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11話 『さようなら』は言わないよ

「何馬鹿なこと言っているだで。向こうの森へ行くには、この橋を渡るしか道がないだで。来ないなら置いていくで」とリスが吐き捨てるように言った。

「だけど、ここにいたらボクも石化しちゃうよ……」クマはおどおどして言った。

「だったら頑張って渡るんじゃな」ヘビもリスと同様の態度をとり、再び前を向いて進みだした。


 俺はクマのことを不憫に思った。クマはキツネの言う通り、非常に怖がりだった。そんな彼にオンボロ橋を渡れと言うのは酷なことだ。さらに、クマの体格ではオンボロ橋は激しく揺れてしまい、渡り切るのは至難の業だろう。だからといって、残って石化されろと言うこともできない。なら、どうすればいいんだ? 俺にできることはあるだろうか。体の大きなクマを、向こうの森へ運ぶ方法はあるか? リスとヘビはキツネの足元を通り、既に向こうの森にたどり着いた。キツネは何か考えているのだろうか。ドングリ池でヘビを捕らえたときのように、何か策でもあるのだろうか。俺は、期待を込めてキツネの方を見てみた。


 しかし、キツネの顔に良いアイデアがあるような気色はなかった。むしろ、憎悪に似た表情をしていた。眉間にしわを寄せ、目には力が入っているようで、口は固く閉ざされている。そこに、優しくクマを紹介していたキツネの表情はなかった。俺はこれまで見たことのないキツネの顔に、なぜかぞっとしてしまった。一瞬だけ、足元の揺れが激しくなったように感じた。俺はしばらくキツネを見つめ、ようやくキツネが重い口を開いた。


「クマ君、自分で言うのもなんだけど、僕は自分がそこそこ賢いと思っている。そして、君もそう思っているだろう。だから、今君は僕に助けを求めている。そうだろう?」キツネはいつもより低い声で言った。


 俺はクマの方を向いた。クマもキツネの異質な態度に気付いたのだろう、目には緊張の色が浮かんでいた。


「これから僕は君を助けるための行動をする。だけど、それは今の僕ができる限りことであって、実際は君のためにならないかもしれない。それでもいいかい?」


 クマは自分の意思とは別に、何か見えない力に促されるように、一度首を縦に振った。


「わかった、これから僕の話を聞いてもらうよ」ここで一度言葉を区切る。「さっき言った通り、僕は賢いかもしれない。君が来る前にもヘビを捕まえるために策を練り、小さなアクシデントがあったものの、機転をきかせて、見事取り押さえるのに成功した。だから、今の状況も僕が頭を使うことによって君を助けられると思った。そして実際に考えた。そうすると、たった一つしか打開策が見つからなかった」再び言葉を切った。「クマ君、君が自力で橋を渡ることだよ」


 キツネがそう言うと、クマの顔が青ざめた。絶望と恐怖の色が表情に滲み出ている。彼は、心の優しいキツネに慈悲のないことを言われ、見捨てられたと思ったのだろうか。確かにキツネの言うことは冷酷だ。しかし、二匹の真ん中で聞いている俺は、ただそうとは思わなかった。キツネの語調には、他者を見捨てるような冷たさは含まれていない。むしろ、強く、勇気を与えるための燃えるような声色だった。


「生きていれば、どうしても他者から助けてもらえないという絶望的な状況に陥ることがある。そこに善意があろうがなかろうがね。今君はまさにその状況に陥っているんだ。つまり、僕は直接君を助けることはできない。ただ、君に勇気を与えることしかできないんだ。クマ君、勇気を出すんだ。これが、僕の最大限できることだ……」


 キツネが言い終わると、出番を待っていたかのように、川のせせらぎと森のざわめきが俺たちを覆った。俺はどこに目を向ければいいのかわからなくなった。クマを見ると、水の中で溺れていたところを引き上げられたような顔をしていた。キツネを見ると、彼が再び前に向き直ったところだった。リスとヘビも呆気にとられた顔をしている。ここまでストイックなキツネを見るのは初めてなのだろう。


「もし君が自力でこちらに来てくれたら、もちろん僕は嬉しい。逆に来れなかったら、僕は悲しいよ。だけど、仕方がなかったとすぐに諦めてしまうかもしれない。君が決めるんだよ。君の命の行く末は、君にしか決められないんだ」とキツネはクマに背を向けたまま言い、再び橋を進みだした。そしてこう付け加えた。「『さようなら』は言わないよ」



 *



「おいおい、いいんだで? 友だちを見捨てて」リスが歩きながらキツネに問いかけた。その語調にはいくらか哀れみが含まれているように感じられた。


 俺たちは無事オンボロ橋を渡り切り、北に向かって歩いていた。


「僕はクマ君を見捨てたわけではない」キツネは毅然として答えた。彼の歩を運ぶ速さは、目に見えて速くなっており、歩幅も明らかに広くなっていた。

「じゃあ、どうして置いてきたんじゃ?」とヘビも尋ねる。


「僕がクマに言った通りさ」依然として前に進み続ける。「生きるためにはオンボロ橋を渡らなければいけない。それを渡るのはクマ君以外の何者でもない。橋と向き合うのは僕や他の誰でもないんだ」

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