おかえり
(ああ、かなわないな)
シャルドは素直にそう感じた。
疲れによる錆が落ちたように微笑む両親の顔を眺める。自分が決して愛されていない訳じゃない。
だが、自分ですらあって間もない彼女を姉と思いつつあるのに、両親が彼女を愛さない訳ないだろう。
だから、彼女を恨むまい。死からの生還はむしろ喜ぶべきものだ。
客観的に見てもナオの存在は、デユーイーン家だけでなく、それを取り巻く者達にも利益を与えることになるだろう。
だが、今は政治的な観点は置いて、家族としての幸せをかみ締めよう。
直の親に対する感情というものは、13年前から凍りついたままだった。甘えると言うことを知らずに育った。
今の直には、"直"と"ナオエリューシア"との境界線が無く……ただブオドとリオにベッタリとしていた。
幾度と無く、ブオドが真面目な顔をしてから語りかけようとするも、その子犬のような顔をされると、頭を撫でることしか出来ない……その無限ループを幾度と無く繰り返した。
「そうだ、ナオ」
「はい、母様」
リオが助け舟を出す。
「貴女の服を仕立てないとね。測ってあげるわ」
先程まで無邪気に笑っていた顔が凍てつく。
「い、え、私は……」
我に返ったナオは何とかそれを防ごうとする。
「あら、そうはいかないわよ。貴女も令嬢なのよ。やっぱり、可愛い服を見立てないと」
半ば強引にリオはナオの手を引いて行く。
――まずは、シャルドに状況を説明してあげて。
リオの目はそう語っていた。
疲れがどっと出る。
ブオドは腰掛けた椅子で、フウと息を抜く。
「お疲れ様でした、パパ」
「……パパっていうな。言っていいのはナオだけだ……」
男にそんな呼ばれ方をしたくない、とブオドは義息子に対して軽口を叩く。
「そのご様子だと、大層お疲れのご様子ですね」
「まったく、どいつもこいつもあの娘をなんだと思ってるんだ」
ブオドは上を仰ぎながらそう言う。
「各所が利権を求めてきましたか?」
「ああ、今までが実質教会が利益を得てきた分、あちこちから言われた」
ブオドは静かに怒りをあらわにする。握った拳が震えている。
「俺は……ただあの娘に幸せになって貰いたいだけなのに」
そう嘆く。
「10歳を超えたら学校に通い……友を作り、自分のやりたいことをゆっくりと見つけて欲しかった」
「そうは……行かなかったのですね」
ナイディールでは、子どもの教育は10歳から始まり、最長で25歳まで学園に通うことになる。
ナオがそうなれば15年もの間、ナオが……というより、リターンズとアーマジュエルが学園側に預けられることになる。
それは、教会と政局が許さなかった。
「あの娘は、激しい波に飲まれるかもしれない」
それだけではなく、デユーイーン家周辺の家督問題もそこに含まれる。
ブオドはあえてシャルドには言わなかったが、彼自身それは把握している。
「僕も協力しますよ。姉様が平穏幸せに暮らせるように」
「そうか……」
ブオドは疲れきった顔で微笑んだ。
一方、リオに連れていかれたナオは……と言うと
「ッーーーー!!」
それはもう声にならない悲鳴を上げるばかりであった。




