ある神官の成長日誌 〜ジュール編・そのさん〜 29
「ふうー」
借りていた部屋に入り、閂をかけた瞬間、バルナスの膝が落ちた。
「ば、バルナス様?!」
ジュールが、慌ててバルナスを抱き起こした。
「大丈夫……緊張の糸が、切れただけだから……」
「ベッドへ!!」
ジュールがバルナスをベッドに放り込もうとした。
「その前に、マットレスに毛皮かけよう……」
部屋の中の物干し紐にかけられていた毛皮を指さした。
「こんな時に!」
「こんな時だから……こそ」
バルナスは毛皮を紐から下ろした。
「はい。そっち持って……」
この世界の寝具は……。木で出来たベッドの上に、マットレスを敷いたものである。マットレスというのが……麻で作られた袋状のシーツの中に、藁を詰めたもの。
そのまま寝転がると、かさかさ煩い。また、シーツを貫通して藁が刺さる。
そのままでは不快なので、マットレスの上に毛皮を敷くのが一般的。毛皮は……一般的には有料オプションである。(少し高級な宿では、毛皮が無料となる。もっと高級な宿だと、藁の代わりに干し草とハーブが詰められる)
バルナスとジュールは、毛皮の毛の面を上にしてベッドに敷いた。そのまま、2人でベッドに倒れこんだ。
毛皮表面の柔らかい毛が、2人を優しく包み込む。
ちなみにこの毛皮……バルナスの私物である。油鞣しが施された、高級品である。(普及価格帯は、燻製鞣しである。燻製鞣しは……煙くさい……)
「ジュールを安静にさせるつもりが……僕が先に倒れちゃった……」
バルナスは力なく呟いた。
「私は、どこにも行きません! 常にバルナス様の御傍におります!」
「知ってる……」
バルナスの瞼が、落ちた。ジュールは、そのまま愛する主人に抱き着いていた。




