る。
「仕事だ」
そう言いながら、
席に座る。
「飲むか」
店主が聞く。
「飲む」
即答だった。
杯が置かれる。
透明な酒。
一口飲むと、
男は満足そうに息を吐いた。
「まずは仕事前の確認だ」
都合のいい言葉だ。
男は周りを見渡す。
黒蜜酒の瓶を見る。
そして俺を見る。
「それは?」
「拾い物らしいです」
正直に言う。
男は瓶を手に取る。
匂いを嗅ぐ。
「魔族の酒だな」
やはりそうらしい。
「違法ですか」
聞くと、
男は少し考える。
「難しい」
嫌な答えだ。
「魔族の国で作られた酒は
この国じゃ税が払われてない」
「つまり」
「密造酒扱いだ」
兵士が笑う。
「戦利品だろ」
「戦利品でも税はいる」
酒税官は真面目に言う。
だが、
すぐに黒蜜酒を飲んだ。
「……うまいな」
それで話は少し緩んだ。
スイが
床の一滴に触れる。
色がさらに濃くなる。
酒税官がそれを見る。
「変わった生き物だ」
「よく言われます」
男はもう一口飲む。
「魔族の酒は甘い」
「そうなんですか」
「税が取りにくいからな」
理由が役人だ。
「勇者が南に行ってる」
兵士が言う。
酒税官は頷いた。
「聞いてる」
そして黒蜜酒を見る。
「勇者が勝てば
この酒は増える」
「負けたら?」
誰かが聞く。
酒税官は肩をすくめる。
「税を取りに行く場所が変わるだけだ」
役人らしい答えだった。
黒蜜酒を飲み干す。
甘さが
喉に残る。
「これ、没収ですか」
聞くと、
酒税官は瓶を見た。
そして店主を見る。
少し考えてから言う。
「……調査のためだ」
店主が笑う。
「そうか」
つまり、
飲むつもりらしい。
外では
南風が吹いている。
勇者と魔王の話は
まだ続いている。
だが今、
この酒場で一番大事なのは
黒蜜酒の残りが
どれだけあるかだった。




