9話 釣りとロケット
俺は母が俺におしゃぶりを咥えさせる場面を思い出した。いや、ただの空想に過ぎないのかもしれない。しかし、その情景は確かに頭の中に浮かび上がった。そして、けん玉やお手玉、それだけじゃない、おもちゃの山自体から懐かしい空気を感じた。
「ルカ君、目がとろけているよ?」
俺は不意に発せられたキツネの言葉にハッとした。自分の目に手を当てる。確かに俺の目はうっとりと座っていたようだ。そして、目からは少し熱を感じた気がした。
「ルカ君は不思議だなぁ」とキツネはニコニコしながら言うと、おもちゃの山にトコトコと歩み寄り、それに立てかけてあった釣竿を手に取った。「それじゃ、この釣竿ででも遊んでみる?」
キツネはおしゃぶりを山に置いたあと、キツネに歩み寄った俺に釣竿を渡した。
「釣竿の使い方はわかるのじゃ?」ヘビは馬鹿にするような語調で尋ねた。
「それくらい知っている。だが、どう遊ぶんだ?」
「そんなの川に投げ込むのに決まっているだで」
リスが当然というような顔で答えた。どうやら釣竿の用途は現世と変わりないようだ。しかし、釣り針にはエサが付いていない。これを川に投げ込んでどうするというのだ? 俺は不安な目でキツネを見てみた。キツネは何の疑いのない目でこちらを見ている。
「わかった、投げ込めばいいんだな」とりあえず俺は動物たちの言うことに従ってみることにした。エサの付いていない針がシュルシュルと谷を降りる。そして、ポチャンと音を立てて、静かに流れるオンボロ川の中に落ちた。果たしてこんなもので何が釣れるというのだろうか。すると、驚くべきことに、しばらくもしないうちに釣竿の端がぴくんぴくんと下に引っ張られた。
「さすがルカ君、かかるのが早いよ!」キツネが興奮して飛び跳ねた。
俺は急いで糸を巻き上げる。そんなに重さを感じないので、大物ではなさそうだが、意外な結果に驚き、焦ってしまったのだ。それにしても、川は俺らのはるか下にあるので、獲物を釣り上げるのに時間がかかる。俺は始めこそ焦っていたが、より急いでリールを回す。そうしてようやくかかったものを釣り上げた。それは金色に輝くハート型のロケットペンダントだった。
「わぁ! こんなキレイなもの、僕らは釣り上げたことないよ!」キツネがロケットと同じくらい目を輝かせて言う。
俺は竿を上に向け、ロケットを手元に持ってきた。ロケットは川の水滴を飾り、キラキラと輝いている。俺はその輝きに、強い愛おしさを感じた。おもちゃからもこれと同じものを感じたが、それはロケットと比べると、いくらか古いものであり、ロケットからは、今必要なものが宿っているような感じがした。
「また固まってるじゃ」ヘビが呆れた様子で俺の足を頭でつつく。どうやら俺は時間を忘れてロケットを見つめていたようだ。
「オンボロ川には動物たちだけでなく、このようなものも流れてくるのか?」と俺はハッとし、ロケットを目の前の動物たちに向けて聞いた。
「そうだよ。オンボロ川は近くで見ているだけだと何も流れてこないのに、釣りをしてみると不思議と色んなものが釣れるんだ! ここにあるおもちゃたちも、オンボロ川から釣れたものなんだよ」キツネがウインクしながらおもちゃの山を前足で示した。
「ところで、お前がさっき釣ったものはどうやって遊ぶんじゃ?」ヘビは無関心を装っているのだろうが、好奇心は隠しきれていなかった。そわそわしているのが目に見えてわかる。
「申し訳ないが、これは遊ぶものではない」俺はそう言って、ゆっくりとロケットを開いた。すると、ロケットの右側にはある家族写真と思われるものが、左側には小さな文字で書かれた教訓のようなものが入っていた。
家族写真の方は、丸い目の男の子を間に、凛々しい眉の男性と、眼鏡をかけたつり目の女性が寄り添っている写真だ。子どもは大きく腕を広げ、両親と思われる二人はどちらも子どもの方に手を添えている。とても幸せそうな家族だ。一方、左側にはこのような言葉が綴られていた。「過去の悲しみに心を打ち砕かれることなく、未来の希望を胸に抱き、そして守れ」と。
俺は写真を目にした瞬間、大きく目を見開いた。写っている男性は、俺がドングリ池で見た夢に現れた人だったからだ。ということは、この男の子は俺で、女性は母親! それを認識すると、突然自分の胸が高まったのを感じた。自分が何者かに続いて、自分がどこから来たのか知れたのだ。
「ねえ、何を見ているの? 僕らにも見せてよ」とキツネは背を伸ばして言う。
俺は興奮した手が震えないように抑えながら、ロケットの中身を動物たちに見せた。それを見た動物たちは、とても奇妙なものを見たような顔をした。
「ニンゲンがたくさんいる! もしかして、これがカゾクっていうの?」ただ、キツネだけは反応が違ったような気がした。興奮しているのは間違いないが、その中に、喜びが含まれているような、そんな感じがしたのである。




