22 誕生日プレゼント
あれから俺たちの生活は想像していた以上に順調だった。いくら外の世界に出たとは言え、俺は指名手配中。裏世界でも顔は知れ渡っているわけで易々と外出できる訳がない。
それでもすっかり太陽を嫌がるようになった祷には丁度良かったらしく家でゴロゴロと暮らしている。本を読んだり、テレビを見たり、歌を聞いたり、家具を作ったり、一緒に昼寝したり…。
本当に充実した日々が続いて怖いくらいだ。また起きて夢だったなんて思いたくはない。
「んんぅ…。ハク?」
まだ眠いのか目をこする祷が無理に起き上がろうとするのを止める。
「まだ寝てていい。傍にいるから」
「うん…」
安心しきった顔。この世に何も不安なんてないその顔が、とても愛おしく見える。
祷と一緒なら少しずつ眠れるようにはなったが、それでもまだ一時間や二時間がざらだ。傍にいると言った反面、適当に本でも読んで時間を潰す。
そう言えばもう祷との出会いから一年近い。世間で生まれた日を誕生日として祝うらしいが、祷の喜びそうなものと言えば本以外思い付かないし、それなら望むだけ与えている。
誕生日ケーキも祷の口には合わない。ご馳走を造るとしても祷の胃の内容量も成人女性一人が限界に近い。
悶々と悩んでいるといつの間にか数時間が経過し、今度こそ祷の目が完全に開いた。
「ハク、おはよう」
「おはよう」
ちゃんと挨拶もできて一人で洗顔し、着替えられる。うちの祷は天才かもしれない。朝食のとき、埒が明かないので思いきって本人に聞いてみた。
「祷、誕生日に何が欲しい?」
「たんじょうびって、なに?」
「俺と祷が出会った日」
そう言うと納得はしてくれたがあの顔はやはり捻り度しても出てこないのだろう。
「う~ん、特に思い付かないなぁ」
「もし思い付いたら言ってくれ」
うん、そう言いかけた祷が思い出したように、口を開いた。
「あ、わたしの【個性】」
ドクンっ…。
心臓が脈を打った。血液が逆流して、脳に一瞬酸素が行き渡らなかった。祷の個性に関して、ずっと目を反らしていた。ドクターの言う限り、「食人」は生まれた当初からあったようで【個性】ではない。
【個性】は遺伝だと言う。もし俺の【崩壊】に似た個性なら普通の生活とは程遠い、俺のような裏社会から抜け出せないクソみたいな人生になる。
ただでさえ「食人」のことがある。これ以上枷なんて背負ってほしくない。
「【個性】、知りたいのか?」
「うん。ハクは、…いや?」
「正直な…。でも、祷がしたいことだろ? なら、どんな結果でも祝福してやる」
「わたしは、どんな個性でもハクが喜んでくれるならそれでいいよ」
早速ドクターにアポを取る。ドクターの予定で三日後に決まり、珍しくそわそわしている祷に可愛さを覚えつつ、まだ少量の不安が心の中を渦巻いていた。
約束の三日後。待ちきれない様子の祷が先頭をきってドクターの元へ行く。嗅覚が鋭い祷はドクターをイヤなにおいをするにんげんとだけ覚えていたようで再び会った瞬間俺の後ろに隠れた。
「ほほっ、そんな嫌がらんでおくれ。仕事上の特性なんじゃ」
「さっさと済ませろ」
「うむ、ハクよ。少しの間隣の部屋で待機しておいてくれんかのぉ」
「あ゛? そんな戯れ言本気で聞くと思ってるのか? ドクター」
「これは裏社会で極秘情報なんじゃ。表じゃ個性が発覚して検査するのが普通でな。発覚する前の検査には徹底した情報管理が必須なんじゃよ」
このまま何を言おうと引き下がることがなさそうなため仕方なく隣の部屋でいつでも戦闘態勢に入れるよう待機する。
十分後、隣の部屋から祷が走って出てくる。その顔は喜色満面に溢れていた。
「ハク! わたしね、【亜空間創造】だって!」
「そうか。よかったな」
俺と似た属性のようだが、まだ己の意思で発動が可能ならそれほど良いものはない。
「やり方はいまいちわかんないけど、あのにんげんが言うには『四次元』を意識するんだって。…よじげんってなんだろうね?」
「まだ祷には早い。少しずつ教えるから、今日はもう帰ろう」
「うん!」
拭いきれないいささかの個性への不安を残して、俺たちは家へと帰っていった。




