魔物酒
町を出て半日ほど歩くと、
森が少し開けた場所に出た。
道の脇に、
新しい建物がある。
板の壁。
粗い屋根。
まだ出来て間もないらしい。
「酒」
看板には、
それだけ書かれていた。
スイが少し早く揺れる。
人の匂いがする場所は
嫌いじゃないらしい。
扉を押すと、
中は思ったより広かった。
客は三人。
兵士と、
荷物を抱えた商人と、
奥で静かに飲んでいる老人。
店主は女だった。
腕が太い。
「飲むか」
挨拶の代わりらしい。
「飲みます」
席に座ると、
木の杯が置かれた。
中身は濁っている。
色は深い茶色。
「何の酒です」
聞くと、店主は笑った。
「魔物酒」
嫌な名前だ。
「……本当に?」
「半分な」
杯を持ち上げる。
匂いは強い。
だが腐ってはいない。
一口。
苦い。
そのあと、
少し甘い。
「何が入ってる」
「森の猪」
店主は平然と言う。
「魔物だった」
なるほど。
「勇者が倒した」
それで、
話は繋がる。
「肉を無駄にするのは
もったいないだろ」
それは、確かにそうだ。
「だから酒にした」
発想が雑だ。
だが、
悪くない。
スイが、
床の一滴に触れる。
色が少し濃くなる。
店主がそれを見る。
「それも飲むのか」
「たぶん」
「変な連れだな」
よく言われる。
兵士が話に入る。
「その猪な」
杯を持ち上げる。
「この辺の畑を
全部荒らしてた」
「魔物だったんですか」
「でかかった」
それで十分だ。
「勇者が来て、
一撃だった」
兵士は笑う。
「で、残ったのがこの酒」
杯をもう一口。
確かに、
普通の酒じゃない。
森の匂いがする。
「名前、付けたのか」
店主に聞く。
「魔物酒」
そのままだ。
店の外では
風が動いている。
南からだ。
勇者は、
もう少し先にいる。
だが、
その跡は
ちゃんと残っている。
杯を置く。
「……悪くない」
店主が笑った。
「だろ」
スイが揺れる。
色は
少しだけ深い青だった。




