閑話 置いてけぼり
目を塞いでも、耳を塞いでも、過剰過ぎる五感が脳に刺激を伝達し続ける。五月蝿い、五月蝿い、うるさい…。
頭にヒビが入りそう。もう録に眠れてなんかない。日に日にクマが重なって、食も細くなってる。新鮮な肉は食べれず、与えられるのは点滴のみ。
分かってる。私の『普通』は普通じゃない。でもこんな日々、檻に住んでいた頃と何ら変わらない。
ハク…、なんで裏切ったの? なんで私を捨てたの? いらなかった? 面倒だった?
…それでも私は離れたくなくて、…それ以上に捨てられたくなかったよ。
決して戻ることのない過去に溺れるのは簡単だ。だけど、今渦巻いているこの感情は、確かに【憤り】なのだ。身を焦がすような、心の臓が燃え尽きるような怒りだけが、今の私を構成している。
なんで、どうして、許せない、許さない…。負の感情が私の生きる糧であり、不安定な私を維持する原動力となる。
あの日ハクに裏切られた日から、ずっと考えている。きっとハクにもハクなりの考えがあったんだと思う。常日頃から私を裏社会から、ひいては自分から遠ざけようとしていたことにはとっくに気づいてた。
ハクのことだから、このままヴィランの娘として暮らすよりヒーローに保護される方がいいと思ったんだろう。同じようにヒーローに助けられた巧さんみたいに表の世界で幸せに、と…。
…でもね、ハク。此処では誰も貴方のように、同じ『人間』としては見てはくれないのよ。
誰も貴方のように、私を偽りでも愛してはくれないのよ。貴方に毒されてしまったから、もうこんなので満足なんてできないの。
私が当然として与えられるモノ以上に貴方が授けてくれたから、誰も私を満たしてはくれないの。
一度も抱き締めてくれなくて、頭を撫でてくれなくて、手を繋いでくれなくても、私たちの間には確かに繋がりがあったはずなのに…。
こんな置いてけぼりは酷いよ、ハク。お日さまの下は、私には眩しすぎるって言ったじゃない…。
枯れたはずの涙がまた、純白の裾を濡らした。




