表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰のレン  作者: K3/KASANE
カラス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/57

第28話「名前のない墓」


 塒へ戻った。


 火はまだ残っている。


 俺は肩の傷を洗った。


 冷たい水が沁みる。


 深い。


 だが、骨までは届いていない。


 針を火で炙る。


 糸を通す。


 鏡はない。


 感覚だけで縫う。


 一針。


 二針。


 三針。


 痛い。


 痛いが、慣れている。


 医者は、自分を縫う練習まではしない。


 だから毎回、下手だ。


 結び終える頃には、額に汗が浮いていた。


 横を見る。


 子が見ていた。


 瞬きもせず。


 俺の肩だけを見ている。


「見るな」


 言っても、見ていた。


 やがて子は、自分の脇腹へ触れた。


 俺が縫った場所だ。


 それからまた、俺を見る。


 ……比べているのか。


 自分の傷と。


 俺の傷を。


 ◆◇


 翌朝。


 俺は鍬を持った。


 子がついてくる。


 林へ向かう。


 昨日、死肉食らいと戦った場所だ。


 三体いた。


 残っていたのは二体だった。


 頭を潰された一体。


 もう一体は、首から上が半分なくなっていた。


 仲間に食われたらしい。


 獣より始末が悪い。


 俺は黙って穴を掘り始めた。


 土は固い。


 霜が残っている。


 鍬を振るうたび、肩が痛んだ。


 それでも掘る。


 子は見ている。


 何も言わず。


 何も分からないまま。


 穴ができた。


 俺は死体を落とす。


 土を戻す。


 踏み固める。


 墓標は立てない。


 名も知らない。


 誰だったのかも知らない。


 だから祈りもしない。


 ただ。


 獣に食われるよりは、ましだと思った。


 それだけだ。


 子は土を見ていた。


 不思議そうに。


 食べないのか。


 そんな顔だった。


 胸が痛む。


 そうか。


 穴では、死体は食料だった。


 埋めるものじゃなかった。


 この子は、それしか知らない。


 ◆◇


 帰り道。


 兎が一羽、罠にかかっていた。


 暴れている。


 まだ生きている。


 俺は短刀を抜いた。


 首筋へ当てる。


 一息。


 それで終わる。


 苦しまないように。


 それがせめてもの礼儀だ。


 子は、それも見ていた。


 血が流れる。


 俺は黙って手を合わせた。


 前世の癖だ。


 祈る相手なんて、もういない。


 それでも。


 命を貰うなら。


 何も思わないよりは、いい。


 顔を上げる。


 子が真似をしていた。


 小さな両手を胸の前で重ねている。


 意味は分かっていない。


 ただ、俺の真似をしている。


 それだけだった。


 少しだけ。


 胸が熱くなった。


 ◆◇


 塒へ戻る。


 兎を捌く。


 肉を焼く。


 二人で食べる。


 子は今日も隅へ下がった。


 けれど昨日より、少しだけ近かった。


 ほんの一歩。


 それだけだった。


 その一歩を。


 俺は何も言わずに見届けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ