21 祷(いのり)の食事
約束した時間帯に、ドクターの元へ訪れる。相変わらず複数の匂いが充満して気持ち悪い。
「ドクター」
「なんじゃ、ハク」
「もう祷を外に出していいか?」
俺がそう言うと、ドクターはまるで待っていたかのように笑みを浮かべた。
「そうじゃな。理性も十分に揃っておるようだし、そろそろ頃合いかの」
もうこの頃には命令内容から情勢を知り得なかった俺に、ドクターの【頃合い】に含まれる意味を悟れる術はなかった。そんなことも知らず馬鹿みたいに踊らされた俺は、帰ってすぐ祷の所に向かった。
「祷、外に出るぞ」
「え、え?! な、な、…なんで急に?!」
「いいから。ほら、行くぞ」
今まで触れることのなかった檻を壊し、祷と初めて仕切りなしに向かいに立つ。
「行きたくないか?」
「い、行きたい!」
そっと、俺の後ろに付き添う形で、祷はようやく外の世界に足を踏み出した。
「うっ…! ハ、ハク、まぶしいよ!」
太陽に慣れていない祷は外に出て早々ハクの影に隠れた。突然の刺激に訳がわからずぎゅうぅと俺の服を握りしめて怖がっている。
「車呼ぶからちょっと待ってろ」
影に避難させ、車を呼ぶ。数分で送られた車に乗って、以前から用意されていた家に向かう。一度も使ってないとはいえ新築のように綺麗な外装をした家に若干引いた。
けど地下も管理されて祷の食糧事情には丁度よく、家具もシンプルで気に入ってはいる。祷も大きな家というものにハシャいだのか動き回っていた。
「気を付けろよ」
「だいじょうぶだいじょうぶ~」
階段を登り降りできる体力などないはずなので二回目に階段を上がろうとしたときには流石に止めた。
「いただきます…」
「いただきます」
祷に言葉を教える癖で自然とこの言葉も口に出るようになった。と言っても俺の食事はほとんど固形物を拒絶するためサプリと飲むゼリーぐらいで、祷は言わずもがな人肉だ。
どちらもまともな食事とは言えないが、雰囲気で見ればだんらんとしている。まだ祷は自分の食事が普通とはかけ離れていることを知らない。
持っていく本も食事のシーンはないものを抜粋していたし、俺の食事にもあまり関心を向けていない。だからこそ無邪気に食べられるし、罪悪感など抱くはずもない。
俺は別にどうだもいいが、今後まともな友達を作りたいなら最も壁になるのはそれだろう。
誰だって食べている牛や豚、魚が他の人間は食べることなく、人間を主食としているなんて知ったら、それを強要されたら今まで生きてきた世界が壊れるだろう。
一度完成されてしまった固定概念は簡単には壊せない。壊せたとして、望んだ壊れ方にはできない。外の人間がどれだけ騒ごうと問題ではないが、祷が傷つくのは見過ごせない。
いつか、言わなくてはならない…。そう考えると心に変なしこりが乗っかかった気がした。




